海を越える青 ◇ラピスラズリ◇

1. 真夜中の声

 あたし、親、殺しちゃうかもしれない。


 そんなメールが俺の携帯に入ったのは深夜三時を少し過ぎた頃だった。

 遅い時間の方が筆がのる俺は、明日も会社があるというのにどうしても止めることが出来なくて、気が付くとこんな時間になっていた。

 いい加減、寝ないと明日が辛いな。

 強張った肩を、腕を回してほぐしながら、俺は椅子から立ち上がる。そのタイミングで携帯が鳴ったのだ。


「……愛海あみ?」

 携帯のディスプレイをみつめて、俺は思わず顔をしかめた。穏やかじゃない文面も文面だが、しかし、何だって俺にメールしてくるんだ?


 愛海……奥田愛海は高校時代の後輩で、季節に関係なくいつもフードの付いた白い長袖パーカーを着ているちょっと変わった感じの女の子だ。

 俺が不定期に開催するささやかな個展に必ず来てくれるありがたいお客でもあるのだが、しかしこんな意味深長なメールを送られるほど親しい間柄ではない。

 誤送信を疑いつつ、とりあえず返信してみた。


『おいおい、物騒なこと言うなよ。とにかくもう寝ろよ。朝起きたら気分も変わってるって。ところでこのメール、誤送信じゃないの? 俺、河合拓未かわいたくみだよ?』


 数分後、愛海から返信が来た。


『誤送信じゃないよ、拓未先輩。それにもう遅い』


 は? 遅い?

 自分の想像に、すっと体から血の気が引いた。

 まさか……。

 


 父親が鈍器で殴られ意識不明の重体、同居していた二十二歳の娘は行方不明、母親は入院中で不在だと、翌朝のテレビがひとつのニュースを伝えていた。

 警察は事情を知っているとみて、その娘の行方を追っているらしい。


「愛海、どうするんだ?」

 俺は思わず、問いかけていた。

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