第10話 お尋ね者、ひとりになる。



 翌日、私は武器屋に武器を仕入れに行ったり、念の為に防具屋に防具を見に行ったりした。


 粗方の武器の仕入れが終わったのが丁度昼時だったので、私はいつもの酒場に行ってみることにした。



「まだ誰も来てへんか……」



 昼時と言うこともあり、酒場は昼食を楽しむお客で賑わっていた。


 しかし、いつものテーブルだけは誰も利用していない。


 私はいつも通りにいつものテーブルに着くと、従業員おばちゃんに料理とエールを注文した。




 ***




 …………。



 夜も更け、店内に残るお客は私一人だけになっていた。



「……誰も来んかったな」



 結局、酒場の閉店時間まで私の所には誰も来なかった。


 ジョッキに半分程残ったエールを喉の奥に流し込み、私は宿に帰った。




 ***




「ねえ、かおるちゃん」


「ん? どないしたん、おばちゃん?」



 翌日も酒場で昼から一人でエールを嗜んでいると、従業員おばちゃんがテーブルにやって来た。



「この間持って帰ったお皿、そろそろ返して貰ってもいいかしら?」


「ああ、忘れとったわ」



 一週間程前にここで注文した料理をアイテムボックスに入れて持って帰った事があったのだ。


 あの時は夜食用に持って帰ったのだが、流石に一週間も放置していたら腐っているだろう。


 私は、恐る恐るアイテムボックスから料理を取り出した。



「「え?」」



 私と従業員おばちゃんは同時に驚いた。


 取り出した、皿に乗せられた蒸かし芋から湯気が立っていたのだ。



「これ先週、作った料理よね?」


「そ、そやで……」



 私は意を決して蒸かし芋それを食べてみた。



「……さっき出来た料理みたいや」



 私の言葉に驚いた従業員おばちゃん蒸かし芋それを手に取り食べる。



「本当ね。一週間前の料理と思えないわ……」


「お取込み中の所、失礼する」



 私達が驚愕の発見に言葉を失っていると、いつの間にか正規兵おかみがテーブルまでやって来ていた。



「カオル=アサヒナ。貴様に令状だ」


「そりゃどうも」



 正規兵おかみは丸められた証書の様な紙を取り出し、それを読み始めた。



 『令状』


 『カオル=アサヒナ。貴様にバーウィッチからの退去を命じる』


 『期限は一週間以内』


 『期限が過ぎても令状に応じない場合、貴様を強制的に退去又は排除する』



 正規兵おかみは令状を丸め直し、私に手渡した後すぐに店を出て行った。



 …………ッ。



「ジョゼの言ってたのか……」



 私は令状を握りつぶし、投げ捨てた。




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