第51話 二度目の告白。そして…

 これまでに、思いを伝えようとしたことは何度もあった。

 あったのだが…。

 お互いに、どうしようもないくらい臆病なのだ。

 おかげでいつもいつも沈黙という名の大きな圧力に敗れ、次の言葉が出せず終い。

 よってその先に進めない。という負のパターンを成立させてしてしまっていた。


 パターン成立げな…そげなもんバス釣りだけでいいのに…。


 とは、二人の心の声である。




 先が見えない展開が続き過ぎて、自分らのヘタレ具合にもたいがいで嫌気がさす。

 そしてこの日、ついに限界を迎えることとなったのだ。


 いつもの如く、午前中から出かけ、存分に楽しんだ帰り道。


「要くん?ちょっと寄り道していい?」


 最早、完全にお約束の展開と化していた。



 お気に入りの場所に着き、クルマを停め、しばらく駄弁っていると、自然とそんな雰囲気になってくる。

 パターン初期段階の発動だ。

 普段だと、この少し先でヘタれ、諦める。

 今日こそはそんなふうになりたくないから、


 どげんかせないかん!っちゆーか、どげんかするぞ!


 互いに同じことを考え、フルパワーで空気を読み、動き出すタイミングを計る。


 なんとか決心し(実はあんましできてないけど)、先へと進もうとしたとき、毎回の如く登場するネガティブな自分。


 もし、ダメやったら?


 と、今回も声をかけてくる。

 いつも断念するキッカケになってしまう言葉。

 これまで散々邪魔してきやがったクソな言葉だ。

 意識してしまうと急速に恐怖心が芽生えてきだす。

 ダメだった場合、今のような関係は完全に崩れ去る。そして二度とは元に戻れないだろうことが、容易に想像できてしまう。

 恐怖心は爆発的に大きくなり、震えが止まらなくなりやがる。

 そして…


 今のまんまで良くねぇ?


 諦めの呪文。

 この言葉にやられてしまうと、一気にテンションが下がり、パターンが成立してしまう。

 というワケで二人、只今ネガティブな思考とモーレツに格闘中。



 このままだと、またパターンが成立してしまうことになってしまうから、今回は別の方法を試すことにした。

 その方法とは、これまでにあったポジティブになれる出来事を思い出すこと。

 改めて思い出してみたトコロ、それはプラスの要素ばかり。


 どう少なく見積もっても両想やん。疑う余地やらない…よね。ゼッテー大丈夫!


 再度、気合を入れ直すものの、


 大丈夫…のはず。


 やっぱり、少し弱い。

 心を落ち着けるため、大きく深呼吸。


 もういくしかないっちゃ!それとも何?このまんま今の関係ダラダラ続けるつもり?


 動きだせずにいる自分に、発破をかける。

 すると、ポジティブな自分が一瞬優勢になった。ネガティブな自分が僅かに怯む。

 その隙を突き、実行に移す。



 先に動いたのは葉月。


「ねぇ…要くん?」


 なんとか切り出せた!今日こそイケるのか?


「ん?」


 既に心臓はバクバクである。


 ガンバレわたし!


 自身にエールを送る。

 緊張による震え。

 まったく治まる気配がない。

 いつもの如くヘタレそうになるが、


「ウチが…向こうに行く前の日言ったコト…覚えちょー?」


 今回はそのピークが訪れる前に、次の展開へと持ち込むことができた。


 よし!今までより先に進めた…気がする。


 要はというと。


「…えっと…」


 思い当たる節はある。というか、超絶嬉しかった出来事だったから、忘れるなんてできるわけがない。


 覚えちょーよ。


 そう口に出そうとした時、


「あれ、今でも生き!いっちょん変わっちょらんっちゃ!要くんのコト、でったん好いちょーっちゃ!ウチと付き合って!彼女にしてください!」


 畳み掛けるように、二度目の告白。


 泣きそうな目で見つめる。


 告られた瞬間、「しまった!」の顔になってしまう要。


 二回りも年下の女性に、こんなにも大切なことを言わせてしまうとか…年上としてどーなん?


 自身に問いかけてしまっていた。


 またか…。オレ…サイテーやな。せめてここはリードしときたかったな。


 自己嫌悪に陥りそうになる。

 とりあえず、グダグダになりながらも、


「あ…えっと…うん。こちらこそ…どーぞ、よろしくお願い致します。」


 緊張しすぎて敬語になってしまっていた。


 うっわ~…でったんカッコ悪いき。


 年上の威厳なんかこれっぽっちもあったもんじゃない。


 とはいえ。


 長い間夢見ていたコトがついに現実のものとなった。

 今あったやり取りを理解し、深く心に刻んだとき、爆発的に喜びの色へと変化していく。


「ホントに?ありがと!」


 上がるテンション。

 これまでにないほどの笑顔で抱きついた。




 抱きつかれたまま考える。


 あんだけ辛い思いさせてきたんに、ただ付き合うだけでいいんか?


 これまで煮え切らない態度しかしてきてないことを猛烈に責めていた。


 今度はオレが勇気出す番やろ。

 葉月ちゃん、おらんくなってどうやった?

 またあんな思いしたい?


 自らに問いかけた時、葉月が関東へと旅立った後の、虚しくて寂しい日々が鮮明に甦る。


 もう、あげな思いすんのはイヤ!

 この先、ここまでオレのこと本気で考えてくれる人とかゼッテー出てこんやろ。


 そう考えた時、


 ずっと一緒におって欲しい!


 呆気なく答えが出た。

 というか、そもそも答えなんか、とうの昔に出ているのだけど。




「バツイチ子持ち」という、初婚の、しかも若い女性にはあまりにも申し訳なさ過ぎるオプション。

 おかげで散々決心を鈍らせてきた。

 でも、全てを受け入れてくれた。


 ならば!


「…っちゆーか…あの…彼女やないで、嫁さん…とかじゃ…ダメ?」


 これまでの不誠実な態度をチャラ以上のモノにするには、この答えである必要がある。


 今度は葉月が驚く番。

 完全に想定の範囲外である答えを貰ってしまったため、喜びの表情から一転、驚愕の表情へと変わる。

 そして、涙。


「…え?…ホントに?ホントに…ウチでいーと?」


「当たり前やん!葉月ちゃん『で』いいんやないで、葉月ちゃん『が』いいと。これからずっとよろしく!」


 力強く応えると、


「うん!」


 泣きながら再度力強く抱きしめる。それをしっかりと抱きしめ返す。

 そして…そっと目を閉じ、唇を重ねた。


 二度目のキスは、これまで生きてきた中で最高に嬉しい出来事となった。



 帰ってこのことを陽に報告すると、


「うそ?マジで?葉月ちゃん、お母さんになってくれるん?」


 高校生になったにもかかわらず、素直に喜んだ。



 それからは全てが早かった。

 互いに猛反対する両親を説得し、納得させ(諦めさせ?)入籍。式場を決めた。

 友人や同僚からは驚かれ、結構な騒ぎになったけど、普段から仲が良かっただけに、割と早い段階で落ち着いた。




 といった感じで二度目の結婚生活が始まるのだった。

 始まってしまうと、これがまた幸せで!

 ちゃんと思いが通じ合っているものだから、生活自体の質が違う。前回の結婚生活とは心の在り方そのものが決定的に違うから、どこか惰性で妙に冷たい部分というのが無いのだ。


 新たな生活が始まってからも尚、幸せイベントの連鎖は続く。

 結婚式の段階ではまだ判明していなかったのだが、なんと、お腹の中に新しい生命が誕生していたのである。

 かなり年を食ってからの子供なので、成人するのは定年退職したずっと後になる。自らの年齢を考えた時、不安は無いのか?と問われれば、完全に無いなんて言い切れない。

 けどでも。


 最愛の人との血のつながりは、絶対にあってほしい!


 互いが強く願ったうえで実を結んだ結果なのだ。

 その意味を考えると、不安なんかどこかに消し飛んでしまうから不思議なものである。

 正直、楽しみの方が圧倒的に大きい。


 と、いうワケで。


 長かったバツイチ子持ち生活は、めでたく終了。

 出会ってからこれまで、ずっと一途に思ってくれていた嫁さんには、ただただ感謝しかない。


 今度こそは幸せな家庭を築いていく!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バツイチ子持ち。 Zee-Ⅲ Basser @1kd-ftv

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ