第43話 大学生の時はこげな感じ。釣り編

 新しい生活が始まり約一カ月。

 慌ただしさもすっかり落ち着き、心の余裕も少し出てきた。それと共に友達も増えてくる。

 夕飯が終わると、誰かの部屋に集まり寝るまでの間駄弁る、というのが定番となりつつある今日この頃。


 この日もいつもの如く盛上っていると、同じ科の仲良しが、


「それはいーとして。ねぇ葉月、これ…」


 隅っこに立てかけてあったモノに気付き、指をさし、


「バス釣りやってんの?」


 聞いてくる。


「へ?あ…うん。するよ。」


 考えもしなかった方に話題が飛んで、ちょっと戸惑ったけれど肯定。

 すると、一気に嬉しそうな表情へと変わった。

 そして、さらに


「へー。なんでまたバス釣り?」


 聞いてくる。


「ウチの地元、バスおる川が近いん。だき、自然と?」


 この答えはちょっとウソ。

「自然と」なんかじゃない。大好きな人がやってなかったら、バス釣りには出会えていない。でも、ここはあえて隠しとかないと、正直に話してしまったら高確率で恋バナへと話題が飛ぶ。この流れは変えたくないし、そっち方面で盛上られるのはイマイチ恥ずかしい。というか、彼氏じゃないのに彼氏として盛り上がられると純粋に悲しくなってくる。

 ハナシを逸らすため、続けざまに、


「でもあんた、これがバス釣りの道具っち、よぉわかったね?」


 聞いてみると、


「私もやってるんだ。」


 だそうで。


 まさか、こんな身近にバス釣りする女子がいたとは!


 思わず感動してしまう。

 釣りのハナシはなおも続く。


「へ~。どんな流れで?」


「ん?彼氏の影響。ついてってサオ借りてやってたら、ビギナーズラックでいきなり釣れちゃって。それ以来ハマってるって感じかな?調子にのって自分のタックルまで買っちゃったよ。」


 そりゃそーよね。フツー、彼氏とか旦那おらんと、バス釣りとかしようと思わんよね。


 なんてことを考えていると、その友達が、


「そーだ!今度、みんなで行ってみよーよ!近所にバスいる池と川あるし。」


 提案してくる。

 学校周辺のフィールドは、上京する前ネットで調べたから知っている。学校に慣れ、気が向いたら一人で行ってみようと思い、道具を持ってきたのだ。

 みんなの反応はというと。


「マジ?やる!」


「私、前からやってみたいと思ってたんだ!」


「いつ?いつ?」


 意外なことに、ココにいる全員が食いついてきた。


 新しく出来た友達と釣りとか…でったん楽しそうやん!


 考えただけでもワクワクが止まらない。

 色んな楽しいシーンを想像している間にも、日時や場所などがどんどん決まっていっている。

 実績のあるルアー、釣り方などといった具体的な内容へと話題が移っていき、ある程度、フィールドの厳しさや、釣り方がイメージ出来てきた頃。


「葉月の地元って福岡県なんでしょ?じゃ、家の前の川って遠賀川だったりすんの?」


 友達の口から思いもしなかったフィールド名が。


「…え?あんた、なんで遠賀やら知っちょーん?」


 目を真ん丸にして驚いていると、


「知ってるよ~!トーナメント会場だし。釣り専門チャンネル見てたら、結構出てくるよ?」


 当然!といった顔をしてその理由を話しだす。


 マジで~!遠賀っち、そげん有名な川やったって。そーいや要くん、た~まにテレビ来とるっち言いよったもんな。


 大好きな人が言っていたコトを思い出した。


「へ~。そーなんて。ウチ、全然知らんやった。」


「羨ましーな。遠賀で釣りしてみたい。」


「厳密にゆーと、ウチの前の川は遠賀やないけどね。正確にはその支流。」


 川の名前を出すと、


「あ!その川も知ってる!スゴイアワーとか、Make?!とか、弾丸バスボーイとか、ザ・フィッシングなんかにも出てた。」


 聞いたことある番組名がずらっと出てきた。


 へ~。いっぱいテレビに出たことあるんやな~。


 とか、感心していると、


「いつか案内してよね!絶対だからね?」


 キラキラした顔を向けられ、念を押されてしまう。

 釣らせてあげられる自信が無い。

 まだ行ってもないのにプレッシャー。

 とりあえず、


「釣れんよ~。ウチ、今まで大概粘ったけど、これまでに10本釣ったかな?っち感じばい。」


 釣れないことをアピールしたら、


「そんなに釣れないんだ?でも、やってみたい。あのコンディションのいいデカバスに会えるなら頑張れるよ。」


 ポジティブすぎる意見が返ってくる。


「わかった。そんかわし、釣れんっち文句ゆーのは無しね。」


「ゆーワケないじゃん!」


 といった具合で、この日は寝るまで釣りの話で盛上った。

 初めて同年代女子とした釣りトーク。


 こんなにも楽しいものだったとは。




 それからしばらくして。

 ついに実釣の時が来た。

 場所は、一番近くの川。

 護岸されていて、足場が良く、ポイントの規模も大きい。草がはびこる時期にもかかわらず、踏み固められており草丈も低く、水際まで辿り着くのも楽ちん。

 駐車スペースもすぐ近くにあって、オカッパリにはもってこいの場所だ。

 見た感じ、遠賀川の菜の花橋下流にあるオカッパリポイントに似てなくもない。

 この辺では有名なポイントなのか、他にも釣り人がいる。


 足場も天気もいいため、この前釣りの話が上がった時、部屋にいた友達はほぼ全員参加。

 釣り場に若い女子のみの集団がいるのは、かなり珍しいことなので目立ちまくる。

 この中で、釣りをするのは二人。自分とこの前の友達だ。


「ねぇ。ここ、どんなのが効く?」


「う~ん…私はワームでもプラグでも釣ったことあるよ。」


「じゃ、どっちする?」


「プラグかな?反応する魚いたら勝負早いし。」


 そんな友達が選んだのはクランクベイト。ダイワの超ロングセラー、ピーナッツⅡ黒金。


「なら、ウチはワームする。」


 スピニングで4インチカットテール、プロブルーのストレート掛け。スプリットショットリグ。

 釣り方を極端に変え、釣れた方に合わせる作戦だ。

 お互い真横に投げて届かない程度の距離を取り、釣り開始。


 一投目の感想。

 意外と深い。底を取るまでにかなりの時間がかかる。

 底を取ると、ズル引いたり小刻みにしゃくったりしてみる。

 所々に引っ掛かる何かがある。


 石?ブレイクのショルダー?根掛かりには気をつけよ。


 底の様子を考えながら友達の方を見てみると…黙々と投げては巻きの繰り返し。

 釣れてはないみたい。


 投げ続けること一時間。

 沈黙を破ったのは葉月。

 先程から引っ掛かっている「何か」に当たって、外れた瞬間食った…ものの、居食い。モッ…と重くなるだけの変化しか現れない。


 あれ?重くなった?


 巻くのを止め、少しサオ先を上げると、


 グッグッグッ…


 ゆっくりと絞り込んでいく。


 食った!


 サオを鋭くあおり、アワセを入れる。

 すると、


 ジ―――ッ!


 一気に糸が引出された。


「うわっ!来たばい!」


「マジ?」


「すげー!葉月!」


 かなり重い。

 ドラグを滑らせながら、必死で巻き取る。

 対岸方向に向かって走る魚。

 突如重さが失われていく。


 やべ!飛ぶ!


 急いで糸を巻き、テンションを一定に保つ。

 直後、


 ガバガバッ!


 エラ洗い。


「ひえ~!」


「すげー!葉月。」


「こんなにスゴイの?」


「そーとーデカくない?」


 周りの友達もテンションが上がっている。

 初めて掛けた関東の魚。


 バラしたくない!


 突っ込んだり、横に走ったりするのを必死でやり過ごす。

 動きが止まると、ドラグを滑らせながら巻く。

 これを何度となく繰り返し、やっと足下まで寄せてきた。


「デケー!」


 感動してくれている。なんか、でったん嬉しい。


「これ、どーやって取るの?」


 今日は、ハーパンだ。寝そべってもパンツが見えてしまう心配はない。

 躊躇なく寝転んで、魚へと手を伸ばす。

 さらにサオを高く上げ…口に左手親指をねじ込んで…取った!


「うわ~!すっげ~!」


「葉月、上手いじゃん!」


 友達からの拍手が嬉し過ぎ。

 ホントのこと言うと、オニのよーにテンパっていた。いつバラすかと冷や冷やしていた。

 でも、よかった。

 誘った友達は、


「よかったー、釣ってくれて。」


 安堵のため息。

 とりあえず、指を広げ大きさを測ると40cmあるかないか。サオの横に置いて、正確な大きさを測る(帰って測ると38cmだった)。

 傷のないキレイな魚だ。

 スマホのカメラを起動し記念撮影。

 そして、バス持ちして写す。


 普段、生きている魚と接することのない友達は、口に指を入れバス持ちしている光景を見て、


「ねえ葉月?歯、痛くないの?」


「噛んだりしない?」


 聞いてくる。


「ん?ザラザラするけどそんなに痛くないよ。持ってみる?」


 一旦草の上に魚を置くと、何人かの友達は恐る恐る突いてみたり、口に指を入れようとしてみたり。その度暴れてビクッとなり手を引っ込める。

 軽く押え付けてあげて


「親指入れて、アゴしっかり握って持ち上げて。」


 アドバイスすると、どうにかこうにか持ち上げることができたので記念撮影。

 勇気のある友達数名が、スマホのカメラを起動させ、順番に記念撮影する。

 撮り終ったので、そっと水に浸けてあげると、一瞬フワッと漂った後、勢いよく深場へと消えていった。



 それから数時間。

 頑張ってはみたものの、結局この魚だけ。

 ボチボチ日も傾いてきたので撤収することにする。

 帰り道、


「なんか、釣り…すごいね。」


「面白そう。」


「私も道具買おうかな?」


「自分にも釣れるかな?」


 全員が釣りをやる方向で考えていた。

 そんなやり取りに対し友達が、


「それならば!これからこの集まりを『女子釣り部』とゆーことにしよー!」


「いーね!」


「やろやろ!」


 この釣行がきっかけとなって、非公式の部活っぽいことをするようになった。

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