第42話 婚活

 片親での子育て、というのは正直かなり難しい。

 パートナーとの分担ができないため、色々な問題が浮上してくる。

 例えば、学校行事のコト。

 行事と抜けられない仕事がカブる、といったことは普通に起こる。

 今は小学生なので家の者に頼めばいいが、中学生ともなると、進路相談なんかも始まり、学校に行く機会がさらに増える。重要なことなので、先生とは直に話がしたい。

 こんな時に出張なんかが絡むと、非常に困る。


 役場や銀行の用事も、日時を指定されると困ることがある。


 同じ目線で子供のコトを相談できないのもかなり堪える。


 あと、いないと純粋に寂しい。これがある意味いちばん大きい問題かも。


 本気で考えないといけない時期に差し掛かっている。




 葉月が上京した年の秋。

 母親が知り合いの娘を紹介すると言ってきた。

 が、そんな気分にはなれなかったので、すぐに断った。


 それから数か月。

 上司から、「取引先の女性を紹介しようと思っているけど、会ってみないか?」と、話を持ちかけられる。

 心境は変わっていないため、申し訳ないが断った。


 実を言うと、この類のハナシは離婚直後からずっと続いている。周囲からかなり心配されていたりするのだ。気にかけてもらっているのはありがたい。が、どうにも会ってみる気にはなれない。



 上京して三年という月日が経った頃。

 会うことは完全に無くなった。

 連絡も極々たまにしかない。


 自然消滅。


 いよいよその言葉が現実味を帯びてくる。

 段々と心が不安定になってゆくのがわかる。


 かなり自分に自信が持てなくなった、そんなある日。

 帰宅するなり母親から


「ねぇっちゃ?」


 呼び止められる。


「な~ん?」


 立ち止まると、


「ちょっと話があるんやけど。こっち来てん?」


 この切り出し方は…


「あんた、ボチボチ本気で再婚考えてみらんね?」


 やっぱし。


「はよ結婚しちゃらな、陽が可哀そうばい?」


 陽のコトを出されると、どうにも弱い。


「…あ…うん…。」


 と、生返事。

 毎回こんな感じなので、芳しい返事じゃなくても、


「友達がね、娘さん結婚考えちょってね。出会い無いき、誰かおらんやか?っち言いよんよ。だき、あんたにハナシしてみるっちゆっとった。どげんね?会ってみらんね?その人、歳は37歳でね、仕事は…」


 とりあえず具体的なハナシは一通り聞かされる。


 離婚して5年。

 断り続けることの申し訳なさ。

 自然消滅の危機。

 陽の母親の必要性。


 そんなことを考えた時、


 この際、紹介してもらうのもありなんじゃない?


 会ってみようかという気持ちに大きく傾き、


「うん。わかった。」


 初めて会ってみることにした。



 母親の友達の娘ということもあり、家に本人を呼んで雑談がてら、ということになった。

 堅苦しくない雰囲気なのがホントありがたい。


 当日。

 子持ちということは言ってあるので、顔見せのために陽もいる。

 相手の女性が親と共に到着。

 第一印象は…結構きれいな人。

 まずはお互い自己紹介。

 それからお喋りタイム。

 喋ってみた感じはなかなかいい。

 陽に対しても、すごく優しく接してくれる。

 リラックスした雰囲気で、時間は過ぎてゆく。

 特に問題も無く、お見合い的な何かは滞りなく終わった。

 まあまあウマくいった…ような気がした。

 が、しかし。

 相手が帰った後、陽が一言。


「お父さん?やっぱボク、新しいお母さん、さっきの人より葉月ちゃんがいいな。」


 その言葉が心に深く深く突き刺さった。


「そーなんか…。」


 の後に続く言葉が見つからなくて黙ってしまう。


 陽…そこまで葉月ちゃんのコト気に入っちょったんか。


 願いを叶えてあげられなかったことを申し訳ないと思った。

 繋ぎ止めることができなかった自分を心の底から情けないと思った。


 後日。

 相手の方から断ってきた。

 心がここに無いコトが原因らしい。

 好きな人がいることも見抜かれていた。


 なるほど!


 納得するとともに、断られて安心する自分。

 ホント、如何なものか、である。



 あれから母親だけでなく、会社の上司や同僚からの紹介もあった。

 全て会ってみたものの、ことごとくダメ。

 理由は、全員最初の女性と同じ。


 あ~…やっぱオレ…葉月ちゃんのコト好きなんやな。


 痛感した。

 別の人を好きになるとか無理っぽい。

 気持ちは今後も変わりそうにない。

 こんなことになるのなら、土下座してでも「側にいてくれ!」と、お願いするべきだった。ちゃんと返事もするべきだった。


 あの時に戻りたい…


 今、人生で最大級の後悔をしている。




 このあとも、相変わらず紹介は続いている。

 しかし、当然の如く同じ理由で断られる。

 決して実を結ぶことのない紹介。

 ハナシを受けない、という選択肢もあるのだが、なんだか紹介してくれる人に申し訳ない。

 その気持ちだけを優先し、ハナシを受け、わざと断られるというカタチを取り続ける日々。

 結構な回数の紹介を受け、申し訳ないという気持ちもマヒしまくったある日。

 ふと、


 真剣に婚活している人や、紹介してくれている人の気持ちをなんだと思っているのだろう?


 そんなことを考える。

 と同時に、これまでの気持ちが一気に切り替わる。

 世話してくれた人、相手のコトを考えた時、良心が激しく痛んだ。


 不誠実にも程がある!


 こんなことを続けているようじゃ、いつ激しい天罰が下ってもおかしくない。


 最低だ!


 もう、ずっと独身でもいーや。次からは断るようにしよう。


 そう固く心に誓った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る