間違えてないのです。われわれは賢いので!

ノルウェー産サバ

かしこい!

 ここはじゃぱり図書館……


「さぁ、アメリカビーバーにプレーリードッグ、遠慮せずに食べるのです」と博士。

「われわれが手間ひまかけて作ったこの特製カレー、遠慮なくいただくがいいのですよ」と助手。


「ど、どうもっす……」

「うまそうであります! さっそくいただくでありますよ、ビーバーどのぉ!」


 アメリカビーバーとプレーリードッグは小さな木製のテーブルについて、向かい合わせに座っていた。それぞれの前にはカレーが置かれている。野菜がゴロゴロとしていていかにも手作り感満載で、あまり見た目も良くないが、二人の鼻をくすぐる芳醇なスパイスの香りがテーブル上のそれを素晴らしいものに見せていた。それにこの二人はカレーを食べたことがなかったので、見た目などは大した問題ではなかったのだ。


「お、おいしーであります!」

「わぁ、これは、なんだか不思議な味っすね……だんだん慣れてくると、もっともっと食べていたくなるっす」


「当たり前なのです」と博士。

「これを作るためにわざわざヒグマまで呼んだのです、感謝するのですよ」と助手。

「われわれオサからこんな待遇を受けることなんてめったにないことなのです、感謝するです。そして名誉に思うがいいのです」


「は、はいぃ、ありがとうございますっす」

「いやぁ、こんなおいしいものを作れるなんて、さすがはオサであります! 感激感謝であります! あ、おかわりしてもいいでありますかぁ!?」


「構わないのですよ」と博士。

「好きなだけ食べるといいのです。まだいくらでもあるのです」と助手。

「少し待っているのですよ。今日の我々は”うえいとれす”なのです」

「待つのです」


 テーブルから離れて調理場のヒグマのもとへ博士と助手は歩いて行った。


「もぐもぐ、もぐもぐ、はーーっ! おいしいのであります! いくらでも食べられますねっ! ビーバーどのっ!」

「はい、おれっちもそう思います……」

「ん? ビーバーどの元気がありませんね? どうかしたでありますか?」

「いえ、大したことじゃないんすけど、博士たちの様子がおかしくありませんか?」

「そうでありますか? まぁそういえばなんだか妙にお二人が優しい気が……」

「そう、それなんですよ! 博士たちがいいフレンズなのは承知の上っすけど、それにしても普段とあんまりにも違うっす! 俺っちたちのためにわざわざ食べ物の準備までしてくれて……というかそもそも何で俺っちたちは図書館に招かれたんすか?!」

「もー、ビーバー殿ったらうっかりしてますなぁ。じゃぱり図書館新倉庫の完成を祝ってのお昼ご飯にお呼ばれしたんじゃないですか」

「それはそうっすけど……新倉庫の建設は前借りのじゃぱりまんと相殺する約束ですし……そんなに難しい工事でもないし……いくらなんでも……待遇が良すぎるような……あの博士と助手がっすよ……こんな至れり尽くせり……」

「もーー! 考えすぎでありますよ! ビーバーどの!」

「そっ、そうっすね、おれっち、つい心配してしまって…………」


 

 おかわりのカレーを待っている二人を、少し離れた調理場から博士と助手、そしてヒグマが眺めていた。


「ねえ博士、本当のこと言わなくていいの?」とヒグマ。

「何のことかわからないですね、ヒグマ」と博士。

「われわれは最善の行動をとっているだけなのですよ、ヒグマ」と助手も続く。

「いいのかなぁ……」


 ◆


 1週間前のこと……


 博士と助手はアメリカビーバーとプレーリードッグの住む湖畔から図書館へ帰ってきたばかりのところであった。


「ふー、疲れたのです。休憩にするですよ、助手」

「そうですね博士、水でも飲みましょう」


 助手がコップを水で満たして博士に渡す。博士は目で感謝の気持ちを表現しながら、椅子に座ったまま、黙って水を飲み干した。


「ふー、満足なのです、助手」

「それは良かったです、博士」

「それにしても、やっとあの二人のじゃぱりまんの前借りにケリがついたのです」

「ええ、斬新な建物を作るんだと言って、我々にいろんな材料を準備させましたからね、前借りも相当な量になっていました」

「返しては借りる、返ってはまた貸すの繰り返しでキリがなかったのです。じゃぱり図書館新倉庫の建設でやっとちゃらなのです」

「ちゃらですね」

「ちゃらちゃらです」

「ところで博士」

「なんですか助手」

「じゃぱりまん前貸し帳に食い違うところがあったので、確認をお願いします」

「なんだそんなことですか、そんなものはちょいちょいです……なるほど、ちょうどビーバーたちの件ですね……」


 しばらく帳面に目を走らせる博士だったが、次第に顔に焦りの色が浮かんできた。心なしか体つきも細くなったように見える。


「…………」

「……博士、どうしましたか」

「…………」

「博士……」

「……助手、なんで今まで黙っていたですか」

「……実は最近忙しかったので、うっかり失念していました……」

「助手……帳面のチェックは助手の役割ですよ……」

「しかし帳面をつけたのは博士では……」

「……」

「……」


 じっと顔を見合わせる二人。


「……なるほど、どうやら余計に我々がじゃぱりまんをビーバーたちから回収したようですね」と助手。

「では、返却に行かねばなりません……」と博士。

「しかし博士、あれだけ偉そうにしていながら、つまらないミスをしたと知れたら我々のオサとしての威厳が……」

「…………」

「…………」


「決めましたよ、助手」

「なんですか、博士」

「余分に集めたじゃぱりまんはいずれこっそり返すとして、われらの失敗の穴埋めをするのです」

「穴埋めですか」

「そうです。かばんが作ったあの料理でもてなしてやるのです。ビーバーたちもきっと大喜びなのです」

「火はどうしますか」

「ヒグマを呼びましょう、あれは火を怖がらないですから」

「さすがですね、博士」

「ふふふ、これから忙しくなるですよ、助手」

「問題ありません、だってわれわれは……」

「そう、われわれは……」

 

「「かしこいので」」



 ◆おしまい

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