第25話閃き

 19-25

「ネックレスを贈った男が有力な容疑者に浮かび上がったな」

「でも、麻由子さんは高価な物を貰っても、名前も覚えていませんでしたよ」

「偶然、出会って恋に落ちた男、それを何も感じなかった女、十数年経過しても忘れていなかった男か」

「何故?それまでの期間何も無かったのでしょう?」

「自分の仕事とか、その様な事では諦めないだろう、そう成ると麻由子と連絡が出来なく成ったと言うより判らなく成ったが、二年程前に偶然に居場所を知った?」和田が自分の推理を話す。

「何故?麻由子に接触せずに、娘を誘拐したのでしょう?」

「それが、判らないから犯人像が浮かばない、デリヘルの客とは決められない原因だ」

「多田さんに、連絡出来ました、夕方四時に役所で」

「強気だな、職場で会うとは?」

「知らないのでは?」と晶子が首を傾げた。


夕方まで時間が有るので晶子がネックレスの件を麻由子に電話で伝えると「えー、そんなに高いのですか?」

「十五年前はもう少し安かったらしいですが、それでも高価な品物ですよ、お名前思い出しましたか?」

「確か、森本さんだったと思います」

「ありがとうございます」晶子は和田にネックレスの男性は森本だと伝えた。

「本気だったのかな?大阪の森本健一は偽名では無くて本名を使ったか?」

和田は大阪府警にその件を話して慎重に調べてくれる様に頼んだ。


麻由子はネックレスの値段を聞いたから?徹の事を徐々に思い出していた。

相性が良い、話が合うと熱海に二人で旅行に行った遠い昔を懐かしく思い出して、あの様な高価な物をくれたと云う事は、自分の事を本気で愛していたのだろうか?

確か独身だとは話していたが、デリヘルの延長で考えていたからお互い遊びだと思っていた。

三月の末できっぱりとバイトは辞めて、銀行に就職してデリヘル関係の事はすっかり忘れて、大阪で就職をしたから、当時の人間で自分の事を知っているのは、今では百合と亜希の二人だけだ。

勿論、お客には自分の名前も住所も話した記憶もない。

携帯も新しく変更して、総てのデータは消し去ったので、客が自分の事を知って脅迫誘拐はどうしても考えられなかった。

今は週刊誌に掲載され、マスコミに出たから、沢山知っているかも知れないのだが?


夕方、多田に会った和田刑事は驚く程過去の事を覚えていなくて、十五年も前に風俗で遊んだのが悪い事ですか?

貴方のよく遊んだ女性に事故が有りまして、同じ女性を五回も短期間に呼ばれていますので、調査をしていますと聞くと、自分は気に入ったら同じ女性を何度か呼んで思いを遂げたら終わりですよ、顔も名前も覚えていません。

そう言って、全く麻由子の事もナイトインブラックも記憶に無い話をした。

話し終わって和田は外に出て「あれが役所のお偉い方か!」

「ほんとうですね、唯の助平ですね」と晶子が鼻で笑う。

「しかし、彼は対象外だな」

元々似顔絵とは全く異なる年齢と風貌に関係は無いと思っていたが、役所関係なので確かめた恰好に成った。


翌日和歌山県警から、玉岡健太の情報が届いたが年齢が七十五歳白髪の老人で手配の人間とは相当異なるので、捜査は打ち切りとした。

問題の森本健一に焦点が集まったが、昔の住所から転居してその後の居場所が全く判らない。

大阪府警の調査では、近所の住人の話では昔から頭髪は薄く、今の年齢は六十五歳に成っているとの情報が入った。

同時にテレビでも全国放送でモンタージュ写真が放送されて、沢山の情報が県警に届いたが、決定的な事が間違っていて、捜査の対象に成る情報は無かった。


そんな放送を偶然見た長谷川昌子が「あの目、誰かに似ているわね」と独り言を言って何度も見ていた。

韓流ドラマのファンで、偶々録画をして連続で見ていたから、本放送からは数日遅れていたのだが、何度も見る事は出来たのだ。

幼女誘拐事件の容疑者、和歌山の夜間救急センターに凜ちゃんと思われる子供を連れて治療に訪れた男。

昔会ったのだろうか?その放送から考え込む昌子。

顔立ちも体格も異なるのだが、何処かで見たあの目、気を使う優しげな目、渡辺が確実に印象に残った徹の目、モンタージュ写真はその目が細かく表現されていたのだ。

目以外は殆ど記憶が残っていなかったので、大体で作られていたからだった。


警察の捜査は大阪の森本健一が重要参考人として、捜査線上を賑わせていたが、誰も最近の森本の存在を知らない。

兵庫県警も森本以外、重要な人物の特定が出来なかった。

ネックレスも大阪の店で販売された物との特定が出来たので、益々森本が重要人物に成っていた。

麻由子もモンタージュの目を思い出して、あのネックレスをくれた男森本に間違い無いと感じていた。

あの目に優しさを感じて、熱海温泉の旅行に二回行った。

三月に会った時にあのネックレスを貰ったが、そんな高価な物だとは全く気が付かなかった麻由子だ。

客は色々な物を麻由子に与えたので、多少は高い物だと思ったがそんなに気にはしていなかった。

電話番号も住所も本名も喋っていないのに、何故?小豆島も網干の家も知ったのだろう?少なくとも二年程前までは知らなかったのだ。

二年前に何が有ったのだろう?と考えるが中々思い出さない麻由子。


しばらくして徹の姉昌子が「あの目、徹だ!」と呟いた。

先日の子供の服、内装、近所の痴呆の安藤さんの話、モンタージュは禿頭だった。

徹は禿頭では無かったけれど、もう随分会っていない。

夜に成って「先日墓参りに行ったのよ、元気?随分会ってないから、会っても判らないかもね」

「そうだな、髪も薄く成ったから、判らないかも知れない」

その言葉に昌子は誘拐犯!



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