第15話大捕物

 19-15

朝方に成って、ようやく凜の熱も下がって安心して眠る徹。

一時は大いに不安に成って、このまま死んでしまったらどうしたら良いのだろうと心配になったが、安堵の表情で眠る徹だ。


警察は二十四時間交代で由佳子を見張る。

必ず連絡をするはずだと決め付けた行動、銀行のキャッシュカードも確定して、操作が行われたら判る様にして待機をする。

百合も当面の生活費が必要に成って、明石のスーパーのキヤッシュコーナーでお金を引き出した。

その時既に、百合が持っているクレジットカードも警察に把握されて、夕方ビジネスホテルの清算に使われた事が判明して警察が急行したが、一足違いで異なるホテルに移動していた。

和田達警察は、三田市からさほど離れていない神戸から明石に潜伏していると範囲を狭めて、ようやく工藤百合を逮捕出来ると確信をしていた。

明石の町から神戸、加古川、姫路近辺に大勢の警察が配置されて、蟻の這い出す隙も無く成っていた。

ようやく、南田夫妻に連絡がされて「凜ちゃんが救出出来そうです」

「本当ですか?」と半ば諦めの心境の二人は急に元気に成った。

幼児の誘拐で報道規制がされていたが、上空には報道のヘリが舞、緊急逮捕に備えていた。

この近辺の宿泊施設には、百合と凜の写真が配布されて、百合が接触すれば直ぐに警察に通報される可能性が多かった。

ここでも偶然、六甲山のラブホテルから警察に「女の子を連れたカップルが写真の女に似ています」との通報に捜査員が急行したが、全くの子連れのカップルで全くの別人。

丁度その頃、明石市の郊外のビジネスホテルに二人が宿泊したが、通報はされずに二日後の清算で警察が把握した。

「二日も同じホテルで宿泊、我々の捜査の中心だったのに」と和田が悔しそうに言う。

「母親の行動は?」

「いつもと同じで近くの工場にパートに出ています」と報告をされたが、由佳子は捜査員に気づいて「何故?警察は一方的な言い分を聞いて捜査をするの?」

「。。。。」と詰め寄った。

「自分の子供を連れて帰って何が罪に成るのよ」と大きな声で怒鳴った。

この話は捜査本部に「すみません、我々の尾行が母親の由佳子に露見しました」と報告されて「それでも、続けろ」

「変な事を母親が、捜査員に怒鳴ったと報告が有りました」

「何を言ったのだ?」

「自分の子供を連れ去って、罪に成るのか?と言ったそうです」

「。。。。。。」報告を聞いた和田は「母親の話?」と尋ねる。

「はい、その様です」何か他に秘密でも有るのか?と疑問が湧いた。

「兎に角、百合と子供の身柄を確保だ、車を運転していないから、タクシーかバス、電車だ!」

「JRの駅には捜査員が、張り込んでいます、タクシーは無線で連絡を出来る体勢です」

「タクシーの運転手は大丈夫か?」

「この辺りの田舎のタクシーの運転手は興奮していますよ」

「何故だ?」

「大事件に自分達が関われると、思って」

「アホか、そんな態度が誤報を生むのだ」

「守秘義務も持っていませんから、危険ですね」

和田達捜査本部の動きとは異なり、由佳子は知り合いのタクシー運転手に、百合と子供をホテルから赤穂近辺に脱出させて欲しいと頼んでいた。

赤穂に由佳子の知り合いが居たから頼み込んだのだ。

三田交通の白木は由佳子の幼なじみ「何をしたのだ、タクシー会社の方にも警察から、連絡をする様にと通達が来ているが、大丈夫か?」

「娘の元の旦那が警察関係の偉い人と懇意らしく、娘が子供を連れ去ったと騒いだらしいのよ」

「何と云う奴だ」

「そうよ、権力を使って子供を取り返そうとしているのよ」

「俺に任せて、無事に赤穂まで、届けるよ」

「頼むわね、またご馳走するから」そう言われて、白木は百合の携帯に連絡をして、待ち合わせ場所を決めたのだ。

二人を上手に拾って、明石市内を走る白木だったが、地元のタクシー運転手猿橋の機転で「この辺りでは見かけない三田のタクシーが走っています」と報告をして、急ぎ方向を変えて尾行を始めていた。

捜査に協力で表彰だと、猿橋は嬉しそうに追跡をしていた。

猿橋のタクシー会社では、好奇心が旺盛な猿橋の行動を日頃から、良くは思っていなかったので、警察にも連絡せずに放って置いた。

車は国道二号線を走らずに、迂回して走行して検問をかいくぐり「この辺りからは、検問も少ないと思う、困った元旦那だな」

「私も、黙ってこの子を連れて来たのは悪いと思うけれど、警察に言うとは思わなかったわ」

「元旦那には連絡したのかね?」

「声も聞きたく無いわ、ねえ理佳子もそうよね!」と頭を撫でる。

「それにしても、大掛かりの捜査だよ」

「何故?」

「タクシーの無線に、沢山話が入るからね」

「警察に変な通報したのかも?」

「例えば誘拐?」

「きっと、そうよ!子供が誘拐されたと、友達に頼み込んだのよ」

「そうか、誘拐事件に成っているのだ」と自分で言って納得する白木。

加古川を過ぎた辺りで「後ろのタクシー、明石からずーっと付いて来る」

「えー」

振り向こうとする百合を止める白木「客乗って無い、脇道に入ってみる」と交差点を右に回ると「尾行されている」と白木が口走ると、急に速度を速めて、角を曲がり何度も引き離そうとした。

猿渡が無線で「犯人発見しました、現在地は高砂を過ぎた辺りで、振り切られました」と会社に連絡をしてきた。

流石にタクシー会社も驚いて警察に通報した。

タクシーは三田交通と通報されて、西に向かっていると「姫路警察に、連絡をして主要な道路で検問をして、捕らえろ」捜査本部から、和田達は姫路に向かって急行した。

捜査課長の井元は「三田交通の運転手に連絡をする、手立てを」と指示をすると、捜査員を姫路地域に移動を命じた。

高速を緊急車両が大量に西に向かう、大捕り物が行われている事は車両の数と、空を舞うヘリで付近の住民も感じ取ったのか、家から外に出てサイレンの音を目で追うのだった。

白木のタクシーに「お前、何処に向かっているのだ」

「姫路までの長距離の貸し切りですが?何か?」

「お客は、どの様な人だ」

「老人の二人連れで、姫路城の見物ですが?何か?」

「そうか」で無線は終わった。

「白木さん、上手に話し作るわね」

「大丈夫ですよ、赤穂まで無事届けますから」

「ありがとう」

「何処かで、食事をしますか?」

「そうしましょう」しばらくしてタクシーは通りを外れたレストランに入った。

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