第14話夜間救急センター

 19-14

母親麻子は凜が珍しい名前だと思っていたから、興味を持ってパートに尋ねると、何か子細が有りそうな親子だとそのパートは麻子に伝えた。

夜に成って「お父さん、怪しいとは思いませんか?」

「そうだな、名前も歳も同じ子供がそんなに沢山居るとは思えないな」

「でしょう、私調べて来ましょうか?」

「馬鹿な事を、もし本当に凜だったら、殺されてしまうかも知れない」

「やはり、警察でしょうか?」

「当たり前だ」

「明日、電話してみます」麻子も直臣もその夜は一睡も出来なかった。

翌日麻由子に母麻子は携帯にしたが偶然でしょう、凜が小豆島に居るとは思えないと電話を終わったが、もし百合なら地の利が有る小豆島の可能性有りだと思い始めた。

麻由子は兵庫県警の和田刑事に連絡をした。

地元の警察に身元調査を極秘でする様に要請した和田の元に、夜に成って「偽名の様ですね、履歴書に該当の名前は見当たりません」と連絡が有った。

百合にも工場長が「会社に変な電話が有ったらしいが、何か有ったのか?」と尋ねていた。

百合は居場所を元の旦那が見つけたのだと思って、夜の間に荷物を纏めて、早朝の船で島を抜け出した。

行き違いにフェリー乗り場で待つ和田刑事達「橋が無いと不便ですね」

「工藤百合の可能性高いですね」

「その様だ、子供の確保が優先だ」と百合が降りたフェリーに乗り込む三人。

小豆島に到着すると「もう今の時間なら、保育園だ!行こう」と保育園に向かう三人。

保育園の中を見渡す三人「居ないわ」と晶子が言うと「すみません、こちらに凜ちゃんと云う子供さん居ませんか?」と尋ねる山本に保母の一人が「今朝は来ていませんね」と答えた。

「自宅に行こう」と三人は急いで自宅に向かう。

自宅は鍵が掛かって入れない。

「山本、前田佃煮に行って聞いて来い」

「はい」和田は管理人を居住者に頼んで聞き出すと、鍵を持参させた。

部屋の中は綺麗に整理されて、金目の物と当面の服を持って出たのが判った。

「逃げられましたね」

「その様だな」管理人にいつからここに住んで居ると聞くと「始めは女性一人で住んでいましたが、娘さんを何処かから連れて来た様です」と答えた。

「班長、決まりですね」

「どうやら、その様だな」和田は何か不自然を感じていたが、状況的には工藤百合と凜に間違い無いのだった。

小豆島の港に緊急配備の検問所が設けられて、袋のネズミ状態に成った。

報道規制は取られたが、全国の警察に工藤百合の指名手配が送られたのだった。

「お母さん、追われているの、助けて」

「百合何をしたの?警察が捜しているわよ」

「えー、警察に言ったのよ、あの人が」

「それは?どう言う意味なの?」

「私、取り返したのよ、理佳子をあの男から」

「えー、それで警察が来たの?」

「小豆島に住んでいたのよ、昨日調査に来た様だから逃げて来たのよ、お母さん助けて!」と必死の娘に元亭主はとんでもない男だと怒る由佳子。


夜に成って和田刑事が「我々が来る前に、島を出たかも知れないな、部屋の整理整頓状態から考えると、昨夜の内に感づいて朝一番に出たかも知れない」

「何処に、行ったのでしょうね」

「子供連れて居ますから、中々逃げられません」

「母親の処かな?」三人は夜の便で姫路に戻る。

母親由佳子の処に向かうと「様子を、交代で監視しよう」と徹夜を覚悟で由佳子の住むマンションの近くで張り込みを開始した。

由佳子は、二人を近くのホテルに泊まらせて様子を見る事にしていた。

由佳子は自分に監視が居る可能性を考えて、連絡は総て携帯でして「でも、警察は坂田の言い分を聞いて、百合の言い分を聞かないの?」

「彼の友人に警官が居るのよ、だからだと思うわ」

「そうなの、警官と友達か」と由佳子も半ば諦めの様子。

遠い昔にもその様な出来事が由佳子に起こった事が有ったからだ。

学生時代に、痴漢で訴えたが、相手が警察官で揉み消されて、結局相手は何も処罰は無かった経験が由佳子の判断を、百合の逃走を助ける結果に成った。


そのころ、徹も困っていた。

凜が風邪に成って、熱が出ていて病院に運びたいが、何を言えば良いのか苦慮していた。

夜間救急病院の前まで来て、躊躇う徹だ。

元々誘拐だと思っていない徹だから、病院の前まで来たのだが、ここから足が前に進めない。

「どうされました?」と後ろから急に声を掛けられて驚く徹。

「いえ、慌てて来たので、保険証を忘れたので」と咄嗟に口から出た。

「かまわないですよ、後で持参して頂ければ」この救急センターの事務、渡辺由希乃は親切に徹の車の凜を見て、抱き抱えてセンターの中に入って行った。

「ママ、ママ」と譫言を言う凜、診察中に何か言わないか心配の徹。

「お爺さまはここに、あの子の両親の名前と住所を書いて下さい」と言われて、咄嗟に小豆島の住所を記入してしまった徹。

「里帰りで?」

「はい、上の子供だけ連れて、ユニバーサルに両親が行きまして」

「そうですか、百合ちゃんは調子が悪く、自宅に残ったのですね、それは可哀想に」と渡辺は適当に書かれた住所と電話番号を書き込んでいった。

しばらくして凜を連れて看護師が診察室から出て来て「薬が効いて、熱は下がると思いますよ」と笑顔で凜を待合の長椅子に寝かせた。

「お金は?」

「近日中に持って来て居頂ければ、保険証と一緒に」

「でも、お金は預けて置きます」と一万円札を渡辺に押しつけて徹は何度もお辞儀をして、凜を抱き抱えて、薬を貰って帰って行った。

由希乃は真面目なお爺さんだと思いながら、カルテとお金をピンで留めて保管の箱に入れた。


徹はこの事件で、子供は病気もするから、色々な対策を考えなければ、今後も何か有ると困ると、偽の住所、名前、両親の名前まで真剣に考えるのだった。


警察は全く異なる百合の行方を、全力を挙げて追っていた。

唯、人質の娘が居るので、中々追い詰められない。

もし子供が怪我でもしたら、警察がマスコミに袋だたきに遭う事が判っていた。

和田はもし百合を追い詰めたら南田夫婦を呼び出して、面談させてみよう、そうすれば諦める可能性が有るのでは?と考える程だった。


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