友人

私は県内の公立高校へ進学した。


家からかなり遠く交通機関を乗り換えする必要があったが、家計の事や進路の事を考えるとそれがベストな選択だった。

中学性の頃の友人で、持久走の時一緒に走ってくれた女の子が私と一緒の高校なのは嬉しかったが、クラスが違っていたのは残念だった。


だが、その女の子が違うクラスだったお陰で友人も増えた。

さばさばしているが思慮深い勝気な子やほんわりとした雰囲気で優しいな子、しっかり者で頼りになる子など親友と呼べる人達に出会えた。

皆ゲームや本が大好きな子達で話が合い、一緒に部活に入る仲になった。


さらにもう一つ部活を掛け持ちした。

元々興味があった部活だったが中学校にはなかったため、高校に入学したら入ろうと思っていた。

その部活には中学校からの友人も入部したのだが、部員数が少なかった事もあり、短い期間で女の子とも男の子とも友人になれた。


部活に入ったのは興味があったとか楽しそうだからという理由の他に、家に帰る時間を遅くしたかったからという理由もあった。


母に前もって入りたい部活が2つある事を話し、部活動のため少し遅く帰れるように門限を伸ばして欲しいとお願いした。

そして母と一緒に父を説得したのだが、怒られるかもと覚悟していたが拍子抜けするほどあっさりと承諾された。

こうして私は、家に帰る時間を遅くすることで父と二人きりになる時間を減らすことが出来た。


友人が増え学校生活が楽しくなったある日の放課後、私は親友と呼べる友人たちがいる教室に向かった。

帰宅部の人は帰り、部活をしている人はそれぞれの部活に行った後の時間だったため、教室には友人たちしか居なかった。

窓の外から茜色の光が差し込み教室に色がつく時間。

みんなは何をしているのだろうと思い近くによると、窓際の席周辺でそれぞれの相談事について話し合いをしていた。


家庭のこと、友人のこと、知り合いのこと――様々な悩みが話に持ち上がり、皆真剣に相談に乗った。

自分たちにできる最大限のことを相手のためにしてあげようという優しい気持ちが感じられ、その暖かな空気に私も気が緩んだのだろう。


「私もお父さんから暴力を受けているんだ……」


ぽろりと口から落ちた言葉に、自分でもびっくりしたのを覚えている。

性的虐待とは言わず暴力だと言ってしまったが、友人たちの驚いた表情と視線に自分が一番混乱した。


すると隣りにいた友人の1人が私の手をぎゅっと握り


「それは辛いね。怖かったね……」


と言ってくれた時、私は今までの辛かったことや悲しかったことを一気に思い出して泣きそうになった。

洗いざらい今までのことを話し、助けてもらいたいという衝動に駆られた。


だが、それは父を裏切る行為である。


確かに彼女たちに手伝ってもらい告発をし、父を刑務所に入れることは可能だろう。

でも、父が出所後に復讐を考えないとは思えなかった。

父の過激さや暴力を振るう様を一番知っているのは私である。

だからこそ、父が彼女たちを巻き込んだうえで私に復讐するのが目に見えて明らかだった。

こんなに優しく暖かな人達を巻き込むことだけは絶対にしたくなかったし、一瞬でも彼女らを利用しようとした自分が恥ずかしかった。


友人たちが思い思いの優しい言葉を投げかけてくれる中


「……でも、今は暴力も少なくなったし大丈夫だよ。滅多に暴力振るわれてないから」


私はそう言って笑うしかできなかった。

彼女たちがその言葉をどう捉えたのかは定かではないが、また辛いことがあったら絶対に相談するようにと約束させられた。

その約束を即破っていることに罪悪感はしたが、それでも私の胸中は感謝の気持ちで暖かだった。


自分のために心を砕いてくれる相手が居ること――それが私に幸せを感じさせてくれた。

家に帰れば父からの性的虐待や暴力が待っていたが、学校に行けば自分を気にかけてくれる友人がいるのだ。

こんな私でも幸せになっていいのだと、あの時握ってくれた手の暖かさが教えてくれた。

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