第二章・その3

「──それで、十七時が最終下校時刻だったからみんなで一緒に帰ったよ」

『へぇ、初日から馴染んでいるじゃないか』

 夜、翼の自室。晩御飯を済ませた後、翼が父親からの電話に応えている。

『しかし「銀河鉄道の夜」とは珍しいな。クラスの演劇なんて、最近のドラマだったり映画だったりを基にして作っていたものだが』

「どういう経緯で決まったかは聞いてないから、どうなんだろう」

 確かに、何故「銀河鉄道の夜」なのかは気になるところ。今度鶴里さんに聞いてみようと翼は思った。

『高校生の警察官っていうのも初めて聞いたな。こっちはまるでドラマみたいじゃないか』

「警察手帳見せてくれたから本物だとは思うけど」

『こっちでも色々調べてみるよ、警察の知り合いがいるからな』

  警察庁から出向してきたというあの「彼」のことかな、と翼の頭によぎる。

「じゃあ父さん、また明日」

『ああ、翼も元気でな』

 翼は電話を切った。

「普通の家族の会話ね」

 電話をしていた翼の隣には、セーラがいる。

「何で今日は、僕の家に来たんだ? こんな夜に」

「ただの気まぐれよ」

 そんなこと言われても、と翼はセーラの言葉を素直には信じられない。セーラの言葉には何か裏がある、それが翼のセーラに対する正直な印象となっていた。

「まっすぐ家に帰ると家族に迷惑がかかりかねない、というのはあるかもね。当然のように自宅は特定されているだろうけど、それでも私が家にいない方が、迷惑がかからないから」

「迷惑だとか、家族は思うのだろうか」

「理解できないでしょうね、少なくとも」

 自分の娘が政府から追われている。それを理解できる親なんて、逆にこの世にいるだろうか。生まれるのは、悲しみしかないだろう。そう翼は思う。

「じゃ、特訓始めましょうか、カムパネルラになりきるための」

 夜は、終わらない。翼はため息をついた。

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