勇者はつらいよ、のコーナー

 はい、ブラッディマーダーの「血塗られた世界」でした。

 いかにもなデスメタルで、久しぶりに僕の血が滾るような曲でしたね。


「ギターがひたすらざくざくと刻むリフと、がなって吐き捨てるタイプの歌声ですね。私もこういうのは好きです。邪悪な雰囲気が非常にマッチして」


「なんだか凄かったですね。とにかく音に圧倒されました」


 おお、ハッシー君もこの手の音楽聞けるタイプか。


「ええ。元の世界でもこんな感じのバンドを聞いていた事があります」

 

 いやぁ仲間が増えた! 嬉しいね! これからもどんどん布教していくよ!


「さて、曲紹介も終わりましたので次のコーナーに行きましょう」


 せっかく勇者様が来ると言う事でこんなコーナーを考えました。



『勇者はつらいよ』のコーナー!!



(なんだかレトロな映画っぽいBGMが流れる)


「このコーナーは勇者ハッシーさんが今までの旅で辛かった出来事をランキング形式で紹介するコーナーです」


 というわけでね、ハッシー君は今までずっと魔王を倒す為に旅を続けてきたんだけど、やっぱり辛かった事ってたくさんあったと思うんだ。

 だからその辛い思い出を吐き出して、少しでも楽になってもらえたらなっていう気持ちもあってこのコーナーを作ってみたよ。でも全部お話ししてもらおうとなると時間が足りないから、1位から5位くらいまでを紹介してもらおうかな。


「そうですね。辛い事と言えば……そもそもまずこの世界に召喚された事ですよね。文明的な社会から中世ヨーロッパ水準の世界に投げ出されて、右も左もわからない状態でしたから。幸い、召喚した賢者たちが色々とこの世界について教えてくれましたが」


 そういえば召喚された人って言葉とかは通じないよね?


「いえ、そういうのはこの世界に召喚された時点で自動的に翻訳されるようです」


 なるほど~、超便利もとい超ご都合って感じ~。


「では早速、5位から発表していただきましょうか」


「はい。5位ですが、手紙にも書いたロンデミオ王国でのシルべリア平原の通行証を買う5万ゴールドをギデオンに使い込まれた時でしょうか」


 ああ。あの話ね。


「はい。その時ちょうど5万ゴールド持ってて、すぐに通行証を発行してもらえそうな感じだったのに、ギデオンが使い込みしたせいで2週間そこでお金稼ぎをする羽目になりましたからね」


 その間どうやってお金を稼いだの?


「大体敵を狩ってそのドロップアイテムを売ってですね。ロンデミオ王国の敵は動物系が多いので、毛皮を売ったり、内臓を売ったりして稼ぎました。ホワイトグリズリーが一番稼ぎが良くて、毛皮も内臓も高値で売れるので積極的に狩りましたが、さすがに強くて1日2匹くらい狩るのが限界でしたね。まあそれでも1匹で3000ゴールドくらいにはなるんですが、クマの方もそうそう出るわけでもないので中々しんどかったです」


 ロンデミオ王国って聞くところによると凄く寒い国らしいね?


「はい。冬が訪れるとシルべリア平原はつねにブリザードが吹き荒れるような場所になってしまいます。そうなる前に通行したかったので本当に焦りました。ブリザードが吹く中の強行軍とか本当にやりたくなかったので」


 その間のパーティのギスギス具合とか、想像するにキツそうだなあ。


「本当にボクですらキレかけましたからね。とはいえギデオンをないがしろにするとパーティが立ちいかないので、そこは我慢しましたけども」


 温厚そうな君がキレかけるって相当だな……。


「本当ですよ。あの時はパーティ崩壊の危機でしたね。二度とギデオンには財布持たせません」


「はい、5位でした。では次4位行きましょうか」


「4位ですか。最初の街での仲間集めですかね」


 仲間集め? 勇者なのに? なんか王様があらかじめ見繕ってくれるんじゃないの?


「僕もそう思ってたのですがアテが外れました。王の庇護があるのはこの世界で生きる為の力を付けるまでで、後は自力で何とかしろとの事でした」


 何か扱いが大分雑だよね。君本当に有望な勇者候補だったの?


「過去にも勇者を召喚した事あるみたいですし、召喚の手筈もかなり手馴れてましたね、そういえば」


「勇者ロットンがマオウ様に敗れてから、人間達は異世界から勇者候補を召喚する【禁術】を使い始めたようですね。この1000年でおよそ100人の召喚を行っているようです」


 え、ちょっと待って。100人召喚してここまで来れたのがたった1人なんだけど。禁術が聞いてあきれるよ。

 それにその召喚された人々ってたどり着けなかった場合、結局どうなってるんだろうね。元の世界に帰れてるんだろうか。


「大体の召喚された勇者たちは、魔王を倒すのが無理だと判断された時点で元の世界に還されてますね。召喚した人々もそこまで無情ではなかったみたいですよ」


 それは良かったけどさあ。都合の良い道具扱いだよね。勇者使えないからはい次! みたいな扱いでしょ。本当に大事にしてるんですかね。

 まあ勇者君の話に戻しましょうか。


「はい、一通りの訓練をした後にとりあえず酒場に行きましたが、やっぱり僕みたいなひょろい勇者の仲間になりたがる人は中々居ませんでした」


 そうだろうね。


「見かねたのか、最初に仲間になってくれたのがイリーナでした。その後酒場を出て街を散策していたら演説をしていた僧侶が居たんです。聴衆が全然居なかったですが。その彼がパウロでした。パウロは僕が勇者だと知るなり、有無を言わさず仲間になりましたけど。彼なりの考えがあってのことだとは思いますけどね」


 あーあの欲望にまみれた破戒僧ね。彼の事だから多分勇者の冒険を成功させたら一躍有名になれるとか多分そんなところじゃないかな? 仲間になったのは。

 イリーナはなんかこう、見かねたというより君の事を一目ぼれしたんじゃないかと思うけどね。


「は、はは……。その後、結局ヴァルディア城下町では仲間が見つからなくて、仕方ないから隣の街まで行ってみようという話になったのですが、道中死にかけました。バンディットの集団に襲われまして」


 隣街までの距離がどれだけあるのかわからないけど、流石に無茶でしょ。


「ええ、徒歩で3日くらい掛かる距離で馬も無かったボクらには無理でしたね。結局城下町に戻って改めて仲間を募ったら、今度はタイミングが良かったのか盗賊のエルケと魔術師のギデオンが見つかりましてね」


 あれ、そういえばヤンはここでは仲間にならなかったの?


「実は、ヤンが仲間になるのはずっと後の事なんですよ。彼はボクらとは違って遥か東の国の人なので、そっちにまで行かないと会えなかったのです」


 なるほどなあ。

 

「マオウさん、仲間を募るのってホント大変なんですよ。最初に酒場で仲間を募った時、誰も僕に近寄らずに薄ら笑いを浮かべてた人達の顔、あの顔を一度見てみてくださいよ。きっと自分が惨めに思うか、それともこいつらいつか絶対ぶっ飛ばすって思うかのどちらかですから」


 ちなみにハッシー君はどう思ったの?


「両方です」


「はい、4位でした」


 では次の3位行ってみようか。


「レベルが低い間のレベル上げですかね」


 ああうん、なんだかそれはわかる気がするよ。

 レベルが低いうちはどうしても頻繁に宿屋に帰ったり、回復アイテムを一杯持ったりせざるを得ないからね。特に毒や麻痺みたいな状態異常は喰らったら解除アイテムがないと一気に全滅の危険性があるし。


「パーティが集まってから最初の一か月くらいはずっとヴァルディア王国の中から出れませんでしたね。バンディットが楽に倒せるようになるレベル10くらいになるまで、夜はフィールドに出ないで街に戻ったりとあまり効率も良くなかったです」


 最初はどんな敵を狩ってたのかな?


「グリーンスライムやマントラップみたいに弱い敵ですかね。たまにコボルトが出るんですがそれは2匹までならなんとかなりますが、3匹以上になると誰かが死ぬ可能性が出るのでその時は逃げたりしてました。ごく稀に出てくる宝石虫は癒しでしたね。これを生きたまま捕獲するとマニアが高く買い取ってくれるんで、とにかくお金も無かった序盤には凄く有難かったですよ」

 

 へえ、宝石虫なんて魔物もいるのか。面白いな。僕や父さんが作った奴じゃあなさそうだ。

 それにしても、やっぱり最初の街でのレベル上げだと経験値も少ないし、焦りはなかったのかな?


「ボクは元の世界に早く戻りたかったので、焦りが無い日なんて無かったですよ。だから適正レベルでもないのにヴァルディア北の洞窟に潜った事もありました」


 その結果は?


「こっぴどくやられて宿屋にトンボ返りしましたよね。無理はすべきじゃないです」


 まあそうだよね。


「一か月でようやく僕らの平均レベルが18に達したので、そろそろ周辺国に行っても大丈夫だろうと隣国イストニア皇国に行ったのですが、そこは実はヴァルディアよりもフィールドの敵が弱いと知って膝の力がガックリ抜けましたね。その分夜に出てくる敵が厄介なんですけど」


 あのあたりの夜フィールドの敵はゾンビやロッティングコープス、それに鬼火やポイズンスライム、キラーラビットみたいな厄介なのが出てくるからね。


「ええ。特にキラーラビットには酷い目に遭わされました。僕を除いたパーティ全員がクリティカルを喰らって死んだ時はもう冷や汗だらだらで逃げましたね」


 こうやって話を聞いてると死にかけたり酷い目に遭ってばかりだな本当に。

 おいちゃん涙がちょちょぎれそうだよ。


「勇者は苦労してナンボかなと最近思うようになってきました」


 そういう悟りを得るにはまだ早いよ!


「はいはい、では次の2位に行きますよ」


「2位ですか……。裏世界に通じる扉があるとか言われるダンジョンに潜った時ですかね」


 ああ、扉を開くためには勇者が一人で行かなければいけないダンジョンだっけ。名前なんだったかな。


「果ての島、深淵の縁とかいう名前でしたかね。神や悪魔でもない、不思議な結界で守られていて、この洞窟の最奥まで行って勇者である証を示さないと裏世界への扉が開かないというものでした」


 証って何が必要だったの?


「かつての勇者が使っていた防具一式ですね」


 かつての勇者って、結構多いよね。


「その中でも神に認められた勇者の防具ですね。直近だとロットンが装備していたものです。僕以外にここ数万年で唯一魔王に挑んだ勇者で神オーデムの覚えも良かったとか」


 でもロットンは僕が平行世界にぶっ飛ばしたから防具現存してない筈なんだけどな。


「らしいですね。でもロッテンマイヤーという老舗の鍛冶屋で作ってもらった防具を装備してたら証を示した、って事になって扉開きましたけども」


 ああ、そのロッテンマイヤーはロットンと同一的存在だからね。

 その血筋が流れている子孫が作った武具なら証にもなるだろうさ。


「私が調べた時は何の変哲もない防具だったんですけどね」


「ロッテンマイヤーさんの防具、僕が装備すると特殊効果発揮するんですよね。鎧なら魔術カット率50%とか」


 なるほどね。勇者と認められる者じゃないと本来の効果が出ないという訳か。


「それでこの深淵の縁なんですけど、やっぱり一人でダンジョン踏破って精神的に辛いものがありますよね。今までは仲間と一緒に色々乗り越えてきただけに余計辛かったですね。一人はやっぱり寂しいですよ」


 うんうん。


「それと即死魔術や奇蹟を使って来る魔物が非常に多かったのが嫌らしいですよね。こっちは一人なのに。それ以外にも猛毒や麻痺、混乱など状態異常ばっかり持った魔物が目白押しで、耐性を完璧にしてないとこのダンジョンは踏破できないですね」


 ひとりで麻痺に掛かったら死と同じだもんね。


「はい。勇者一式装備で耐性はほぼ何とかなりましたが。あと、宝箱もほとんどがミミックや人食い箱ばかりで、本物の宝箱は証を立てる為の部屋の扉の鍵以外何もないんだから悪趣味ですよね」


 まあ、それくらいやってのける勇者じゃないと裏世界に来てもすぐ死ぬだろうって事よね。実際こっちの世界の敵、表世界の敵よりも強いでしょ?


「ええ、桁違いですね。油断してると本当にすぐ死にかけます」


 でも実際君は踏破できて、パーティも無事にここまでやってきたわけだ。それはやっぱりすごい事だし誇るべきだと僕は思うよ。


「ありがとうございます」


「2位でした。では最後、1位に参りましょうか」


 では栄えある1位にランクインした、勇者になって一番辛かった出来事とはなんでしょうか!?

 ハッシー君お願いします!


「はい。1位はやはり、勇者としての訓練の日々ですね」


 あれ? それが来るの?

 なんかこう、絶望の山脈のボスとか、或いは海で遭難しかけたとかそっち方面だと思ってたんだけど。


「それはまあ、死んだ所で教会にリスポーンするだけですからね。それよりもこの世界で冒険者として生きる為の最低限の腕前を付けるまでが本当にキツかったんですよ。なんせ僕は、元の世界では争いとは全く無縁なただの学生でしたから」


 一体どんな訓練を行ってたんだい?


「まずは魔物と戦う為の剣術の訓練ですか。木刀での模擬戦とはいえ、戦い自体はガチの殴り合いでしたので骨折や青あざが出来るのは日常茶飯事です。と言っても、回復の奇蹟はいくらでもかけてもらえるので日の出からお昼まで延々と続けさせられましたが」


 うわ、のっけからきつそう。


「昼ごはん食べた後は体力強化のために長距離走や筋トレしたりですね。僕、元々運動はあまり得意じゃなかったのでこの辺りもしんどかったです。夕方になったら今度は魔術や奇蹟の初歩的なお勉強ですかね。これはまあそこまでしんどくは無かったですが」


 思ったんだけど、勉強は最初にやった方がいいと思うんだけどな。疲れ切ってからの勉強とか全く身に入らないでしょ。


「その辺りは、スタミナ回復の薬草なんかもあったので……」


 ホント、勇者促成栽培って感じだよなあ。僕なんかは元々強いからその辺りの育成の苦労がわかんないや。


「最後はサバイバル訓練ですかね。食料が不足した時や、過酷な環境を生き延びる為だっつって山に放り出されて一人で一週間山を生き延びてみろって。ついこないだまで都市で生きてた人間をいきなり山に放り込むとか、僕を殺す気かと本気で恨みましたね」


 勇者様の目の色がなんだか昏いものに満たされている。


「一応サバイバルマニュアルみたいな本を持たされたのですが、これがまた役に立たない。毒キノコ食べちゃったり、沢に落ちたりと散々でしたよ。まあ、後で死にかけたり死ぬ事なんか山ほどあるわけですが、この時に比べれば屁でもないですね」


 それでそのサバイバル訓練とやらは実際役に立ったの?


「いや、全く。そもそも旅は食料を買い込みますし、野宿するときは結界魔法陣張って安全で快適な空間作れますし。山で野営なんて危険すぎて仲間も嫌がりますしね。僕だって山みたいな魔物がうろつく場所で野宿なんかしたくないですよ。万が一仲間が死んで僕一人になったとしても、空間転移のスクロールで真っ先に街に戻ります。ダンジョンでも脱出のスクロール使いますよ」


 Oh……。


「そういうわけで、こんな役に立たない訓練は今すぐやめるべきだとヴァルディア国王に進言したいですね。直で」


 は、はい! というわけで勇者は辛いよのコーナーでした!


 次のコーナーに行く前に曲紹介です。

 ハッシー君、なんかリクエストとかある?


「えっ? 僕の世界の音楽とか掛けられるんですか?」


 実はね、君の世界のCDプレイヤーとやらも僕は既に試作しているんだよ。

 大体は成功して、あとはCDみたいな記憶媒体を作るだけなんだけどそれはまだできてないんだ。


「CD持ってきてないんですけどどうやって用意するんですか?」


 ちょっと腕だけ時空を超えて、君の世界から今君が聞きたいと思ってくるものを借りてくるから。


「いいのかそれは……。じゃあ僕が受験期に聞いてハマったSlipknotの(Sic)って曲をお願いします」


 はいよ(ずるっと歪んだ空間に腕を突っ込んでCDパッケージを取り出す)

 あ、この被り物してる集団のセンス、実に僕らっぽくて好みだね。


「ちなみにSlipknotっていう言葉は首つりの結び方に使われる結び方を意味しているんです」


 いいじゃないか。そういうのを僕らは求めてるんですよ。


「曲も邪悪で良いんですよ。破壊衝動に溢れてる感じがあって」


 じゃあ行ってみましょう。

 Slipknotの(Sic)です。どうぞ。

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