ユミル’sレポート


 はい、インキュバスさんの「I NEED YOU」でした。

 ポップな感じながらエロスが全体的に漂う、素敵な楽曲でしたね。

 やはりサキュバスやインキュバスにしか出せない色気を伴った歌声というのは、時々聞くには悪くないかな。毎日聞くとなると甘ったるくてちょっと反吐が出そうだけど。


 で、次のコーナーなんだけど……参ったな。

 つい衝動に負けて父さんをぶっ飛ばしちゃったせいで次のコーナーが出来ないぞ。

 どうしようかな。

 ねえ、ディレクター。今日はもう〆ちゃってもいい? ダメ?

 やっぱりダメ? なんとかひとりでつなげって?

 といってもね。もう父さん追放した時点で僕の気持ちは閉店ガラガラセールなんだよね。おうちに帰ってもうなんかつまみながらこう、ワインでもゆっくり傾けたい気分だよね。僕魔王だからアルコール程度で酔っぱらうとか状態異常になるとかそういうのは無いんだけど、気分的な問題だよね。僕が酔っぱらうとしたら毒物? トリカブトやらテトロドトキシンとか、その辺りの強烈なのを持ってこないといけないけど。あのビリビリ感とか目が回る様な感覚が楽しいよね。

 あとは燃え盛る火炎のような形をしたキノコ。あれは実に良い。

 食べるとまさに地獄の焔を体現したかのような燃え盛る感覚を得られる。魔族以外が食べると全て爛れて苦しんだ挙句の果てには死んじゃうんだけどね。


 だめだ。やっぱり間が持たない。

 もう強制的に〆ちゃおうかな。


「何をしているんですかマオウ様。勝手に番組を〆ないでくださいよ」


 ん? もしかしてこの声は……ユミルさんですか!?


「もしかしなくても私でございます。ユミルです」


 貴方はまだ休暇中のはずでは? 一体どうやってこちらに連絡してるの?


「ラジオは双方向通信が可能だってマオウ様以前仰ってましたよね? それを利用して今ラジオブースと通信を繋いでるんですよ」


 おお! そういえばそうだった!!


「来週から復帰の予定なので、ラジオの雰囲気に慣れようと思って久しぶりに連絡してみたんですが、私の代わりのアゼル様をなに勝手に追放してるんですか」


 だって、邪魔なんだもの。

 小言がうるさいし事あるごとに愚痴るしさ。早く地上に侵攻しろとか説教するしで僕が主導して進行もできないし、もう面倒くさくてつい。


「全く仕方ないですね。やはりマオウ様の助手を務められるのはこの私しかいないと言う事でしょうか、フフーン」


 なんか妙に嬉しそうな雰囲気ですね。

 ところで今ユミルさんはどこに居るの?


「クアトロス諸島の無人島ですね。地上の海、私は初めて見たのですが、穏やかな波と透明で青い水、心が洗われる風景ですね。泳ぐ魚たちも極彩色で個性的な形が多くて、目に楽しいです。私達の世界の海はコールタールのような黒さですし、泳ぐ魚と言えば棘や角だらけでごつくて大きくて、もう雰囲気が魔物! という感じを醸し出してますからね。そっちはそっちでグロテスクながら面白いのですが」


 地上の海でもこっちの魚と似たようなのは居るよ。サイズは圧倒的に裏世界の方が大きいけど。食用にするなら地上の魚の方がサイズ的にはいいけどね。


「ええ。それと星というものも初めて見ました。あんなにきれいに輝く星々と月を夜に見れるのは、地上に住む特権ですね」


 こっちの月は所詮まがい物だからね。星は見えないし。


「魔族的な感性で言えば髑髏の月も悪くはないんですけどね。地上の月も乙なものです」


 違いがわかるとより楽しめるよね。


「ええ。ところでマオウ様。ユミル'sレポートのお時間です」


 ユミル'sレポートとはなんですかユミルさん。唐突に始まったけど。


「休暇をいただきながらも、実は気になっていた案件がありまして」


 どんな内容のものなんです?


「第66回目に依頼がありましたよね? 美しき誘惑者さんからという奴の」


 ああ、冒険者を誘惑してなんたらするのがお仕事なんだけど、その対象に惚れちゃってもう仕事ができないとかいうあれね。


「個人的に物凄く興味があったので、地上に上がってバカンスを楽しむ合間にちょっと調査してみようと思いまして。それで、依頼者に接触したんですよ」


 おお、素晴らしい仕事ぶりですね! ユミルさんは全く頼りになる!


「結論から言いますと、依頼者はウサギでした」


 ……え?


「手紙の内容的にサキュバスが依頼したのかなと予想していたのですが、ウサギ、つまりキラーラビットのウサ子ちゃんが依頼者でした」


 名前ウサ子って言うんだ!? なんか安易な名前だけど、かわいいね。


「はい。彼女の仕事はつまり、死への誘惑という事ですね」


 上手い事言ったつもり……いやそもそも上手いのかこれ。

 それよりも、そのウサギさんが送ってきた依頼内容をユミルさんは実行したの?


「イストニア皇国の皇位継承権第六位の皇子、グシオス=ロズベルグなる人物を殺害してほしいとの内容ですね。一応マオウ様の意向を聞いてましたので、彼女を説得して殺すのは辞めようという方向性で落ち着きました」


 それは良かった。

 でも彼女の悶々とした想いは募るわけでしょ? どうやって悩みを解決したの?


「よくよく考えてみれば彼女はウサギです。つまり、ペットとして飼える」


 はい?


「という事は、グシオスにウサギとして彼女を売りつける事が出来るわけです。実際、キラーラビットは危険な魔物であるという認識がありますが、一方でウサギとしての穏やかな性質も持っており、懐かせることができれば可愛くかつ頼りになるペットに早変わりです。姿かたちは小さくとも、ヴァルディア周辺の魔物なら一撃で倒すくらい強いですし、レベルが更に上がればレッサードラゴンくらいなら造作もなく倒せます」


 魔物もレベル上がるんだ……。僕、大魔王に就任してからそれなりに長いんだけど、その辺りの事全く知らなかった。勉強不足だな。


「普通、魔物はあんまりお互いに戦う事もありませんからね。相手になるのは大抵冒険者ですし、冒険者と出会った所で倒される方が多いですから。稀に冒険者達を倒し続けてレベルが上がってクラスチェンジした魔物がいつの間にかダンジョンのボスになったり、レアモンスターだとか呼ばれたりするんですよ」


 なるほどなるほど。


「こちらの世界に来て、魔物使いなる職業の方々にお話を伺ったのですが、元が動物の魔物は比較的飼いならしやすいそうです。元の動物の特性が残ってるからですね。逆にどうやっても無理なのが、ゴーレムや魔法生物といった無機物をベースにしたものや、あるいは魔族や吸血鬼といった知性の高い魔物だそうです。私達魔族の場合はこうやって言葉を交わせるわけですし、飼う事など不可能なわけですが」


 ベースが動物だからなあ。

 魔物にして凶暴性や危険性が増したとはいえ、その性質までは変えられないと言う事か。


「そしてウサ子さんはキラーラビットながら知性が物凄く高く、人間の言語を完全に理解しているというからまさに驚きです。ウサギにしておくのがもったいないくらいですね。今すぐにでもマオウ様と謁見してもらい、魔力を与えて魔族の仲間入りを果たしてもらいたいです。残念ながら彼女の希望がグシオスの隣に居る事なので、それは果たせないのですが……」


 全くもって残念だね。そういう突然変異的な魔物は極めて貴重だし、できれば僕も彼女と会って話をしてみたかった。上位の存在にクラスチェンジさせれば魔族としての戦力増強にも間違いなくなったと思うし。


「そういう訳ですので、動物の商人として変装してグシオスが通る道で待ち伏せし、彼にウサギを飼わないかと勧めてみました」


 結果はどうだった?


「彼はウサ子の事をいたく気に入りまして、すぐに買っていただけました。ウサ子さんは彼の肩に乗って幸せそうな顔をしていましたよ」


 おお、良かったじゃないか。愛する者の傍らに常に居られるという幸せという奴なのだろうか。僕は愛だとか恋だとかはよくわからないけど、やはり女性としては憧れる物なのかな、ユミルさん。


「はい。正直に言えば、ウサ子さんが羨ましいです」


 よろしければ僕がお見合いの場をセッティングするけど、どう?


「いえいえ。それには及びません。……マオウサマガイチバンデスカラ……いえなんでも」


 それは残念だ。いい相手が見つかると良いね。


「エエ、ホントウニミツカルトイイデスネ」


 なんか棒読みだけど何があったんだろう。

 とりあえず誘惑者いわくウサ子さんの依頼はこなせたわけだし、ユミルさんのレポートもこれでひとまずは終了という感じかな。


「そうですね。来週にはそちらに戻って仕事に復帰しますので、それまでは休暇を精一杯満喫しようと思います。ではまた来週、マオウ様に会うのを楽しみにしております」


 はい、ありがとうございました。

 というわけで、ユミル'sレポートのコーナーでした!


 それでは今週のDJマオウのデッドオブナイトラジオも間もなく終わりの時間を迎えます。今日も長時間お聞きいただきありがとうございました。

 DJは全ての魔族を統べる者、マオウでした!

 SEE YOU NEXT TIME! BYE BYE!


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