アゼルが斬る!のコーナー

 はい、というわけでゴーストヘッドの「インビジブル」でした。

 陰鬱としたアンビエントサウンドと、地獄の底からの怨嗟に思えるような声がこの世界観にピッタリな気がするね。

 では次のコーナーに参りましょう。


『アゼルが斬る! のコーナー!』


 はい。このコーナーは普通のお便り、略してふつおたのコーナーなんだけど、父さんがなんか自分がメインになるコーナーが欲しいとダダこねたので、特別に作ってあげました(強調)

 ただのヘルプの癖に流石に面の皮が厚すぎると思う。


「何を言うか。そもそも元大魔王だぞ。ワシの為のコーナーくらいあって然るべきだろうが」


 過去の栄光にすがってるじじいはおいといてさっさとコーナー進めよう。

 まずこのコーナーの趣旨だけど、怒りに震える投稿や、こんな嫌な事があったという愚痴に対して父さんこと前王アゼルがぶった斬る、あるいは喝を入れる、たまに同意する、みたいなコーナーになるんじゃないかな多分?

 前王とかもう引退して久しいからあんまり投稿ないんじゃないかなと思ってたんだけど、意外に結構お便りが集まってびっくりした。


「ワシの人気も未だ衰えずといったところかの。山のように手紙が来たんだろうな?」


 子ヤギの姿でほくそ笑むのマジムカつくな。その瞳の形が特に。

 どれくらい手紙が来たかって……数十通って所かな。


「数十通? たったのそれだけなのか……」


 あ、その落胆した姿は結構可愛いからずっとそのままでいてほしい。

 いつものふつおたのコーナーもこんなもんだし、急造新設コーナーとしては人気あるほうだよ。あからさまに落胆しなくてもいい。いやずっと落胆して元気ない方が僕としてはやりやすいけど。


「こいつは本当に父親をなんだと思ってるのか」


 まあ父親と言っても本当の血のつながりとか実は無いんだけどね。


「おい、さらっと重要情報を言うのやめろ」


 はい、では早速お便りを読み上げるよ。

 投稿者、燃える犬さんからです。

 前にも投稿してくれた人だね。



 こんにちは。地獄のマグマが煮えたぎる昨今如何でしょうかアゼル様。

 最近はハッシーなる勇者が我々魔物たちを迫害していると聞き、もはや我慢ならぬ状況が来ていると感じております。

 

 だのに、マオウ様は未だに腰が重い!


 これでは勇者が裏世界に来た時に裏世界が慌てることになるのは目に見えています!

 もはや私は決意しました。

 アゼル様は以前、独自に魔物たちを集めて地上へ戦いに行ったという話を聞きました。なればこそ、もう一度部隊を編成して地上へ侵攻するのです!

 神は神速を尊ぶと聞いたことがあります。

 アゼル様も以前は神だったという話を聞き、私は天啓を得ました。

 神が味方に居るのならもはや人間如きに負ける道理などないのです!

 やりましょう! 今こそ! Do It!

 既に私の方は準備万端、他に賛同する仲間もあと数十匹ほどおります!

 是非によろしくお願い申し上げます!



 ……うーん、なんでしょうねこのお便りは。

 現状の僕に不満があるから父さんを煽るって何を考えてるんだこの犬ころは。僕直々に粛清されたいんだろうか。何だかんだ言っても僕は大魔王やぞ。お前らのボスやぞ。


「ワシが言うのもなんだが、お前のへいわしゅぎ? な方針を快く思わん連中、そこそこいるからな」


 なんとなくはわかってたけど、こうやってマジなお手紙が来るとかなりイラっとくるな。僕に歯向かうつもりなのかなこのフレイムドッグの連中は。

 そろそろ締め上げておかないと調子こいた連中増えてきてよろしくないな。

 方針に不満があるならこんな方法で訴えずに直談判しに来いよ。


「以前言っても方針変わらないからこうなったんじゃないか?」


 本当にもう。じゃあ父さん、判定よろしくお願いします。


「喝! 今の大魔王は息子マオウである。故にマオウの判断にまず従うべきだ。どうしても納得がゆかぬというのであれば、我らの庇護から外れて自由意志でやるがよい。そうすれば何をしようと勝手であるぞ、うむ」


 おや。賛同して我が配下になれ! って言うのかと思ってたけど意外だな。


「これでもお主の親だからな。お前が大魔王である限り、配下はお前の意思に基本的には従うべきだ。ワシの頃からそれは変わらぬ」


 じゃあなんで父さんは僕の意思に従ってくれないんですかね?


「ワシはお前の父親だしお前になんか言われる謂れはない!」


 その二重思考マジ勘弁してくんない?

 

「だってワシはお前の配下じゃないもーん」


 ぶちころしてえ……。今すぐこの父親封印してえ。


「お? 親子ケンカやるか? いますぐここでお前のアゴにデンプシーロールかましちゃるぞ? ワシの鋭い拳を喰らって悶絶しなかった神々はおらん」


 なんでボクシング限定の戦いなんだよ。

 とりあえず父さんの判定は喝でした。燃える犬もとい、フレイムドッグの群れは今すぐ猛省しろ。反乱するつもりなら直々に僕が鎮圧しに行くからそのつもりで。

 よろしくお願いします。


 では次のお便りに参りましょう。

 投稿者、ドラゴンヘッドさんです。


 

 マオウ様、そしてアゼル様。こんにちは。

 ――はいこんにちは。


 私は恐れているものが一つございます。

 それは天使が終末の時を告げるラッパを吹く時です。ラッパを吹くと、神々が地上へ降りてきて福音をもたらすという言い伝えです。

 神々が地上へ降りてきて人類へ裁きを下すと言う事ですが、その時我々魔族や魔物は一体どうなるのでしょう。

 ――どうなるんだろうね? 僕にもわからんな。神のご機嫌次第と言った所じゃないかな。


 マオウ様やアゼル様のように強大な力を持つ方々であれば神など恐れるに足らないのでしょうが、私のような卑小な存在では神どころか天使、いや冒険者にも太刀打ちできるかどうか。

 終末の時が訪れた時、どのような心構えでいればよいのでしょうか?

 是非とも教えてください。よろしくお願いします。


 

 だそうです。

 何かわりと普通っぽい相談がきちゃったけど一応判定する?


「喝! そのような心構えでどうするのか! そんな軟弱な姿勢では神に鉄槌を下すことなどできんぞ!」


 お、なんか凄い剣幕で怒り始めた。

 見た目が子ヤギだからめぇめぇ鳴いてるようにしか見えないけど、声が地獄の底から聞こえてくるようなおっそろしい声でアンバランスすぎる。


「ドラゴンヘッドと言えば、頭は竜だが体は蛇という中途半端な奴だったな?」


 そうだけどそれがどうしたのさ。


「まずそのような中途半端な肉体だから自分に自信が持てぬのだ。完全なる立派なドラゴンへと姿を変貌させ、その上で神をも超越する力を手に入れる為の鍛錬をせねばならん。よし、そうと決まれば早速特訓だ。番組が終わり次第、ワシの所に来い! ワシの魔力に掛かればどんな雑魚でも立派なボスモンスターに早変わりだ!」


 かなり大きく出たな。

 ともあれ、判定は喝でした。でも前向きな喝だね。

 ドラゴンヘッドさんはもし強く大きく神をも倒したい、立派なドラゴンになりたいとお思いであれば父さんの所へ行ってみるのをお勧めします。こんな父親だけど、前の大魔王だけに力を持っているのは間違いないよ。全盛期ほどの力はさすがに残ってないけど、今よりは間違いなく強くなれるはず。

 でも確か、ドラゴンヘッドのデザインをしたのは父さんだったよね?


「ワシが魔物創ったのは数千万年前の事だからな。そんな神代の時代の話はもうおぼえちょらんわ」


 こいつは本当にアレだな……。やっぱり今からでも封印したほうがええんちゃうか。……まあ、次に行きましょう。


 投稿者、吸血鬼の王より。

 


 悠久の時を過ごす王よ、如何お過ごしだろうか。

 ――いやヴァンパイアの貴方も大分過ごした時長いでしょ。下手な魔族より長生きしてるやんけ。


 私は大変怒りを覚えている。

 我が眷属は高潔な誇りを持ち、気高く生きる。それが我らの使命でもあったはずだ。ほんの10万年前までは。

 しかし、吸血鬼の一族はとある災厄的な存在によって大きく数を減らし、一時は絶滅の危機にまで陥った。その為に我らは望むと望まずに眷属を増やそうと、誰彼構わず血を吸い仲間にした。

 ――ああ、某教授だか何かに弱点を突かれて襲われたんだっけ? あれは人ながら鮮やかな手並みだったなぁ。ウチの人材としてほしいくらいの実力だったな。人間だけに寿命が短いのがあれだけど。


 その結果どうなったか。

 誇りも分別もない、ただ血に飢え、腹が減れば襲い掛かり挙句の果てには眷属にすらせずゾンビとして人間を使役するだけの、ただの化け物が跋扈するばかりではないか。吸血鬼とはもっと慎み深く、かつ誇り高き存在だった。今はその影も形も無い。

 私は怒りに震えている。もはや一刻の猶予もならぬ。

 今こそ吸血鬼の再教育が必要である。下等で下種な吸血鬼はこの際排除し、今一度我ら吸血鬼の誇りを取り戻さねばならない。

 その際にはアゼル殿やマオウ殿の協力も仰ぎたい。

 詳細についてはまだ詰める必要があるので、その時が来たらまた連絡する。

 以上、よろしく頼む。


 うーん。何といえばいいのだろうか。

 一応愚痴とも言えなくはないんだけども、このもやもやとした気持ちになるお手紙は一体なんでしょうね。ひとまず判定の程をお願いします。


「斬!」


 おっと、今までの判定とは違うのが来た。


「自分たちの一族の管理くらい自分らで責任もってやらんか。お前仮にも王だろうが。ケツもちをワシに頼もうとするな。誇り高い一族が安易に他に頼ろうとするのがまず嘆かわしいわ」


 言われてみれば確かに。この人も王なんだし、誇りを大事にしてるはずなのにそれ投げ捨てちゃってるよね、人に頼った時点で。


「まず自分たちで色々やってみて、それでもだめだ。どうしようもない、となった時にこそワシに助けを求めに来い。話はそれからだ。いよいよもって吸血鬼の一族がダメだと判断したらワシが直々に滅亡させてやるからの」


 おっと? 話がなんか違う方向にそれてきたな?

 種族を維持する話のはずなのに、なんで種族を根絶やしにする方向に行くんだろうね? 息子ながらイマイチこの親父の思考回路がよくわからないな。


「そもそもワシら魔族たちの基本的な行動様式を忘れているぞ。全ては自由であり、行動の責任は自分たちが全て持つ。他人を安易に頼るなど誇りを忘れた行為よ」


 いつの時代の話なんだよそれは。殺伐とした昔みたいな殺し合いの世界ならともかく、今は魔族や魔物の数も減ってるんだよ。助け合っていかないと人間や神々に太刀打ちできないでしょ。


「そのような軟弱な思考ではそれこそ太刀打ちできぬと何故理解できぬのかマオウよ! ワシは嘆かわしいぞ! お前はそもそも平和が大事とか抜かしているが、お前は現状を安易に肯定しているだけなんじゃないのか! 魔の眷属は混沌が主義ぞ。お前は何時からオーデムの考えに染まったのか? 平和など犬にでも喰わせてしまえ!」


 ……僕は説教を聞くためにラジオDJ助手を頼んだわけじゃあないんだよな。

 もう限界だ。もういい加減にしてほしい。

 邪魔臭い。邪魔だ。よし、さよならしてもらおう。


 空間転移!!


(アゼルの足元に輝く魔法陣があっという間に描かれ、瞬時にアゼルの姿が音もなく消え去る)


 あーーーーーーーーーーーーーー! 超スッキリ!

 あ、空間座標指定忘れたけど、まあいいか。あの親父なら石の中に入っても死ぬ事はないでしょ。

 うるさいクソ親父も居なくなったことだし、このコーナーも〆ちゃいます。次? そんなもんないわ! 二度とやりません! 

 じゃあ音楽行きましょう。

 アーティストはインキュバスさんで曲名「I NEED YOU」です。ではどうぞ。

 

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