第7話

 しばらく進むと、今度は左に折れ曲がっている。いったいどこまで続いているんだろう。さらに土管は何度か方向を変えた。もはや僕らは、今どこを歩いているのか、さっぱり見当もつかなくなってしまった。

 「ねえ、もうどのくらい歩いたかな?」

 僕は少し不安になって言った。英ちゃんはデジタル時計のボタンを押した。

 「10分くらいは歩いてるよ。まだ続いているのかな・・・」

 さすがに英ちゃんも弱気な返事をする。

 「もう帰ろうよお」

 ついにカッコが泣きべそをかきだした。

 「そうだよな・・・引きかえしたほうがいいよね。じゃ、この角曲がっても何も変わらなかったら、引き返そう。」

 英ちゃんはそう言って角を曲がった。

 「あ!出口だ!」

 すっとんきょうな声で叫んだ英ちゃんは急に早歩きになった。

 だいぶまだ先だけど、たしかに百円玉くらいの白く丸い明かりが、まっすぐ向こうに見えていた。

 「やったー!」

 僕も叫んだ。僕と英ちゃんは、ほとんどかけ足になっていた。カッコも涙を手でぬぐいながら背をかがめて、小走りにあとをついてくる。

 明かりはぐんぐん近づいてきた。どこに出るのかなんて関係ない。僕たちは一刻も早くここから出たかった。あと10メートル、5メートル・・・。

 それでもまだ、向こう側の景色が見えない。出口の先はまだ白いままだった。どういうことだろう。僕らは出口の手前でスピードを落として、おそるおそる土管の穴から顔を出した。

 「ああ、なあんだ!ここ調整池だ!」

 英ちゃんがうれしそうに言った。

 調整池とは、僕らの住む団地のとなりの三谷団地にある、深さ10mくらいの、コンクリートの壁で固められた巨大な人工の池だ。広さは学校の校庭くらいもある。ここは大雨が降った時に水をいったん溜めておく場所だってお母さんが言ってた。でも、実際に水が溜まっているところなんか一度も見たことはない。白く見えていたのは向こう側のコンクリートだったのだ。

 「そうかあ、ここにつながっていたんだ。」

 僕は拍子抜けした。だいぶ歩いたから、もっととんでもない場所に行ってしまうんじゃないかと思っていたのだ。

 「ね、ここが登れるようになってるよ。」

 英ちゃんが土管のすぐ横に打ち込まれている、コの字の形をした鉄の足場を見つけた。

 「ここから上に出られそうだね。」

 僕もそれに気づいていた。足場はハシゴみたいになっているから、下にも上にも行けるようになっていたけど、もちろん僕らは上へと昇ることにした。

 土管の出口はコンクリの壁の丁度真ん中くらいにあった。だから上へ行くには5mほどえっちらおっちら、両手両足を使って昇らなければならなかった。英ちゃんは僕の先を「クショババ!クショババ!」と言いながら昇っていく。昇りきると、三谷団地の大通りに出た。ここからは家は少し遠いけど、僕らはまたあの土管の中をもどる気にはならなかった。

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