第6話

 こういうこともあって、本当なら土管の秘密を黙っていたいところだった。けれども、じつは英ちゃんと二人だけで土管に入るのは、少し心細くもあったのだ。英ちゃんも同じ考えだったらしい。英ちゃんはカッコを誘った。

 「田んぼの土管の水の流れが止まってるんだ。これから懐中電灯を持って中に入るんだけど、カッコも行く?」

 「ええ!ホントに?行く行く!」

 こうして三人になった探検隊は再び土管の前に立った。相変わらず水は流れていない。入口から懐中電灯で奥の方を照らしてみたけれど、あまり奥の方はよく見えなかった。

 「じゃあ、いよいよ入ってみようよ」

 英ちゃんは土管の入口に両手をかけてよじ登った。

 「うーん、クショババ!」

 クショババ、というのは、英ちゃんの口ぐせだ。なにかするとき、必ずこう言うんだ。それがどういう意味なのか、僕はよく知らない。あんまりしょっちゅう言っているので、もはや意味なんかないんだろう。

 英ちゃんに続いて僕もよじ登った。暗やみの向こうからはひんやりとした空気が流れてくる。最後にカッコもやってきた。土管の直径は、僕らがぎりぎり立って歩ける大きさだった。ただ、一番身長が大きいカッコは土管の中で立つとすぐに頭をぶつけてアイタ!と声を上げた。その声が反響して土管の中をうわああん、とかけめぐった。

 その音がおさまってから、僕らは英ちゃんを先頭にゆっくりと歩き始めた。

 「なんだかお風呂の中で話しているみたいだね」

 カッコがいちばん後ろから話しかけてくる。

 英ちゃんはそれにはこたえずに、慎重に歩いていく。水が止まっているとはいえ、底はぬるぬるした感じがする。懐中電灯の金色の光の輪がゆれて、暗闇のあちこちを照らす。

 「思ったよりも奥まで続いているよ」

 しばらく歩いてから英ちゃんが言った。僕はふと後ろを振り返ってみた。カッコの肩ごしに、白くてまあるい土管の出口が、なんだかずいぶんと小さく見える。もうこんなに歩いたのだろうか。

 「あれっ」

 突然英ちゃんが声を上げる。

 「行き止まりかな?」

 確かに電灯の光はコンクリの壁を照らしている。

 「行き止まりって・・・じゃ水はどこから出て・・・」

 僕がそう言いかけたとき、何かがサッと足元をかすめた。

 「わわわ!」

 僕が急に声を上げたのでカッコは驚いて足をすべらせ尻もちをついた。その横を、ちちちっと鳴きながらネズミが走っていった。

 「お尻が濡れちゃったよう」

 カッコが情けない声を出す。英ちゃんはケラケラ笑っていたが、僕はまだドキドキしていた。

 「なんだ、横に曲がってたんだ」

 そう言って英ちゃんは明かりを右に向けた。確かに土管の通路はそこから90度に折れ曲がり、さらにその先に続いていた。

 「うわあ、まだまだ続いているよ」

 曲がるとついにまっ暗闇となった。弱々しい電灯の明かりが頼りだ。僕らの歩く足音だけが土管の中でひびいている。

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