No.9 水底から叫ぶ首なしたちの唄

 見えるのは、首なしたちの群れだった。


 ヒトの形をした、首のない生き物。

 それが首なしだ。


 そこは狭い部屋で、息苦しいほど深い深い水底なのに、生き苦しいほどカラカラに乾いていた。

 首なしたちは私には到底理解できない言語で唄をうたっている。いや、もしかすると唄ではないのかもしれないけれど。とにかく、どことなくリズムに乗っているような、自由で、曖昧で、雑多な何かに満ちた様子だ。そのいくつかは私に向けられているが、やっぱり意味は分からない。分からないなりに、私は笑ってみせる。


「では、授業を始めます」


 果たして私の声は、私の言葉はちゃんと伝わっているのだろうか。

 自分で言うのもなんだが、まるで首を絞められたような、泣き声を押し殺したような、情けない声だった。


 いっそ自分の首もなくなった方が楽ではないか、なんて思うほどに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る