第7話 野望の果て


 見事に敗軍の将となったオレであるが…落ち込んだ顔は見せられない。



 なぜなら、そんなオレを慰めようと、せっせと泥水を、こしらえる女

が隣にいるからだ。心は、いくらヘコんでも良い…だが、顔に出しては

イケナイ。


 実際、精神的には、かなりヘコんでいる…オレのせいで戦死された方々

…申し訳ない…ごめんなさい。



 友軍と合流するまでの間、あの要塞の攻略法を考える…クラゲの方は、

かえでさんの分析待ち…到底、オレの知能で理解できる生物ではない。


 あの要塞には、目立った推進機関らしきものが無かった…おそらく

アセラ星爆発の余波に乗っかって、地球まで行くつもりなのだろう…


 しかしそれでは、要塞は地表に激突するではないか?…地球人類の

全滅は成っても、自分達も全滅してしまう…赤色光線の射程に入ったら、

地球人の生命エネルギーを吸い上げて、何かしらのブレーキをかけるに

違いない。


 要塞は隕石とは違う…ありったけの核をブチ込んでも、破壊できない

かもしれない…さて、どうしたものか?…



 やがて友軍の姿が見えてきた…第3ステーションと、1個艦隊ほど

の戦闘艦…見た事の無いタイプだ。


 第3ステーション…まだ完全じゃない…なんせ1度自爆してるからな…

修復率は70パーセントってところか…それより、搭乗者が誰なのかが

気になる。



 「司令…お久しぶりです…のちほど、そちらに参ります」


 なんと!メイちゃんでした…オヤジのヤツ…どーゆーつもりだ?



 「よう、バカ息子、また、随分と派手に負けたな…」



 「親父…メイ少将の件なんだが…」



 「あー?…第2ステーション事件も、第3ステーション強奪も、みんな

 敵の仕業じゃろ?…彼女は関係なかろう…」


 …このハゲ、まさか…もみ消したのか?…しかし、オレとしてはホッと

したわ……何か言ってやろうとしたとき、通信に誰か割り込んできた!

第1艦隊、ガム爺だ。



 「よう、ハゲ!艦隊率いて現役復帰か?…そんな新兵ばかりの寄せ集め

 で戦えるのか?…大人しくしていれば、少しは長生きできたものを…」



 「フン!移民船の改造品なんぞ相手にならんわ!…こっちは設計時から、

 バリバリの軍艦だぞ!大出力ガンマ線レーザーとかスゲーぞ! バーカ、

 バーカ…」


 なんだ?この老人同士の喧嘩は…もう勝手にやって…



 …1時間後……第1ステーション作戦会議室……



 各艦隊司令と親父、オレ、メイ少将…そして科学局のかえでさんが

集まった。


 …まず、損傷が激しい8個艦隊は、合流して4個艦隊に再編成する事が

決まった。ちなみに親父は、自分の艦隊を第ゼロ艦隊とかいう、わけの

わからない名称で呼んで欲しいと主張している…言いたくねえー


 次に、クラゲについて、かえでさんの見解…あの生物は、エネルギー

そのものであり、いわばカミナリ雲に似ている…持っているエネルギーを

すべて放出させる以外には、倒す方法は無い。



 「カミナリ雲か…カミナリに有効なのは…避雷針…とか?」


 なんで…オレの知識では、こんな低レベルの意見しか出せないのか…



 「仮に、要塞とあの生物を、強力なケーブルで繋げば、一瞬でエネルギー

 がショートして要塞表面で大爆発するでしょう…しかし並みのケーブル

 では、流れるエネルギー量に耐えられないでしょう」



 「第3ステーションには36基の大出力ガンマ線レーザーがあります。

 その給電ケーブルでは駄目でしょうか?」


 おお、さすがメイちゃん…良いところに目を付けた!



 「そうですね、アレならイケるかもしれませんが、宇宙生物20体全部を

 倒すには、長さが足りないですね」


 これは良い事を聞いた!…グッヘッヘ…オヤジに一杯喰わせてやる!



 「そういえば、どっかの艦隊も大出力レーザー持ってたなー」



 「お…お前!…いらんコトを言うな!」


 黙れハゲ!…他に手段は無い。



 「決まりじゃな…第0艦隊はケーブルを抜け!…ガッハッハ…」


 ガム爺が大笑い…親父は涙目…いい気味だ。


 続いて要塞攻略の手段だが…これはオレの作戦案が、すんなり受け入れ

られた…オレ以外、誰も考えていなかったのか?



 会議は終了…さっそく準備作業にかかる…オレは指令室に戻って指揮を

取る…まずは、核弾頭とロケットブースターを分離して、核弾頭だけを

第3ステーションに詰め込む…最終的には、これを要塞に突っ込ませる

わけなんですけど…



 「私が行きます!だって、もともと私が正規の搭乗員ですし、同じ星の

 同胞が犯した罪は、私が決着をつけます!」


 つむぎさん…ひさびさにマジですね。


 「今回は、私が正規の搭乗員です!私は一時的にせよ、地球を裏切り、

 大勢の人命を奪ってしまった償いをしなければなりません!」


 メイちゃんも、一歩も引かない…


 お互い譲らないねー…そんなに、核弾頭満載の第3ステーションに

乗りたいのか?



 「まあ、まあ、お二人さん…別に、死にに行くわけじゃないんだから、

 落ち着いて、落ち着いて…」


 第3ステーションの操縦室は、分離して脱出できるように改造された。

あの操縦室は、可動式の自動補充型装甲ユニットで、2層に守られており、

赤色光線の直撃に何度も耐えられる設計だ…ある意味では最も安全な場所

と言えなくもない…



 「今回、最後の一番カッコイイ役は、司令官たるオレ様がいただく!

 これは命令だ!異論は認めない!…最終局面での指揮は、親父に

 取ってもらう!」


 なんか、二人ブーブー言ってるけど、ここは強引に押し通す!



 やがて、準備は整い戦闘再開!…艦隊が先行し、第1ステーションは

やや後方で全体指揮をとる。第3ステーションは突撃に備えて待機。



 まずは、クラゲを退治する…巨大戦艦が2隻1組でリニアレールガンを

構える…両者の徹甲弾はケーブルで結ばれている。


 ケーブルはクラゲと要塞のギリギリの長さしかない…徹甲弾がクラゲを

突き抜ける間に要塞にエネルギーを放出させる…発射の位置とタイミングは、

かなりシビアだ…


 初弾発射!……命中!


 要塞表面でものすごい爆発!…水爆20個はくだらない規模である。


 「人間の命の重さを思い知れ!」


 続いて第2射……第3射……


 ヒトの命を吸い上げて作り出された怪物…次々と倒されてゆく…しかし、

要塞もまたしぶとい…これほどの爆発にもしっかり耐えている。


 クラゲの掃除が完了して、作戦は第2段階に入る…核ミサイルから分離

したロケット部分を、先日破壊した隕石の破片に取り付けて要塞へ突入

させる。


 要塞は回避運動を取れない…しかも、ロケットブースターは早くに燃焼

を終えて、岩塊は慣性力だけで突っ込んでくる。


 要塞の赤色光線は、当然スルーして役に立たない。我が軍と同じガンマ線

レーザーも持っているが、出力が小さいので、岩塊の質量に負けて破壊

できない。


 …残るは核弾頭であるが、連中はミサイルは持たず、リニアカタパルトで

直接弾頭を射出してくる。


 これを、我が艦隊が迎撃する。難しくはない…一直線に飛んで来る弾頭に

レーザーを当てれば大抵は起爆しなくなる…それに核による迎撃は、衝突

寸前だと要塞側も被害を受けるので、中、遠距離のみである。我が方は、

あまり要塞に接近せずに済む。


 この辺は、敵の装備に油断がある。我が軍と同等以上の技術があるの

だから、大出力のガンマ線レーザーを装備すべきだったのだ…遠距離の

攻撃を、赤色光線と、クラゲくんの、なんだかよくわからない攻撃に

頼りきっていたツケがまわってきた。


 岩塊が次々と要塞に衝突する…しかし要塞は動じない…先ほどのクラゲの

爆発で、防御力は想像以上であることがわかった。核で破壊するには要塞の

中心部まで、潜り込む必要があるが…それは土台、無理というもの…


 しかし、表面の武装は、かなりダメージを受けている…要塞の攻撃力は

相当に弱っている。


 戦闘はいよいよ最終局面に入った…第3ステーションの出番である。

搭乗ゲートに向かうオレを、美女2名はブーたれて見送った…まだ

根に持ってるの?…帰ったらコーヒー飲まされるな…確実に…しかも

ふたりぶん…


 「さて、いきますか…」


 味方艦隊の援護を受けて、第3ステーションが要塞に突っ込む!

第3ステーションは、要塞に半分めり込んで停止した…


 敵の攻撃は全く無い…友軍が周囲の砲台を掃討したのだ…


 オレは通信機を取り出した…ここから先の行動は、親父にしか話して

いない…強引に二人を排除して、第3ステーションに乗り込んだのも、

全てはこの為だ。


 通信機は、メイちゃんが連絡艇でアセラ人との交信に使っていたヤツだ

オレは端末を起動して、アセラ人に送信した…



 「もしもしー、地球連合宇宙軍、艦隊総司令官の大杉小太郎と申します

 …お話がしたいので、そっち行っても良いですかー?」


 まもなく返信が届いた…正当な地球の交渉者として会見に応じる…と


 さっそく宇宙服を着てステーションの外へ…なんか光ってる…ここへ

来いという合図のようだ…


 要塞の中に入ると、案内係の人がいた…なんだ男か…キレイなお姉さん

を期待していたのに…戦争中だから仕方が無い…


 要塞内は、車両で移動する…まあ…直径100kmの大要塞だし、

さもありなん…やがて、それっぽい豪華な場所に到着した。


 どっかの宮殿みたいだな…あの真ん中のイケメン風の人物が例の光線

作った科学者かな?



 「さっそくだが、用件を伺おう…」


 イケメン君、思ったより若いな…けれど指導者としての貫禄あるわ…



 「あのー、降伏してもらえませんかねー?」



 「ほう?」


 なんか余裕こいてんな…見下してんのか?


 「すでに700発の核弾頭を仕掛けました。時間が来れば爆発します、

 これは、自分にも止められません… もちろん、この要塞を壊せるとは

 思っていません…ですが、膨張ガスの推力で、あなた方を太陽系から

 追放する事は出来ます…」



 「この要塞が戻って来れないと…?」



 「戻れるでしょうね…それなりの人数を犠牲にすれば…そして、

 もう一度、地球人と戦いますか?」


 イケメン君は少々考え込んだ…



 「降伏に応じていただければ、我々の艦隊が皆さんを救出します…

 地球は、あなた方を迎え入れる用意があります…」


 さて、これでノーと言われたら、オレも、こいつらと一緒に暗い宇宙を

さまようのか…それとも、逆噴射の為の、いけにえのひとりにされるかも、

おお…こわいこわい。



 …………



 「よかろう、降伏に応じよう…我が同胞達を連れて行くが良い…だが、

 私だけは、ここに残る…」



 「え…………?」



 「安心したまえ、降伏するのだから、背中から撃つ様な、無粋な真似は

 しない」


 ホッとしたー…マジで背中から撃つ気かと思っちゃった…



 ドドドドド…………



 爆発が始まったか…今頃、指令室ではオレが脱出しないんで、

つむぎさんが、号泣しているんだろうな…帰ったら怒られるな…



 「我が民族は30億年もの間、暗い宇宙を旅して来た…いまさら、

 太陽を離れる事に未練は無い…やがては、私も、私が殺した多くの

 同胞達のもとに召されるであろう…」 


 イケメン君…なんか、浸ってますけど…通信機、借りますね…

あーあーもしもし、もしもし…



 こうして、オレは降伏したアセラ人1万5千と共に艦隊に救出

された…あの要塞にはもう第1ステーションの定員にも満たない人数

しか残っていなかった…しかも非戦闘員を含むのだから、もう戦争

どころではない…イケメン君の最後の判断は正しかった。


 第1ステーションで、1番にオレを向かえたのは、嫁…じゃなくて、

つむぎさんでした…泣いてました…そして、激おこ…です。



 「ぐすん…大佐…コーヒー百万杯…」


 あんた、オレを殺す気ですかい?…いや…マジで死ぬから…それ…



 「司令…百万杯のコーヒー…是非、私も協力させていただきます…」


 メイちゃんまで加わって……こっちは、なんだかニヤニヤしてるけど

…なんか三角関係みたいになっちゃうから、やめてー!!


 最終回もコーヒーネタで終わるのー?……あーもう疲れた…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙大艦隊 しふしふ @shifu2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ