第3話 宇宙怪獣の脅威


 これまで宇宙人と呼んできた宇宙人さんですが…広義の意味では地球人も

宇宙人に含まれてしまうので、この際…言い方を変える事にしました。


 異星人さんでも良いのですが、すでに惑星アセラ出身とわかっているので、

「アセラ人さん」と呼ぶ事にします。


 ちなみに「アセラ星人さん」だと我々も「地球星人さん」と呼ばれて

しまうので、やはり「アセラ人さん」が妥当なのでしょう。




 この前の戦闘で犠牲者が大勢が出て、さすがに地球連合も公式にアセラ人

と戦争状態に入ったと宣言した。


 いざ、戦争モードに入ってしまうと、予算云々の制約はぐぐっと軽くなり、

おおっぴらに軍備を拡大しても良くなった。負けたら人類絶滅だしね。


 第2ステーションの修復、赤色光線への対策、艦隊の整備と人員の補充…

平時だった頃が、まるで嘘のように作業が進んでいく…よしよし。


 前回は、完全に奇襲だったが、もう地球に落とすモノが無いので、次は

いよいよ本物の隕石と一緒にやって来るだろう…およその時期もわかって

いる。

 

 惑星アセラの断片…つまり巨大隕石は、いくつかのグループに分かれて

やって来る…最初の第1波はまもなく地球圏に到着予定…


 我が方の戦力は、1個艦隊増えて、都合7個艦隊の770隻、あと

ステーション2つ…ただし第2ステーションはハッキングプログラムが

残留している可能性があるので、まだ限定的な運用しか出来ない。さらに

前回、救援が遅れたことを考慮して、より低い軌道に置くことにした。




 ところで…第2ステーション唯一の生き残りメイ・スウィトナー少将は、

なぜか司令部預かりの形で、副官兼参謀として、オレの横に立っていたり

する。


 つむぎさんが、親父に呼び出されて、地球へ行ってしまったきり全然

帰って来ない…なので、臨時に少将閣下が副官なのだが…オレより階級上

だし、気を使うのなんのって…


 名前のスウィトナーが、とても言いにくいので、メイ少将と呼ばせて

もらっている。ちなみにオレの心の中では、もうすでに「メイちゃん」と

呼称されている…メイちゃんは大変優れたお方のようで、頭はキレるし、

仕事は速い、才色兼備というか、なんというか、伊達に若い女性が閣下を

気取っているわけではない。親の七光りで出世したオレなんかとは、もう

輝きが違う。


 きっとコーヒー入れるのも上手いんだろーなー…でも、おそれ多くて

頼めません…しかし、不意にクソ不味いコーヒーが飲みたくなるのは、

なぜだろうか…



 今回やって来る隕石群の目玉は、1個の巨大隕石、直径が、第1

ステーションの10倍だから…質量だと1000倍にもなる。これを

どうにかしてしまえば、あとは地上からでも迎撃できるレベル…


 攻撃には、大量の核ミサイルを使う…問題は敵がどう出てくるか…



 「司令官、敵から通信です!」



 「はい!?…なんですと!?」



 「オロカナ…チキュウジン…ヨ…オトナシク…コウフク…セヨ…」


 ここは、テンプレだと「バカめ」と返すべきなのだろうが…

ちょっとアセラ人さんと、お話してみたくなった。



 「もしもし…あの隕石を止めてもらえませんか?…そしたら前向きに検討

 しますけど…」



 「バカメ…ワガ…ウチュウ…カイジュウ…ノ…チカラ…ヲ…オモイ…

 シルガ…イイ…」



 …通信終了…



 うーん、こちらが「バカめ」と言われてしまった。それにしても宇宙怪獣って

言ったよなー…怪獣?…マジですかー?



 「敵艦隊発見!距離1万5千km、隕石の左右に1艦隊ずつ展開中!」




 「第1、第2艦隊は左の艦隊を、第3、第4艦隊は右の艦隊を、攻撃せよ!

 残りの3艦隊で隕石を叩く!」


 敵艦隊は高いステルス性能を持っている。前回も発見できたのは1万5千km

だった。1個艦隊は30隻程度と少なく、定数110隻の我が艦隊におよばない。

光線対策もしたし、敵1艦隊に対し、2個艦隊で当たれば十分勝てる!


 敵は隕石から左右に離れて、距離を取りはじめた。



 「敵の狙いは、我が方を分散させることにある。全艦隊、隕石から離れ

 過ぎるな!」


 さて、問題の隕石ですが…このまま行ったら、予定通り3個艦隊で核攻撃

できそうですが…



 「隕石後方から何か出ました!1体です!」


 オペレーターさん…1隻じゃなくて1体と言ってしまうあたりが、怪獣って

まるわかりじゃないですか…ま、一匹だけだし、まずは普通に戦ってみるか…


 宇宙怪獣というと首3本に全身ゴールドのイメージだが、首は1本だし、色も

紫でやや地味な印象…ファンタジーゲームのドラゴンにそっくりだが…大きさは

千m以上…剣と魔法では勝てそうもないな。


 なまものが、ハネを広げて宇宙を飛んでいる…物理的には頭がおかしく

なりそうな光景だが、幸いアニメや怪獣映画のおかげで免疫があったようだ。



 そして…やっぱ光線吐くんだ…ですよねー、威力もすごいわ。



 「我が方のレーザーがまったく効きません!」


 そりゃ自分で光線出せるようなヤツに、ハンパな光線兵器は効かんわな…



 「第5艦隊は怪獣を引き付けて、隕石から遠ざけろ!その間に残りの艦隊で隕石

 を潰す!」


 ところが怪獣は、隕石から一定距離以上、離れようとしない…まったくもって、

お利口さんなことで…


 こうなったら飽和攻撃に変更しよう…敵は一匹だ…



 「3艦隊で中距離から隕石を半包囲…核ミサイルを一斉発射する」


 300発以上のミサイル…さすがに同時に迎撃は無理だろう…問題は隕石を

完全に破壊できなかった場合の次の手段…なんて考えていたら…



 「全弾撃墜されました!」



 「うそー!?」


 怪獣は首からだけでなく、翼や尻尾からも光線をドバドバ出して、ミサイルを

全部破壊してしまった…なにそれ…反則でしょ…



 「司令…どうしますか?」


 さすがに優秀な参謀といえども、打つ手が無いといった表情…別にメイちゃん

は悪くないから…


 なんか打ちひしがれるオレ…ああ、不味いコーヒーが飲みたい…



 ……思案中……



 「ゴキブリが殺虫剤かけても、へーきな顔してたらどーする?…もうスリッパで

 ぶっ叩くしかないよなー」



 「第2ステーションを隕石の前面に移動!パワー不足は艦隊で牽引せよ!」



 「司令、第2ステーションをぶつけても、隕石との質量が違いすぎて、効果は

 期待できません」



 「違うよ…これはスリッパなんだよ…隕石じゃなくて、あのトカゲ野郎を

 ブッ潰すのさ!」


 おそらく、あの怪獣は隕石を守ることだけを躾けられている番犬なのだろう。

たとえ相手が熊でも象でも、自分の身を顧みず向かって行く優秀な番犬なのだ。



 作戦が進む…第2ステーション移動開始



 なんだかメイちゃんに悪い気がするな…もとは、あそこの司令官だもんな…

ごめんね。



 …第2ステーション移動完了…総員退去



 …第2ステーション、隕石に接近…さてどうなる?…ちなみに怪獣がよけたら、

オレ泣くから…



 予想通り、宇宙怪獣は第2ステーションに向けて光線を撃ち続ける。だが今度

ばかりは、相手が巨大過ぎた。…ついに隕石とステーションの間に挟まれ…潰れた

…たぶん。



 「じゃ…あらためてミサイル攻撃開始」



 「司令官、核ミサイルは撃ち尽くして残っていません」



 「あーっ!そーだった!忘れてた!第1から第4艦隊を呼び戻して、第5艦隊

 以降と交代させて!」


 なんだか、とてもカッコ悪かった。すっかり取り乱してしまった…つむぎさん

なら笑ってオレを慰めてくれるのに…全員沈黙だよ…凍ってるよ…あうう…



 事前に、隕石から離れすぎないよう指示してあったので、艦隊の交代はスムーズに

運び、敵艦隊も宇宙怪獣を失って戦意喪失さながらに撤退していった。


 やがて核攻撃により巨大隕石はバラバラに砕け散った。



 「司令官、お疲れ様でした。コーヒーをどうぞ」



 「ありがとう」


 ああ、メイちゃんの入れてくれたコーヒーさぞかし…



 「ブッ!不味い?」



 「すいません、私…コーヒーを入れるのだけは苦手で…」



 「いやいや、いーんだよ、ちょうど、こーゆーのが飲みたかったんだ…」


 人は見かけによらない。完璧な人間など存在しない…でもそのときオレは

たしかに、美味いコーヒーより、不味いコーヒーが飲みたかった。

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