第4話輝く力と一対の子供(その二)

 風吹く森の嵐が来るころ。

 前方を行く二人の影が小さく震えた。

 そちらに気をとられているうちに、クラインは謎のつる草に脚をとられた。ひっくりかえる天と地。クラインは長さのある剣で、根元を探り当て、断ち切った。

 前方の二人も同じだったらしく、今は逆さづりで力なくぶらさがっている。

 クラインは、ざくざくと歩み寄りながら、その醜態を眺めやった。

「オレになにか言うことは?」

「……リザを助けろ」

「バルダーナ、わたくしはいい!」

「ちくしょう。風樹はすぐそこ。リザ、おまえだけでも進むんだ」

 クラインは口の中だけで呟く。

 やはり、似ている、と……。

「助けるのは一人だけだ」

 ばっさりと切って捨てて、バルダーナを自由にする。

「おまえの女は自分で助けな」

「べつに、そんなんじゃ!」

「ふん、せっかく自由になったんだぜ? 急がないと、また逆さづりだ」

「うう! くそ。リザ!」

 

 ばち! ばちちちち!


 バルダーナは絡みつくつるを電撃で攻撃した。

「ありがとうバルダーナ。ありがとう、剣士よ。そなたたちのおかげで助かった」

 しゅるしゅると力を無くしてしおたれる、つる草にがんじがらめにされていた手足を動かしながら、リザは言う。

「おまえさんのナイトが助けたんだろう」

「バルダーナは、そなたのようには剣を使えなんだ」

 バルダーナがちっと舌打ちする。

「それにわたくしだけ助かっても、仕方がなかった。礼を言うぞ。剣士」

「剣士、けんしというが、オレは……」

「シッ、誰が真の名を聞いているかわからない。わたくしとバルダーナは真名を持っているが、そなたは見たところ人ではないようだ」

「そうかい」

 それっきり、クラインは興味をなくして立ち去りかけた。

「待て!」

 背後で鋭い呼び声が彼を止める。

「オレを犬っころのように呼んでくれるな」

「待ってくれ……」

 しゅんとしてバルダーナが頭を下げる。

「なんだ」

「オレに剣を、教えてくれ」

 その瞳は不安げに揺れていた。

「そんなことできるか」

「頼む! オレはこれ以上、リザを危険な目に合わせたくないんだ」

「オレは……許されない罪を犯した」

「……それから?」

「おまえたちは未来がある。友がいるではないか」

「こんな地獄でか?」

「こんな地獄だからこそ、だ」

「それだけか?」

「オレは……を失ってから、人と口をきいたことがなかった。だから、もはや人語を話せているのかもわからないしまつ」

「それでも、オレたちには通じているし、剣も使えるだろ、あんた!」

「剣ばかりが生きる道じゃない」

「なんで! オレはその剣の腕が欲しい」

「無い物ねだりだな」

 背を向けるクラインの手をとり、リザが言う。

「剣士、手指を……」

 クラインは何でもないように、左手の小指を見つめる。爪がはがれている。

「浅いから放ってあるんだ」

 すると、リザの両手からあったかな光がうまれて、その傷を覆って癒すではないか。

「これは驚いたな。跡形もない」

 クラインは切れ長の目を見開く。

 リザは、それをのぞきこむようにほほえんだ。

 

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