第1話孤独の戦士

 神と精霊が、人と共にあったころのこと。

 そこは星も月も昇らぬ闇の中。風吹く森のそば近く。砂の砂漠の真ん中で、黒衣の戦士が、たった一人で亡者相手に剣を振るっていた。


 その姿は異形。

 端正な顔立ちではあったが、人間ではない。

 瞳は紅くらんらんと輝き、実体のない亡者相手にどうしようというのか? 頭髪は銀色。鎧下の鎖帷子も肌も、埃にまみれ、年はわからない。

 亡者は実体なく、この闇の世界で肉体を維持するものに、嫉妬と怨念でまとわりつき、精神を蝕もうとする。生命力さえ奪おうと、まがまがしい呪詛をくりかえし、魂を穢そうとする、エーテル体なのだ。

 そんな中でも、彼は己のためには戦うことしか自分に許さない。

 いや、許されないのだと、悟っていた。

 それはオオカミの化身である、獣神の本能。

 彼の名は、クライン。

 この世界で、名乗ることのないであろう、昔の名だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る