第19話

【実戦その1】



まさおは、電話の前で緊張していた。




いつもは、こちらがこちらのタイミングでかけているが、今回は、かけられるのを待っているのだ。






ドキドキする。とりあえず、ジジイの教えてくれた二つのテクニックを思い出していた。




テクニック1


相手の意見を絶対に否定しないで、相手が自分で間違いに気づくようにしむける



テクニック2



自分の失敗談などを話して、スキを見せる





いっぺんに二つのことは、できない。


まずは、ひたすら相手を否定しないことに集中しよう。と、思っていたら、電話がなった。




「も、もしもし!エヌチーチー相談センターです」

「あ、あの、ここは、なんでも相談してよいのでしょうか?」

「はい。こんなことで、相談したら、迷惑なのかな、とか、ご遠慮される方もいらっしゃいますが、ささいなことでも、ご本人にとっては、大きい悩みなんだと思いますよ。なんでも相談してください」

「えーと、私の娘が食べられたんですよ」

「え?だ、誰に?」





↑“誰に?”っていうのがもう怪しい(^_^)


人間が食べられると聞いて、誰に?って、聞き返すかね、フツー。






「誰かはわからないんですが、新しい長靴と傘を自慢したくて、ルンルン気分で娘は商店街を歩いていたんですよぉ」

「お、お、俺じゃ、ねえ」

「え?」

「ちがう、俺じゃねえ」

「ど、どうしました?」

「俺じゃねえよーっ!俺じゃねーよーっ!俺じゃねーよーっ!」

「も!もしもし!だ、大丈夫ですか?」

「俺じゃねーよーっ!俺じゃねーしーっ!」



電話は切られた。


まさおはなおも、取り乱し、叫び続けた。




「俺じゃねーよーっ!あの子が!あの子が悪いんだーっ!あはーはーはーん!俺の、心理カウンセラーの話が先だったのに、そこに、アンパンマンの長靴の話をねじこんできたんだーっ!俺は悪くないしーっ!」






ジジイの度重なる暴力により、まさおは、自分自身がカウンセラーを必要とする、化け物になっていたのだった。




こうして、まさおの実戦一発目は、敗戦に終わったのだ。

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