第7話 結婚式

 先輩がめでたく結婚することになり、結婚式二次会の幹事として中途入社の若い方が任命された。私たち下っ端も自然な流れで裏方役になった。


 休日になるとビンゴゲームの景品の買い出しに駆り出され渋谷のヨドバシカメラや新宿の東急ハンズをはしごする。


 本番当日の出し物をどうするか相談した結果、寿司屋らしく巨大な太巻きを作り祝う事になった。サプライズなので本人達には内緒で秘密裏に計画は進んでいく。


「巨大太巻きの重量に耐えれるような神輿を作り、会場にハッピを着た若い衆で賑やかに運ぶのはどうだろうか? 」


 誰かの提案が採用され神輿作りが始まった。ドン・キホーテで材料を仕入れ木材を組み上げ赤と白のテープで巻いて紅白に装飾し、金色のおもちゃのボールを周りに吊り下げ、中央に丈夫な鉄板を張り合わせた。当日は鉄板にサランラップを巻く予定だ。


 遠くから見ればそれっぽいが、近くで見ると安っぽい作りが一目でわかる手作り神輿が完成した。衣装合わせも終わり会場の下見に行き早朝に荷物の搬入を行う。主役にバレないように搬入するのは骨が折れた。


「すいません。当日の事で聞きたいことがあるんですが......」


 わざわざ手伝いの女子に演技をしてもらい、現場から主役を遠ざけて布をかぶした神輿を会場に運んだ。


 日曜日の結婚式当日、裏方は式には出席せずに朝から調理班と合流し太巻きの制作に入る。ただの太巻きではなく桜の飾り太巻きを作る。


 大判ノリを米粒でつなぎ合わせて通常よりも倍の大きさの海苔を作る。シャリを十二、五升炊いてその上にガチガチに固めて敷き詰めてから、中身に桜でんぶを使った通常の大きさの太巻きを数本を重ねて更に巻いていく。飾り寿司が得意な方に指導してもらいながら全員の力でなんとか巻き上げた。彩りを考えて卵焼きや胡瓜も使用した。


 煙突のような太巻きはずっしりと重く、自重により形が変形してしまう。そこでラップを使いぐるぐる巻きにして形を整えてから、しばらく馴染むまで待つことにした。その間に片付けを行いしばらくしてからカットする。


 数時間後には会場入りしなければならないので失敗は許されない。みんなが緊張するなか中途入社の方が覚悟を決め一気にカットする。成功だった。見事に断面図が桜の形をしている。乾かないようにラップをして急いで車で運んだ。


 二次会の会場では続々と人が集まり私は受付を担当した。


「お名前を頂いてもよろしいですか? これはビンゴゲームのカードです。大事に持っていてくださいね」


 坊主頭の集団が受付をするといかつい雰囲気を与えてしまう。若い元気のあるヤンチャな参加者は酒に酔っているせいか喧嘩を売ってくる者もいる。女性は怖がって近づいてこない。そんな些細なトラブルも乗り越え二次会がスタートした。


 幹事は司会も兼ねているので忙しい。有志による催し物が次々披露され会場は盛り上がっている。私たちも着替えてスタンバイする。


「さあ。ここで後輩からサプライズプレゼントがあります。あちらのドアをご覧ください! 」


 合図とともに太巻きを祀った神輿を担いだ我々が飛び出した。


「わっしょい! わっしょい! わっしょい! 」


 ジグザグにねり歩きながらバランスを保つのは腰にくる。水色のハッピ姿に背中には「祭」の文字が描かれ、上下に神輿を揺らしている我々にカメラのフラッシュが光り歓声が上がる。


「おめでとうございま〜す!!!!!! 」


 新郎新婦の目の前にはいつの間にかまな板と包丁が置かれている。数人がかりで慎重に太巻きをまな板に下ろした。


「新郎新婦によるケーキ入刀ならぬ、太巻き入刀です。それではどうぞ! 」


 実験段階では米がガチガチに固まりすぎてカットが困難であることがわかっていたので、前もってカットしてある切断面を海苔で塞いであった。


 後輩が素早く新郎に耳打ちして包丁を当てる場所を指示する。


「それではお二人ともいいですか? せーの! 」


 見事な桜の断面図が現れて再び歓声が上がり大成功に終わった。


「みんな、ありがとう! 」


 普段はムカついてしょうがない傍若無人の先輩が感謝している。会場のテンションはこの瞬間がマックスだったと思われた。太巻きは固すぎて食べることはできないのが残念だ。


 二次会が終わりみんなが疲れ果てぐったりしている。幹事の方が戻ってきて皆を労うが、やはり幹事の方が司会もしていたので一番疲れているように見えた。缶コーヒーを飲みながら呟いた。


「もうしばらく幹事はコリゴリだな......」


 裏方もしばらく御免である。とにかく疲れた。



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