第10話 吉原へGO

 お世話になった先輩が辞めることになり送別会のいつものコースで居酒屋、キャバクラと来た所で誰かが言い出した。


「吉原にでも行くか」


 電話で予約し都営地下鉄で浅草駅まで行き指定の場所で待っていると店の方が車で迎えに来てくれる。似たような建物が碁盤目状に並び迷子になりそうだ。控え室には漫画、飲み物、風俗情報誌などが揃えてある革張りのソファが置かれていてリラックスできた。


 部屋には様々な年齢層の男がいる。紳士風の初老で小綺麗な男性もいれば、建設業のジャンパーを着込んだ「仕事帰りにここに来た遊び人です」といった感じの慣れた様子の若者もいた。みんなが黙り込んで静かに待っている。


 女の子の写真が並べられ質問をするとその子の情報を教えてくれる。店のナンバーワンは予約しないと遊べないほどの人気らしい。主賓の先輩から先に選んでもらい私も残った女の子を吟味する。


 やがて偽名で登録した名前が呼ばれてボーイについて行くと、階段の下でネグリジェを着た美人が微笑んでいた。


「よろしくお願いします。カエデです」


 優しく手を握られてそのまま階段を登って行く。淡く光る黄色い電球が淫靡な世界を怪しく包んでいる。部屋に入り女性は服を脱がしてくれて丁寧に畳んでくれた。吸い付きそうな白い柔肌に赤い頬が生えて美しかった。甘い香りが身体中から漂い興奮が高まる。


 キスから始まり行為が始まった。やがてお風呂に導かれて伝統のマットプレイが始まり空気で膨らんだマットに二つの肉体が擦れて「ギュッ、ギュッ」とやらしい音が浴室に響く。確かに気持ちがいい。いつまでもこうしていたい。脱力し身を預けてされるがままだ。


 ベッドに戻って体を拭いて行為の続きをする。実はこれが私の初体験だ。女の子はいわゆる喘ぎ声を出すが私の頭は冷静だった。


 よく初体験に幻想を抱く話はあるが私の初体験にはそんなモノはなかった。女の子はよく頑張ってくれたし、サービスも良かったが桃源郷と呼ばれるほどでもない。


「こんなものか」


 私の正直な感想である。「いい運動をしてスッキリした」こう言い換えた方が正しいのかもしれない。


 行為が終わってからも女の子は気遣いをやめない。部屋を出てからも階段下まで見送り手を恋人繋ぎしながら


「また来てね」


 耳元で囁く。いい気分ではあるがそれだけだった。「私はハマらないだろうな」直感で感じた。


 先輩や後輩はホクホク顔で戻ってくる。お互いの感想を言い合ってエロ話に花を咲かせる。酔っ払いの後輩が街の道の真ん中で私の本名を叫び出した。


「バカ! やめろ! 」


 後輩は走りながら叫び出してやがて消えて行った。無駄に運動神経がいいため追いつけない。相当に酔っていてご機嫌らしく遠くから私の名前がこだまして聞こえてくる。時刻はもう朝に近い。


「勘弁してくれよ」


 なんとかみんなで探し出してタクシーに押し込み先輩に挨拶をして別れた。朝の靄の中にある吉原の風景は浮世離れしている。映画のセットみたいで現代に共存しているとは考えにくかった。


 私の初体験はこうして終わった。意外とこういう方も多いのではないでしょうか?

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