第四夜

第13話 お任せ、気まぐれ

 仕事辞めようと思うんだ。

 僕のメールに『通』が返信してきた。

 明日、メシ食いに行こうぜ。


 彼は一応、心配してくれているのだ。

 違う友人である『同僚』からは、おめでとうと返ってきた。

 なにが?


 待ち合わせは19:00だったが、4時間も前に僕は待ち合わせ場所にいた。

 家に居たくなかったから、無駄に早く出かけた。


 本屋の駐車場で、ボーッとしていた。

 いい歳して、僕は何をやっているんだろう…そんなことを考えると情けなくなってくる。

 こんなはずじゃなかった…順風満帆だったのに…なぜつまずいた?

 足元を見なかったから…先ばかり見ていたから…きっと僕は…。


 そんなことを考えながら、車の中で薄暗い空に浮かぶ白い月を見ていた。

 窓を開けていた、久しぶりでもないのだが…懐かしいような気がした。

「おう、早かったな」

『通』が隣に車を停めて僕に声をかけた。


「あぁ…ヒマだから早く来ていた」

「そうか、まぁ乗れ、メシ希望あるか?」

「いや…なんでもいい」

「そうか、食ってないんだろ?任せろ」


 任せろ…良い予感はしない、けど食欲も無いし…ホントに何でもよかった。

「あぁ、任せるよ」


 車で移動3分…だった。

「ハンバーグでいいか、そうしろ」

「うん、まぁなんでもいい…COCO'Sじゃないんだな…こっちなんだな」

「おう、COCO'Sの方がいいよ俺も、でも今日はこっちなんだ、なんかこっちの方が入りやすい」

「そうなの…僕はどっちでもいいんだけど…混んでるな」

 車から降りて、歩き出すと、『通』と向き合った…。

「なぜ?」

「ん?オマエ、混んでるの嫌そうだったから、CoCo壱番にしようかなと思って」

「そうなの?どうでもいいけど」

「おう、カレー食いたいんだ」

 気が変わるの早いよ…。


「何食おうかな~なんか選べないな~、なんでだろ?えっ?あれ?…あー、俺、お昼もカレー食ったわ」

「えっ?昼もカレーだったの?」

「そうだった…いやーなんか食欲無いなーって気がしたんだ…それだ」

(ボケ老人みたいだな~、まぁ食ったことは覚えてるんだからギリか…)

「どうしようかな~野菜カレーにしようかな~」

「僕、コレ」

「決めるの早いなー、悩めよ」

「僕、昼カレーじゃないからな、ところで昼は何カレー食ったの?」

「ん?ボンカレー」

「レトルトか」

「あぁ、会社で食った」

「えっ?会社でボンカレー?」

「あぁ、温めて」

(会社でボンカレー…初めて聞いたな)

「じゃあ、何カレーでもいいんじゃないか」

「コレにするわ、ハッシュドビーフ」

「あぁ…カレーじゃないしな、いいんじゃない」

「えっ?カレーじゃないの?」

「ハッシュドビーフだもん」

「えっ…カレーでしょ、牛の?」

「ビーフカレーじゃねぇぞソレ」

「なんなの?」

「えっ?デミグラスソースだぞ」

「デミグラス…アレ、ハンバーグにかけるヤツ」

「うん…ハンバーグにもかけるね…オムライスとか…」

「あぁ…ソレでいい、シチューでしょ要は、俺ハンバーグ食いたかったし」

「シチューじゃないけど…まぁいいや…お前、ハンバーグ食いたかったの?」

「最初に言ったよね!ハンバーグって言ったよ!」

「うん…でもお前が、カレーに決めたんだよ」

「混んでたから、ハンバーグが混んでたから! 空いてたもん、ココは!」

「うん…でかい声で空いてたとか言うな…悪いから…」


「あのさ…お前、辛さ2にしたじゃん、辛い?」

「適度にな…美味いと思える辛さがいいんだ、辛すぎると痛いから」

「あぁ…解る、痛いね…解る…俺も2くらいにすりゃ良かったかな?」

「ハッシュドビーフに辛さレベル無いよ」

「うそ?なんで?カレーってレベル選べるよね?」

「うん…さっきも言ったけど、カレーじゃねぇから」

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