第11話 結成! ティモニーズ

 いきなりですが、マスターの思いつきでお昼も店を開けることになっちゃった。夜だけの商売だと固定費の割合が高すぎるから非効率なんだとか……。


 働くのは私なんですけどねーっ! マスターはチームにかかりっきりで手伝ってくれないしーっ!


 そんなわけで、いつもより早く出勤し、いつもより早く仕込みをしていつもより早く店を開けると、さっそくお客様がいらっしゃった。


「あら、ここのスープおいしいわ!」

「このパンとサラダもこのあたりじゃなかなか手に入らない食材よ」

「メインがこれでデザートまでついてこの値段はかなりお得じゃない?」


 という嬉しい声が聞こえてくる。実際私の料理はご近所の奥様方に大好評らしく、出だしは順調っぽい。やったー! と喜んでしまう私もバカなんだけど……。


 そして帰りがけに数名のお客様がノーブラの告知に目をとめてくれたの。


「今度コロシアムに行ってみよっかな~」


 そう言ってもらえると、私としても任務をまっとうミッションコンプリーテッドした気分になる。ありがとうございます!


 ランチタイムが過ぎると、フロアを片付け、夜に向けて仕込みに入る。で、一通りやることを済ませて少し休憩していると、入口のドアが開く音が聞こえたの。


「すみませ~ん、外の張り紙を見てきたのですが~」


 私が控室から出てみると、そこにはかわいらしいエルフさんがいらっしゃった。


「あ、チアリーダー募集の件ですか? どうぞ、こちらに」


 粗相の無いよう店内にお通ししてお話をうかがうと、彼女はノールランド郊外のダンスグループの先生なのだそうだ。年は聞かない。エルフには決して年を聞いてはいけない。見た目でカワイイんだからそれ以上は踏み込んじゃだめだ。


 スポーツについて説明する自信のなかった私は、水晶玉で他のチームの応援を見てもらうことにしたのね。彼女――ティモニーさんは真剣な表情でそれを見終わると


「とても興味があります」


 って言ったの。目に力がこもってるし。申し訳なさそうに私が


「おそらくギャラ的なものは出ないと思いますけど……」


 と伝えると、彼女は


「いえ、お金を期待しているわけではありませんので」


 ときっぱりと言い切り、メンバーを集めてもう一度マスターがいる日に来てもらうことになったの。


 その後、まかないのサラダをご馳走しながら軽く談笑する中で、スポーツチームのことや現在の状況をそれなりに伝えると、ティモニーさんは真剣に耳を傾けてくれた。まるで水晶玉に映る赤いチームカラーのモヒカン選手たちに思いをはせるかのように。


 ティモニーさんは去り際、ご住所と連絡先を私に渡しながら


「マスターによろしくお伝え下さい」


 とお辞儀して帰られた。これはかなり脈ありかも! それになんだろう、ひょっとして私って有能? なーんて思いながら夜の営業の準備を始めていると


「おはようございまーす!」


 練習を終えたトミーが出勤してきた。さっきのティモニーさんのことを話したくてしょうがなかった私はトミーに向かってまくしたてるように伝えたのね。てっきりトミーも喜んでくれるかと思ったから。だけどトミーの反応は意外に薄かったの。なんだよ~水晶玉の前で相手のチアリーダーをガン見してたくせによ~。


 最近のトミーは店の仕事もそれなりに覚えてきて、私が指示を出さなくてもテキパキ動くようになってきたし、現役選手ということもあってかお客さんの受けもいい。子供だとばかり思っていたけど、男の子って成長するもんなんだね~。


 そんなことを考えながら準備の確認をしていると、再び店のドアが開いた。


「いらっしゃいま……って、マオじゃない! ナオも来たの?」

「こんばんは! さっそく来ちゃった~」


 二人はニコニコしながら奥のテーブル席に座る。私はトミーにメニューを持っていくように言ってカウンターから様子をうかがったの。


 マオもナオもトミーの接客に目を輝かせながら注文を済ませると、やつはこっちに戻ってきて私にオーダーを告げた。


 私が気を利かせてエールの他にサービスの軽食をトミーに持って行かせると、二人とも大喜びでトミーの分のエールを追加注文してくれた。あーそうそう、トミーも飲むのよ~。しかも若いくせに強いの。体育会系だからかしらね?


 できた料理とトミーのまかないを私が運び「せっかくだからそこで食べなよ」って言った、ちょうどそのタイミングで二組目のお客さんが入ってきちゃった。急がなくてもいいよって私はトミーに言ったんだけど、彼はパパッとまかないをかきこんで、すぐに仕事に戻った。女心がわからないやつめ……。


 だけどその日は結局お客さんもあまり来なくて、マオもナオもカウンター席に移って私たちと話す時間が十分にあったから彼女たちも満足したみたい。トミーがどっちを選ぶかはわかんないけど、こういうのを見守るのも悪くないなって思ったな。



 翌日マスターにティモニーさんのことを伝えると、マスターは大喜びだった。さすがに小躍りとかはしなかったけど、テンションがめちゃくちゃ上がってたのは傍目はためからもよくわかった。男って単純だよね。さっそく手紙を書いてたよ。


 マスターのいた世界には携帯電話とかインターネットとかメールとかいうものがあったらしくて、遠隔地の人とのやりとりも楽だって言ってたけど、どういうことなんだろう? そのうちそんなものがこの世界にもできるんだろうか? そうなったら、どんな世界になるんだろう? 少し想像をめぐらしてはみたものの、私はあまりイメージできなかった。


 チアリーダーグループの話はその後とんとん拍子で進み、あっという間に10人の応援団「ティモニーズ」が結成されると、次の試合から始動することになったのね。もちろんその前にノーブラとのコンパもやりましたよ。盛り上がりました。ティモニーズのお姉さまたちもノリがよくて夜通し大合唱でした。


 Welcome to our mud city!

 狂気の街へようこそマスター♪


 BrowserBacks!

(BrowserBacks!)

 BrowserBacks!(BrowserBacks!)


 と世紀末っぽいサウンドにみんなが踊り狂ってました。


 なんて言うか、男も女も関係なく、生まれたからには精一杯生きろと、いつ死んでも悔いなきよう、やり切れと、そんなメッセージを受け取ったような気がする一夜でした。はい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る