第10話 女子会

 そんなある日の非番のこと、私は同級生の女の子たちと遊びに行く約束をして、街に繰り出したのね。


「ミオごめーん! 遅くなっちゃった」

「大丈夫だよ、ナオ。まだマオ来てないし」


 ホークルは時間にルーズな子が多くて、予定通りに集まることなんてまずない。だから定時に来たらバカを見るんだけど、私は他の種族との付き合いも多くなったせいか、時間は守るようになった。決して真面目なわけじゃないよ、って私の話聞いてればわかるよね(笑)。


「ミオ、ナオ、おはよ~」

「おはよ~じゃないよ! マオ。何時だと思ってるのよ。もう12時よ?」


 私より遅く来たナオが怒ってる。でも私たちホークル女子三人組、なんだかんだでいつも仲良しなの。そのままショッピングに行って、昼食を楽しむつもりだったんだけど、もうお昼だから先にご飯にすることに。


 近くのこじゃれたレストランに入ると、とりあえず三人ともエールを注文。え? 酒なんか飲むのかって? もちろんよ。ホークルはエールが大好きなの。小さいころから飲んでるわよ。水みたいなもんだし。だから頭悪いのかって? うるさいな~


「ところでミオは彼氏できたの?」


 ちょっとナオさん、いきなりその話ですか~? 「人生=彼氏いない歴」更新中なんですが……。


「あんた最近急にかわいくなったから、絶対男できたと思ったんだけど……」


 マオにも言われた。え? かわいくなった? マジで?


「職場にイケメンがいるとか? で恋に落ちたとか?」

「いないよ、というかイケメンはいるかもしれないけど、私、顔では選ばないもん」

「そうよね。あんたは昔っから堅実志向だもんね」


 マオに言われた通り、確かに私は昔から堅実志向。長い人生をいかに波なく乗り越えるかばかり考えてる。といってもお役人さんとお近づきになれることなんて、なかなかないんだけどね。


「そういうあんたたちはどうなのよ?」

「私は先月別れたばかりよ」

「あたしは先週」


 うわっ、そうなんだ……でもこの子たちはすでに過去の事など忘れたかのように、あっけらかんとしていた。


「だから、もしミオの新しい職場にいい男がいたら紹介してもらえないかなって」

「イケメンだったら種族とかこだわりないから、お願い~」


 いきなりかよ! っていうか、あのモヒカンどもを前にしたらさすがのあんたらもひくと思うぞ。


「うちの店に来るのは構わないんだけど、怖い思いするかもよ」

「「え? なんで?」」


 私が二人に説明しようとしたその時だった。お店のドアが開き、大勢のモヒカンどもが入ってきたの! もちろんノーブラの選手たちだった。


 目の前の二人の顔色が青ざめていくのがわかる。私がモヒカンどもに顔を見られないようにちぢこまりながら周囲をうかがうと、他のお客さんたちも恐怖で顔がひきつっていた。だがうちのやろーどもは全然気付かず、レストランの空席を占拠していく。


「ど、どうしよう……」


 震え声でナオが言った。


「大丈夫だから。落ち着いて」


 私が二人をなだめたそのタイミングで私たちのテーブルに料理が運ばれてきた。心なしかウェイターさんの手も震えてるみたい。


 その時、遠い席から


「おー、あれうまそうだな、兄ちゃん、あれくれよ、あれ」


 そう言ってマスターが私たちの席を指さすのがわかった。


 ちらっと見たんだけど、こんなところでもマスターの風貌は異彩を放っていて、マスターの席に注文を取りに来ていたウェイトレスさんは足が震えていた。


 私たち三人娘は、彼らとは目を合わせないよう、顔を見せないよう急いで料理に手をつけ、そそくさと食べ始めた。はやく食べ終わってお店を出たい一心で。


 と、その時


「ガチャン」


 マスターの席のグラスが床に落ち、割れる音がしたの。


「も……申し訳ございません……」


 ウェイトレスさんが半泣きで謝ってる。


 思わず振り向いちゃった私の目がマスターの目と合った。


「あれ? ミオじゃねーか」


 見つかっちゃった……。

 しょーがない……。



 私は席を立ち


「ちょっと、あんたたち!」


 唖然とするナオとマオをテーブルに置き、ウェイトレスさんに近寄りつつ言った。


「コワモテの男が大勢お店に入るときは挨拶の一つくらいはするものよ。でないと、店員さんも他のお客さんたちも怖がっちゃうでしょ。ほら、あなたも大丈夫だから」


 そう言ってウェイトレスさんの手を取る。


「あ、ありがとうございます……」


 ウェイトレスさんが立ち上がり、掃除道具を取りに行った。と、そこで


「アネゴ、ごめん!」

「申し訳ない、アネゴ!」


 モヒカンどもが立ち上がり、私に向かって頭を下げた。ちょ、ちょっと! こんなところでアネゴって呼ぶのはやめてよ! ほらお店の人も他のお客さんたちも勘違いしてるじゃない。だから、誤解よ! そんな目で私をみないでーっ!!


 いろいろとあわてる私をしり目にマスターが立ち上がると、周囲の目を引き付けるかのように言ったの。


「みなさん、お騒がせして申し訳ない。我々はノールランドを代表するスポーツチーム、ブラウザーバックスの一団です。みなさんがお食事を楽しまれていたところをお邪魔したようで、代表してお詫び申し上げる」


 そしてウェイターに向かって


「むさくるしい男どもが雰囲気を壊したお詫びに、お客様お一人に一杯ずつ、ドリンクを出していただけないかな? 私のおごりで」


 そう言ってその場をおさめたのね。


 私は何だかとんでもなく恥ずかしい思いをしながら、ナオとマオのところに戻ったんだけど、その私たちにもエールが一杯ずつサービスされちゃった。だけど私は他のお客さんの視線が気になって食事ものどを通らない。


「ねえねえミオ、ひょっとしてあの人たちがスポーツバーに出入りしてる人なの?」


 ナオに聞かれた。ううっ……はい、そうです。としか答えようがなかったよ~。


「よく見るとかっこいいんだけど。今度ミオのお店に遊びに行ってもいいかな?」


 え? そりゃいいけど……ナオってば、一杯おごってもらって態度が変わるなんてげんきんだわねー。


「やったー! 私、あのホークルの子、気にいっちゃったの~♪」

「え? マオ、あんたもなの? ねえミオ、あの子、なんていう名前なの?」


 あれ? 二人ともそっちなの? 聞かれた私は当然


「あいつの名前は『勇者ババンガバンバンギダ』よ」


 と教えてあげたわ。そりゃなんたって登録名ですからねっ!

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