第22話 忍成村ハンター協会

 辺りが、からくり屋敷の隠し部屋に変わる。

 真っ暗なため時間もわからないので、とりあえずスマホで明りを取りながら時間を見る。大体お昼をちょっと過ぎたころだった。


「あ、あれだけ訓練したのに、まだ時間が経ってないべ!」


 そう言えば龍脈に入ってると時間の流れが遅くなるっていうのは、俺たちにしかわからない情報だったな。


「彩友香さまっ! 安心してください! 龍脈の中では時間の流れがゆっくりなんですよおっ」


 真っ赤になって桔梗が彩友香に説明する。

 いや、毎回それだと疲れるでしょ。と俺が桔梗に言うと、


「ヒッヒッフー!」


 どうやらラマーズ法が桔梗の落ち着く深呼吸法だったらしい。間違ってるけど。



 俺たちは隠し部屋から出て、ひとまず千波医院まで戻ることにした。


「卵かけご飯だけどいい?」


 超手抜きの昼飯だったけど、俺は卵かけご飯が大好きだ。

 それをもりもりみんなで食べていると、じいちゃんが居間へ顔を出した。


「おお、みんな戻ってきとったのか。って……彩友香、その服は」


 と忍者の扮装を見て驚くじいちゃん。さらに桔梗を見て飛び上がるほどびっくりし、そして居間の床へとひれ伏した。


「うわぁぁ、鎮守神さまをこの目で見れる日がくるとはぁ! ありがとうございます! 今まで生きていてよかったぞい……」


 俺たちはじいちゃんの豹変にびっくりし、彩友香と桔梗はウザそうな目でじいちゃんを見ていた。



「あのさ、じいちゃん。この子は桔梗っての。あたしの子分だって」

「は、はじめまして! 彩友香さまの子分の桔梗と申します。以後お見知りおきを」


 ひゃあああ! と情けない声を出して驚くじいちゃん。いちいちリアクションが大きいよね。


「そ、その……子分というと…………」


 そこでいっぱいいっぱいになったのか、じいちゃんはキュー! という音をたててひれ伏したまま気絶してしまった。

 そのじいちゃんのうしろには、じいちゃんと同じぐらいの年齢で赤い帽子をかぶった男性がいた。その帽子には『忍成ハンター協会 会長』という文字が金色の王冠をバックにかっこよく刺繍されていた。


「ほう。鎮守神とその巫女か。まさかサユちゃんが巫女だとはなぁ」


 目線は鋭く、着ているベストの胸元にはいくつかの大きな銃弾がこれ見よがしに挿してあったが、彩友香を見る目はとっても優しそうだった。

 彩友香もハンター会長は知り合いだったらしく、似合うべ! と忍者装束をお披露目し、桔梗を紹介していた。



「で、君たちがあいつらの要請を受けてやってきた、部外者か」


 ハンター会長が、俺たちを見る目は獲物を狩る前のようだった。

 ここに銃があったなら、きっとその銃口は俺たちに向いていたことだろう。


「あ、その……あいつらって言うのはここの役場職員ですよね? あの方々とは決別して今は彩友香を手伝うために俺たちはここに居ます」


 超早口で俺は説明する。だってこわいんだもん。

 ふん、と面白くなさそうな様子でハンター会長は俺たちをターゲットにした鋭い目線を外し、桔梗に目をやる。


「鎮守神さま。どうかあいつらとそれを操っている鬼武帝きぶていを倒してください」

「き、鬼武帝ってなんですかっ?」


 彩友香の影に隠れて、桔梗がハンター会長に質問をする。


「そんなこともわからんのが鎮守神さまなのか……あ、いや失礼! わたくしめが説明いたしましょう」


 と、俺たちを集めて、周りに聞こえないように説明を開始する。

 ちなみに、ハリセンじいちゃんはまだうつ伏せのまま気を失っていた。



「あの役場職員どもは鬼武帝の手下だ。鬼武帝とは鬼の頭であり、古くから北の山に住んでいたと言われているな。その鬼武帝を祀っていた祠があったのだが、それをあいつらは壊し、鬼武帝を復活させる儀を進めているらしいという噂だ」


 なんでも5つのやしろ……簡素な神社みたいなものを、北の山に均等に造らなければいけないらしい。それであのサクヤどもは奔走してるっていうことか。


「よかった。手伝わなくてさ」

「だなー、俺とか手伝っちまったらあっというまに鬼復活だろーな」


 ミカゲ、それは言いすぎだろ、と心の中で思っておくことにした。ディスったら五芒戡で殴られそうだもん。


「まあ、やつらはもうすでに鬼に飲み込まれている。だからいずれは始末せにゃならんのだが、なにせここの村には猟師は居ても、駐在はいなくなっちまったからな」


 と、ハンター会長は銃で打つマネをする。マジ怖いっす。


「ま、そのへんは鎮守神さまがきてくださったのだから、鬼も退治してもらえるだろ? 期待しとるよ。それとな、俺のところにも暇になったら遊びにこい」


 と、気絶したままのハリセンじいちゃんの肩をポンポンと叩いて、ハンター会長は去っていった。



「はぁ、いろいろ聞いたけど、さっぱりわからないべ」

「わ、わたしもです。彩友香さま」


 勇者とそれにつく龍。両方ともが事態を飲み込めていないという驚愕の事実!

 これから先、大丈夫かなぁ。

 と、ミカゲとタローを確認すると、やっぱりその2人も頼りにならなそうだった。


 これは、予想以上に俺に負担がかかるメンバーだぞ……。


 つまり、みんなを納得させ、どういう戦い方をし、どのように北の山を攻略していくかの方法を考えることが必須である。

 戦略自体はミカゲもたててくれるから、相談すればいいけど……。敵はどんな能力を持ちもしも復活してしまったとしたら、どのような影響があるかも調べなくてはならないと思う。


「まあとりあえず目障りなあいつらを……ヤる!」

「素敵です! 彩友香さまっ!」

「ちょっと待ったァ――――!!!」


 女子2人が集まったら、なんでこんな急に物騒になっちゃうの?

 そもそも、こんなひどい冒険ってあるかーい!


 全てを投げ捨てて、俺は帰りたい気持ちになった。



「すみませ――ん! 宅急便で――す!」


 俺が頭を抱えてなんてこったいな格好をしていたら、千波医院の玄関にエメラルドグリーンのツナギを着た配達員が立っていた。

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