第6話 ダンゴムシの術

「今の忍成村の状況は、結界と言われるもので囲まれていると思います」



 以前、魔王の瘴気が俺たちの村を覆ったとき、村の存在を忘れてしまう結界が張られていた。それと同様の状況が忍成村にも起こっていると、俺はハリセンじいちゃんに説明する。


「多分村から外に出ると、村の全てを忘れてしまいます。村に入ってくるのは自由ですが、この村の状況だと忘れ去られてしまったら、俺たちみたいに呼ばれない限りは入ってこられないでしょう。まして今は電話が外部にかけられない状況だし」

「ふむ……」


 深刻な顔をしてハリセンじいちゃんは何かを考えている。村は孤立した状態だし、日用品などの生活物資なども足りなくなるんではないだろうか。


 ……そうだ、役場はどんな動きなんだろう。



「あの、役場の人たちはどんな感じなんでしょうか?」


 俺が役場のことを聞くと、それまで黙っていた彩友香が猛然と立ち上がり、


「あいつら……最悪!!! 今すぐ滅びればいいんだべ!!」

「これ、彩友香! ハリセン喰らいたいか!」


 ハリセンじいちゃんがハリセンを持ち上げると、彩友香はビクッとしながらしゃがみ込み、縮こまって体育座りのような体勢になる。


「ご、ごめんじいちゃん。そして忍法ダンゴムシの術」


 ダンゴムシの術、と言うあたりで彩友香の言葉が小さくなる。


 ……少し恥ずかしいんだろうな。


 というか彩友香の服装も、上着は黒いジャージで黒いスカートを履き、黒いタイツ姿だ。自分が持っている服装の中で忍者っぽく見えるような黒い服装だけ頑張って着てみました、みたいな格好でかなり微妙である。


 そんな彩友香を横目に、じいちゃんは役場の状況を説明してくれた。


「屋外の放送が1週間前まではあったんじゃ。そのときに勇者と呼ばれる黒い影を退治してくれる専門家を呼ぶことになったと、放送があったのじゃ。だが……」

「あたしを執拗に狙ってくるの。少ない人数でここの村を牛耳っているからっていって、勝手にあたしを嫁のターゲットにしてくるなんて……!」


 忍成村は以前に合併して、八竜町はちりゅうまちという地名に変わったそう。そして、そのときに村役場は解体され、残った庁舎に新たに3人だけ職員が派遣されたそうだ。その3人はもともと地元の人間ではなく、村に以前から住んでいた人は不信感を持っていたそうで、あまり仲良くする人はいなかったらしい。


 3人の職員はそんな中で、忍者の村として有名だったこの村の新しい企画として、村の北部に位置する山にアスレチックコースなどを作り、観光産業を復活させましょう! ということを触れ回っていたそうだ。

 もちろん、その提案に乗る村人はいなかったのだが、その3人は役場の通常業務すら放り出してコソコソとなにやら行動していたらしい。


「北部には大事な宝があり、それを守る妖怪もいるという言い伝えがあったのじゃよ。だから儂らは手付かずのまま、その山を残しておったのじゃ。それをあの3人が調査をしはじめたのじゃ」

「きなくせー話だな、それは。っていうか、今の話からすると和哉を呼んだのは、その怪しい3人だってこったな?」

「というかさ、大和田課長が電話で俺が出向するにあたっての忍成村の内情を、ここの役場職員から聞いたんだよね。つまりその3人は少なくとも電話で外部に助けを呼べる状況なのに、それをしていない」


 俺は大和田課長からの出向依頼の経緯を、ミカゲとじいちゃんに話した。ここの役場職員の電話での対応が非常に悪かったこともついでに。


「むう、そんな経緯があったのか……」


 じいちゃんが唸る。


「……じゃがあの3人に会う前に、儂の話が勇者さまたちに出来たのは僥倖ぎょうこうなのじゃ。その点は彩友香に感謝せにゃならんな。手段は別としても」


 そしてじいちゃんは彩友香のスカートの中に手を入れる。


「な、なにを――――!!!」


 バッと彩友香はスカートを抑えるが、そのときにはすでにじいちゃんの手がスカートから離れ、じいちゃんはフタのついた細い注射針を3本持っていた。


「あとは勇者さまとそこの若者に使った分で……よし、麻酔の数はあっとるな」


 そしてその注射針を鍵の付いた冷蔵庫にしまう。


「ああ……忍法気絶の術がぁ……」


 じろりとじいちゃんに睨まれる彩友香。またダンゴムシの術を発動している。


 うーん、なんだろう。彩友香って娘はなにかと微妙だなぁ。可愛いのに。

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