第3話 ド田舎 忍成村

 すっかり枯れ葉も落ちた山々。その山の奥地にぽつんとその村はあった。

 見晴台から見える忍成村は、俺たちの田舎村よりも規模が小さく、おおよそ100軒程度の集落がひっそりと山間にあるだけだった。遠目からは集落のところどころに湯気が湧き上がっている。


 俺の事前の調査、とはいえネットで情報を集めただけなんだけど、忍成村は山間の人口300人程度の小さな村。温泉と忍者の隠れ里ということで、古くから観光に力を入れていた村であったが、過疎高齢化と設備の老朽化により急速に寂れた村ということだった。


「うへぇ、こんな山ん中なのかよ……電車すら通ってねぇ村はなかなかねーよな」


 ミカゲが閉口するのも無理はない。細い山道で、急なヘアピンカーブをいくつか抜けた先に忍成村はあったのだから。

 そもそも、ミカゲが仕事を返上して俺を送ってくれたのには理由がある。新幹線とバスを乗り継ぐとゆうに5時間ほどの移動時間がかかってしまう。だからミカゲは俺のために有給を取り、忍成村まで送ってくれているのだ。


 出発してから2時間半。忍成村が見晴らせる展望台が途中にあったので、そこに車を止め、昼の休憩をする俺たち。ミカゲは後部座席に置いてあったおにぎりと飲み物を出して、俺に半分分けてくれた。


「恵奈がよ、和哉さんにもどうぞって作ってくれたんだよ……まあ食え」

「うん、ありがとう」


 恵奈ちゃんはやっぱりマメだし料理は美味しい。そんな恵奈ちゃんお手製のそぼろおにぎりをほうばりながら俺はミカゲを羨ましく思った。

 そういえば、シアンも最近は母さんから料理を教わっていて一生懸命だったことを思い出した。まだまだ拙い料理だったけど、


「マスターが戻ってくるまでに夕食ぐらいは作れるようになりたい」


 と言ってたし、ちょっと楽しみだ。


「早いとこ、ここの出向を終えて帰らないとなぁ。ゆっくりもしてられないよ」

「んー、そうだな。来年の春には三代目の結婚式もあるし、それまでには戻ってこれるんだろ? 和哉」

「できれば2ヶ月……今年中に帰りたいなぁ。家で年越ししたいし」


 でも、俺だけが帰りたいと思っても、ここで勇者扱いになっている人を手助けしつつ、怪異をやっつけるところまで持っていかなければならない。俺たちの村では怪異はけがれと呼んでいたけど、ここではまた違う呼称で呼ばれているようだ。

 大和田さんにそのへんの具体的な話を聞いたのだが、


「向こうの担当者が説明ベタでさ、要点を得ないんだよね。なんでも『勇者ってなんでも退治してくれる人ですよね?』とか『村のおかしな状況を解決したのなら、こちらからの説明がなくてもわかるでしょう』とか言ってきててさ。正直な話、僕は放置しようと思ったんだけど、村長の命令で鈴成くんを出向させるように言い渡されているんだよね」


 ……あんの村長め。俺はなんでも解決できる奴じゃないぞ。

 大和田さんの言葉にはまるで具体的な説明がなかったのと、忍成村の役場職員の理解度の薄さに俺はいいようのない不安を抱えていた。


「よし、忍成村へ乗り込むか」


 とミカゲは言い、フェアレディZのアクセルをふかした。

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