第27話 コンセンサス

 「ところで来週、経理部の女子と浜辺でバーベキューをするというのは本決まりなのか?」

 営業部の一人、白井孝彦しらいたかひこが声をひそませるようにして尋ねる。


 「ああ、葉子が話を付けてくれたとかで、向こうは四人ということだが・・・」

 同僚の赤沢真一あかざわしんいちが得意そうに答える。

 「さすが、経理部では顔の利く葉子だな」

 そう、葉子とは赤沢の彼女でもある緑川葉子みどりかわようこのことである。

 

 「お前たち二人は、もうラブラブだからよいとして、それ以外に、こちらもあと二人はそろえるということか・・・」

 白井はさりげなく、同僚の赤沢に葉子と二人でいるようにと促す。


 「もちろん、黒田も行くんだろう?」

 白井はもう一人の同僚、黒田洋二くろだようじにも尋ねる。黒田とはこの会社に入る前、つまりは大学からの同級生でもある。


 「バーべキューでは、何を焼くんだ?」

 「もちろんお前の好物の肉を、たんまり持って行くつもりだが、どうだ?・・・」

 答える代わりに、黒田はニヤリと微笑んだ。


 (あいつは、肉さへ食べさせておけば、女には全く興味が無いのだから・・・)

 白井は心の中で、肉にがっつく彼の顔を想像した。


 「で、もう一人はどうするんだ?」

 赤沢の問い掛けに、白井は二つ後輩の紫葉耕平しばこうへいの名を上げた。

 「紫葉? あの財務課ののことか?」

 「ああ、もう話はついている。女子が来ると言っていたら、大喜びで参加すると言ってきたよ」


 「しかしあいつじゃ、経理部の女子には相手にもされんだろ?」

 「案外分からんぞ、たで食う虫も好き付きってなこともあるからな」

 (相手にされてたまるか。あいつは俺の引き立て役なんだからな・・・)

 これまた白井は、心の中でほくそ笑む。


 

 「と、ところで赤沢、その女子の中には?・・・」

 「もちろん来るはずだが・・・」

 彼の返事に、ホッと胸を撫で下ろす。


 「んじゃ、バーベキューコンロと食材の調達は俺に任せておいてくれ。それからテントとチェアーと・・・」

 「分かった、わかった!」

 白井の話をさえぎる赤沢。


 「で、俺たちはお前と桃田さんが仲良くなれる様にとそっと見守っていればよいんだろう・・・」


 「・・・ああ、まあ・・・」



【コンセンサス】

「複数の人の合意や意見の一致」ということを表している。一般に「根回し」という意味も含まれるが、これも合意を得るための根回しという意味が強い。単に「同意」を表すアグリーメント(agreement)とはこの点で異なる。

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