第26話 ウィンウィン

 「えっ、またかあ~ また、猫のキャラクターが出て来たよお」

 なげく僕のカバンの中には、同じかっこをした猫のそれが、カプセルに入ったまま3つも転がっている。

 つまりはこの三日間、僕は同じものを引き当てているということになるわけである。


 (どうして、僕が好きなペンギンのキャラクターは出てこないんだろう・・・)

 そう思いながらも、僕は財布の中からもう一度100円玉を三枚つかみ取る。


 でもまた猫のキャラクターだったら、全部で5つとなるわけで、合計1500円もつぎ込むことにもなるわけだ・・・

 もう一度、目の前のにらむように見詰める。

 

 と、その時、僕の後ろから眼鏡をかけた男が声を掛けて来た。

 「これ、やりますか?・・・」

 男の視線は、真っ直ぐにとそのガチャへ向けられている。

 

 「ど、どうぞお先に・・・」

 僕は一瞬ためらいながらも、そう言葉にした。いや、反射的にそう言葉にしなければならないほど、次の300円を入れる決断に欠けていたのである。

 (しまったな、二回も続けて猫のキャラクターが出て来るはずもないし、ここは確率的に言っても、もう一回チャレンジした方が良かったんじゃないか・・・)

 心の中で後悔するとは裏腹に、僕は出来るだけ平然とした面持ちで、その男の方に目をやった。


 おそらくは、その男も僕がお金をつぎ込んだそのガチャで、ペンギンのキャラクターを出したいのに違いない。僕は男の手元を真剣な眼差しで見つめる。

 300円が入れられる。ガチャガチャといういつもの音と共に、薄緑色のカプセルが出て来た。

 僕はゴクリと唾を飲み込む。


 「何だよ~、また今日もペンギンかあ~」

 (ペンギン?・・・)

 大きな声で嘆く男の手の中には、あのペンギンが透明な袋に入ったまま握られている。


 「本当にこのガチャの中、猫のキャラ入ってんのかなあ?」

 男の言葉に、僕は思わず足を一歩前に出す。


 「あの~、こ、これ・・・」

 僕の手のひらに乗った猫のキャラクターに、思わず男の顔がほころんでいく。


 「いいんですか? これと交換で・・・」

 僕はコクリとひとつうなづく。


 ただ、それだけのこと。あとはどちらからともなく、と言ってから別れた。


 僕はペンギンのそれを、手のひらの中でギュッと握り締める。ただ、それだけのこと・・・

 


【ウィンウィン】

直訳すると「相手も自分も双方が勝ち」という意味になることから、取引をする双方どちらにも利益がある形態のことをいう。英語ではwin-winと表記されることが多く、この表記方法から両者にメリットがあることがよく伝わってくるでしょう。

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