第11話

 アーレルスマイアー辺境伯領は、ローデンバルト王国西部、国境付近の領地である。すぐ隣にはソリティア帝国があるという関係から、高い軍事力有しており、またその領土も広い。つまり、辺境伯領を治めるアーレルスマイアー伯は王国の軍事を司る貴族であり、国内における地位も高い。


 王都からアーレルスマイアー辺境伯領へはどんなに急いでも三日はかかる。


 不審者――工作員がこの国からソリティア帝国へ逃げるために行動を起こしたのなら、まずはアーレルスマイアー辺境伯領へ向かうはずだし、そこへ行くには時間がかかる。


 アーレルスマイアー辺境伯領へは伝書鳩で検問を敷くように伝令を出しており、これは三日も経たずあちらへ伝わるであろう。


 まあ、王都に現れた不審者が本当にソリティア帝国の工作員であるのなら、この一連の対応は適っていることだけど、これが本当にただの不審者だったら何の意味もない。


 そして、ブルーム騎士団はその不審者なのか工作員なのかわからないそれを追って、アーレルスマイアー辺境伯領へ向かうこととなった。


「君も騎士団に帯同しなさい」


 そう言ったのは我らが国王陛下だった。


「え?」


「え、じゃないよ。君も一緒にアーレルスマイアー辺境伯領へ行きなさい」


「いや、え。でも、俺って一応家庭教師なんじゃ……」


「でも、行ったことないだろう。アーレルスマイアー辺境伯領」


「そうですけど」


「じゃあ、いい機会ではないか」


「家庭教師の仕事はいいんですか?」


「ブルーム騎士団の最高指揮官は国王である私だけど、その権限を一時的にリーゼロッテに譲渡することにしよう。だから、リーゼロッテと一緒に行ってきなさい」


「そう簡単に譲渡するようなもんじゃないと思いますけど、それ」


「リーゼロッテもいい経験になるだろう」


 ローデンバルト家による国の統治は現国王の代で終わるはずである。リーゼロッテ王女が次代の王政に関わることはないとも聞いた。ならば、彼女にそんな経験を積ませる必要もないのではないか。


「何事も経験だよ。こういうことでも今後の人生に役立つかもしれない。可愛い子には旅をさせよ、と私の先生も言っていた」


 国王の家庭教師だった人物のことか。俺よりも先にこの地へやって来た日本人だ。確かにその言葉は日本の言葉だ。


 さて。国王陛下が行けと言った以上、行かないといけないわけだ。


 リーゼロッテに騎士団の指揮権が譲渡され、当然彼女一人にその責務が果たせるわけもなく、俺は彼女のサポートをしないといけないわけで、それはつまり、やはり俺はアーレルスマイアー辺境伯領へ行かないといけないってことだ。


「よろしく頼んだよ。アスト」


「御意」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る