第6話 避難生活、そして現在

2017年11月。ここ自宅アパート周囲の建物の半分が地震で更地になり、寂しい意味で風通しが良くなってしまった。解体業者が来たのは今年の四月になってやっと。


熊本市中央区のアーケード街、新市街、下通、上通にも観光客が戻りつつある。


が、再開したお店もあり、事実上閉店か移転を余儀なくされたお店もあり。


すべて元通りと言う訳にはいかない。復興、という言葉は「罹災前よりよくしなきゃならない」という意味で関東大震災の時に生まれたのだが、


それは、震災直後の熊本県民に無理に「から元気」を続けさせた縛りではないのか?とも思うのである。


罹災前の状態に戻るのだってあと何年かかるか分からないのに。


さて、2016年4月15日からの3日間の避難生活をやっと書こうと思う。


書いて終わらせたかった理由は、うちにある植物が引っ越し先で全部枯れてしまったからだ。


以下、当時の日記とパソコンに保存した写真を参考にして書く。


4月15日午前3時。余震と緊急地震速報の鳴り続けで眠る余裕なし。周りでは「この避難所にいるか、駐車場で車中泊をするか?」で話し合っている家族連れ多し。徐々に避難所スペースが埋まって来た。


午前6時まで体育館に敷いた段ボールの上で横になるも数回うつらうつらしただけ。飲み物、ボランティアの提供で貰ったミネラルウォーターで口を潤す。だけど空腹にならず。


午前9時、いったんアパートに帰る。家具は倒れるものすべて倒れている状態。冷蔵庫の上にあった電子レンジがコンセントからぶら下がっていたので慌ててプラグ抜く。電気だけは止まらず。


植木鉢全てぐしゃぐしゃ。プラスチック鉢だったのが幸い。白バラの鉢を元に戻した後、初めて3号のプラスチック鉢に植えていたレモンの発芽を確認。

晴れてもいたので急に元気が出る。昼過ぎ、近所のコンビニが開いていると聞いたので歩いていってみたが食べ物完売状態。残ったさきイカとビスケットだけがこの日の食事。避難所で2時間しか眠れず。


4月16日朝、近所のパン屋さんの提供で食パンの切れ端いただく。やっと飯にありついた。12時。宮崎県から肉巻きおむすび屋のトラックが来る。もう並ぶことが苦にならなくなった。


本震時からガスと水道はストップしているので避難所のトイレの水は学生ボランティアがポンプ車で近くの川から水を運び、45リットルのポリバケツに汲み置きしてくれる。みるからに重労働。一人一回2、3リットルは小さなバケツでトイレにに流すので汲み置きはすぐ無くなる。1日にポンプ車が10何往復しただろうか?


今時の若者たちには非常に助けられた。この日の夕方から菓子パンなどの食糧が来るようになる。


友人とline。彼女は最寄りの中学校体育館に避難し、「物資が来ない」と「優先順位でまずは指定避難所から物資が行くらしい。私の居る所は指定避難所」と持っていた危機管理ハザードマップを広げて返信。「水は?」と聞いたら「川の水をポット式浄水器で濾している」と。


熊本が水に恵まれた地域だというのが何よりの幸い。この夜も眠れず。ラジオから各地の状況を伝える江越哲也アナウンサーの声に癒される。


もういい加減余震止まってくんないかなあ?斜め後ろでは中年夫婦連れの御主人のほうが「自分の靴にあんたの靴が乗っかった」という理由で約15分間学生の女の子に説教。あ、なんか周りが少しずつキレ出している雰囲気。自分、キレる気力なし。


17日朝、菓子パンの朝食が支給される。食べてから帰宅。自宅は井戸水なので3日ぶりに洗濯。ガスコンロ使いたいなあとじっとガスメーター眺めていると、隣の部屋のおじさんが「ガス会社に連絡したけどまだだめよ」と。


隣の住人と初めて会話する。おっさんだったのか。洗濯物を室内干しして11時前には避難所へ。飯をもらうためだ。初めてコンビニおにぎりとインスタント味噌汁が支給される。温かい食事。


この日の夕方、いきなり目まいがして公民館の柱にもたれかかる。あまりにも揺られ過ぎだったのでバランス感覚がおかしくなってしまったらしい。ふと受付で放送されている「笑点」の三遊亭好楽師匠の着物のピンクがやけに鮮やかに目に入り


あ、今日は日曜日だったのか!とやっと日時の感覚を取り戻す。その後しばらくは


目まいの度に「笑点の、好楽師匠はピンクの着物」と呟いて日常感覚を取り戻す呪文にしていた。


この日の夕食、尾西のアルファ米。ポットのお湯を入れていただくと案外おいしい。付属のスプーンでかきこむ。


この日の夜は疲れ果てていたので眠るしかなかった。腰痛が酷くなっててもう一泊は無理!と体が悲鳴を上げている。公民館のカウンター前にまで人々が段ボールを敷いて寝ていた。


18日の10時過ぎ、自宅に帰ったらガスが復旧していたので避難所を出る。


以上、避難生活の記録は終わり。


この生活で気づいたのは、人生で大事なことは、食べる事と生きようとする気力の二つだけ。


本題のガーデニングの事だが…


アパートの地盤沈下で引っ越しをした私は引っ越し先にベランダがあったので「ラッキー!」と思って高さ20センチに成長したレモンとミニバラの鉢を置いて毎日水遣りをして今年夏、


お隣がキンカン農家だったんでそこから来る蝶たちに知らぬ間に卵産み付けられて、ある日帰宅してベランダを見ると、見事に青虫に喰われまくっていましたとさ。


おしまい。


余談。引っ越し先のアパートのお隣に本宅が全壊したので仮設でお住まいになっている老婦人が抱いているミニチュアダックスフントに触れさせてもらった。


「いやあ、やっぱり動物は癒されますねえー」

はっ…!再び私にガーデニングって程じゃないが、生き物を育てようという思いが湧いたのである。


やっぱり人は生きているものに触れて活力を与えてもらう生き物なのだ。

まずは初心に戻ってポトスから始めるか…




























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