無駄のない設定と鮮やかな起承転結、それらを補強する豊富な知識。
〈カクヨム計劃トリビュート/〉に相応しい、言語をテーマにした傑作短編です。
ディスレクシアの主人公、文字を持たない村出身の留学生、そして言語学者。
言葉に対し独特の視点を持つ人々によって物語は進んでいきます。
その過程で明らかになるのは言葉の在り方と、人の在り方。
そして人の行き着く先。
虐殺の言語のアイデアを煮詰めた高密度な設定を展開しつつも、決して単なる後追いにはなっていません。
言語や脳に関する解釈には人工知能も絡められ、伊藤計劃氏の著作とは異なった趣があります。
そしてそのいずれもが伏線として機能し、見事な着地点へと読者を導きます。
オチは素晴らしいの一言。
テーマや雰囲気もドンピシャで、ひたすら読むのが楽しかったです。
こんな話を聞いたことがあります。
現在発達障害と言われるADHDや自閉症、アスペルガーなども、遺伝として残っている以上有益な部分が実際は多分にあり、過去の偉人などを見ても、多くがそれらの要素を持つ人々であったと。
結局、現在障害と言われている性質でも、それはただ現代人の集団生活に馴染むのに不適であるが故に「障害」と言われているだけで、実際は人間として生きていく際には、多くの有益性が存在し、それ故に現在も脈々と受け継がれているのでしょう。
この作品では、そんな受け継がれる優劣というテーマを我々に問いかけつつも、娯楽作品としての体を失わずに最後まで描かれており、とても好感が持てました。
短い時間でさっくりと読めるので、ぜひご覧になってみて下さい!