第12話SSランクギルド ギルマス会議5

「おい、いよいよ決闘が始まるぞ!」


「お!マジか!俺も見てこっと」


ローシャネリア北部、とあるの広場

ソグとジト目少女に対し、屈強な戦士二人組、

二対二の戦闘が始まろうとしている。


ソグは剣を構えながら、咄嗟に思考をめぐらす。


 (決闘なんか受けて、一体何考えてんだ…

 しかも、どう考えてもこいつ戦闘向きじゃねえだろう


 仮に攻撃型の魔術師だとしても、相手は戦士二人

 団体戦やモンスター相手ならまだしも、個人戦は詠唱のロスがあるぶん

 魔術師が不利なのがTSOの常識、

 まあだから、二対二にしたのかもしれねえけど……

 あっちは見知った剣士二人、こっちはお互いの職もまともに知らねえ。

 どう考えても無謀だぞ…)


ソグが横目で少女に話す。


「お前、魔法職か?補助、攻撃どっちだ?」


「5分…時間……お願い……」


「はぁ!?ご、5分!?」


ババッ!!


その会話のさ中にも、決闘が開始され、戦士二人がソグたちの元へ突進してくる。


「おい!あの女は後でじっくり料理して恨みを晴らす!

 まずは、さっさとガキのほうを仕留めるぞ!」


「おう!了解!!」


ジト目の少女はおもむろに呪文詠唱を始める。


「ちっ…!ろくに作戦立てる時間もなしかよ!

 あー、もうどうなっても知らねえ!」


ソグも剣で二人を迎え撃つ。


「おらっ!くたばれガキッ!」


戦士二人が正面から切りかかるも、

ソグは剣の下すれすれをスライディングですり抜ける。


空振り、勢いあまった戦士の剣は地面に当たった。


「なっ…!?」


二人の後方に抜けたソグは踵を返し、横に一閃、


ザッ…!!


「ぐっ!?」


戦士一人にヒットするものの、ダメージは浅い。


「チョロチョロすんなや!」


振り向きざまに切りかかる戦士だが、ソグはそれを後方にジャンプし回避。


しかし、間髪入れずにもう一人の戦士が切りかかる。

辛うじて剣で受けるも、ソグは後方へと弾かれる。


距離の開いた戦士二人とソグ、お互いに剣を構え直す。

鋭い攻防にギャラリーも息をのむ。


「おい、見た目よりか強えぞ、あの赤髪」


「つか、ほとんど二対一じゃねえか、あの女の子は補助職か?なにやってんだ?」



「ほお、見た目よりはやるじゃねえか、

 だが、そんなひ弱な剣じゃあ痛くもかゆくもねえなあ」


「オッサンらも、その歳にしちゃ、まあまあな動きだな」


「ケッケッケ、腹立つガキだぜ!」


ダッ!


お互いが一気に間合いを詰める。

二人の戦士から次々と放たれる攻撃、ソグもそれに剣で応戦する。


 (重いが早さはねえ、落ち着けば十分に見切れる剣だ…

 だけど……さすがに二対一は……!)


ガキン!キン!キン!


二人の猛攻に受けるので精一杯というソグ、徐々に後方へと追いやられていく。


「ソリッド・エッジ!!」


「ッッ…!!!」


戦士の一人が放った剣技がソグにヒット、たまらずソグは体勢を崩す。


「もらったぜ!!悪く思うなっ!!」


もう一人がその隙を突き、大きく剣を振りかざす。


ドガッ…!!


しかし、またもその剣は地面へと叩き下ろされた。


「…!?なんだ!?どこいきやがった!?」


「ハァハァ…」


見れば、ソグは戦士たちの後方へと移動していた。

ギャラリーたちもソグに注目する。


「おい、今あの赤髪、やけに早くなかったか?」


「ああ、すばやさ特化か?」


戦士たちは振り返り剣を構え直す。


「クソガキ…俺とした事が一瞬見失っちまったぜ、

 思った以上に素早いな…」


「あの体勢から避けるってのは並の芸当じゃねえ……

 こりゃあ…念のため作戦変更しとくか」


「ちっ、しゃあねえな」


戦士二人は互いに目を合わせた。


「ハァハァ…」


ソグは息も絶え絶え、スタミナをかなり消耗していた。

後方、やや離れた場所にいる少女に一瞬視線をやる。


 (そろそろ5分か?いや、まだか?

 つーか5分になったらなったで、何がどうだってんだよ一体…

 魔法詠唱にしったって5分なんて聞いた事ねえぞ…)


ダダッ…!


戦士二人がソグへ向けて、突進する。


「……っ!」


ソグは咄嗟に剣を構え、体勢を低くする。


戦士二人とソグが衝突すると思われたその時、今度はソグの剣が空を切った。


「…!?」


戦士二人はソグの目前で左右に分かれ

ソグの両サイドをスライディングですり抜ける

気が付けばすでにソグのやや後方、ソグを置き去りに、

そのまま走り続けている。


「…くそっ!あのオッサンら!!」


ソグが戦士たちの狙いに気付いたころには、すでに二人はジト目の少女のすぐ手前

二人の剣が少女に迫ろうとしていた。

少女は未だ、呪文を詠唱している。


「一撃で終わらせちまうのは癪だが、しゃあねえ…!」


「あん時の恨みだ…!くたばれやぁ!!」


ガキィンッ!!


「……」


「……」


剣が激しくぶつかる音の後、辺りにしばしの静寂が訪れる。


少女は無傷、依然として詠唱を続けている。

ソグが戦士二人と少女の間に割って入り、剣で攻撃を受け止めていた。


「あの距離から追いつきやがった!?マジかこいつ!?」


「へっ、遅いんだよオッサン…!」


目まぐるしい展開にギャラリーも騒然とする。


「あの赤髪…またやたら早かったぞ…」


「俺はわかったぜ…

 あいつ、必殺剣技のモーションを利用してやがるな…」


「まじかよ、そんな事できたのか!?」



戦士二人とソグは剣を合わせ、鍔迫り合いが続いていたが

馬力の差は歴然、徐々にソグは追い詰められる。


「くっ…!?」


「さあ、追いついたはいいがこれからどうするよ?おお?

 受け流してもいいが、そうすりゃ後ろにいる女がどうなるかなあ?」


戦士二人の剣に圧され、ソグは少女のすぐ目の前まで後退している。


「このまま二人仲良くたたっ切ってやろうかあ…!!!」


「おいっ!まだなのかよ!もう堪えきれねえぞ!」


「…終わった……そこ…危ない…」


「…は?」


少女の体が光りだし、少女は指にはめたリング型の法具を空へとかざした。

その様子を見た戦士二人の顔色が途端に変わる。


「ヒィッ!!やべえ!に、逃げろ…!」


「逃げるったってどこへだよ!?」


「…??なんだ?オッサンら、急に何を焦って…」


「全てをその業火で灰塵と化せ……レクイエム・オブ・インフェルノ!!」


ついに少女のの魔法が発動。

周囲には天までも伸びる無数の炎の柱が現れた。

その柱はやがて炎の竜巻となり、

周囲のものを天に巻き上げ、焼き尽くし、巨大化していった。


「なななななな…!!!」


目の前に起こった光景に、ギャラリーたちも唖然とする。


「おお!すげえ!なんだこりゃあ!?」


「こんな魔法見た事ねえぞ!!」


「…あれ?つか……これ俺たちもヤバくない?」


二人の戦士、ソグ、周囲のギャラリーたち、町の広場

全てのものを巨大な炎の渦が飲み尽くしていった。




------------


クラインノクスの拠点の城、その前に架かる橋。

あたりは日が傾き、夕暮れも深くなってきたところだ。


そこを歩くのは

ロリータコルセティアのギルマス、ザッハトルテと数人のギルドメンバー。


「まったく…もう夕暮れ。結局一日潰してしまいましたわ…

 わざわざ集まらなくとも、通信会議でもいいように思いますけれど…


 ただ、今回は興味深い話が多かったのも確かですわね」


すると橋の前方に、二人の人影を発見する。


「あら?あそこにいるのは…」


ジト目の少女と、全身黒焦げになったソグだった。

ソグは剣を杖代わりに、足取りもおぼつかない。


「…お、お前の知り合いがいる場所……ここって……

 俺らの…ギルド拠点じゃないか……どうなってんだ…」


よろよろになりながら歩くソグをその場に取り残し、

少女はザッハトルテの元へと小走りで駆け寄る。


「あらティッティさん、ごきげんよう。

 わたくしたちも、丁度今、会議が終わったところでしてよ。

 そちらは、何かトラブルなどありませんでしたか?」


「……うん…なかった…」


「そうですの。じゃあホームへ帰りましょうか」


少女は頷く。

ザッハトルテは少し先にいるソグに目をやる。


 (あの黒焦げの殿方は一体…

 嫌な予測しか浮かびませんけれど…

 まあ、本人が良しと言っているので、良しといたしましょう…)


よろよろと、ソグもなんとか近づいてきた。


「だ…誰か……回復薬を……」


それを見るや、ジト目の少女は振り返り、ソグに近寄った。


「……楽しかった…」


「…はあ…そりゃあよーござんした…」


「……フレンド登録…」


「あ?…はいはい、どうぞご自由に」


その様子を見つめるザッハトルテ。


 (あの子が自分からフレンド申請なんて珍しいですわね…

 あの黒焦げの殿方、この街のかたかしら?)


フレンド登録を終えると、

ザッハトルテとジト目の少女たちは、その場を後にした。


「……」


「だ…誰か……回復薬を……」


周囲には、一人取り残されたソグの声が虚しく響き渡るだけだった。




------------


「……」


会議が終わりしばらく経つ、

ギルマス会議が行われていた大会議場には未だ一人の人影があった。


ギルドリミットブレイカーのギルマス、ゴルゴンゾーラ。

一人席に残り、腕組みをし、眉間にしわを寄せ険しい表情だ。


そこにクラインノクスのギルドメンバーが近寄る。


「あ、あの、ゴルゴンゾーラさん…

 もう会議終わりましたんで、そろそろご退出を…」


「……」


ゴルゴンゾーラは微動だにせず、返答もない。


「あ、あの~」


そこへもう一人のギルドメンバーがやってくる。


「おい、よせ、きっと考えをまとめてらっしゃるんだよ、お邪魔だろ」


「い、いや、もしかしてこれ寝てるんじゃ…」


「バカお前!そんなわけねえだろ!

 ホラ、変な事言うとぶっ飛ばされるぞ、行くぞ」


「お、おう…」


二人は会議室を出ていく。


「……」


「……」


「……」


「ZzZz…」



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