第11話SSランクギルド ギルマス会議4

SSギルドギルマス会議は依然続いている。


リングが一同の視線を集めていた。


「"竜の女"。

 まさかとは思うけど、知らないなんて人はいないわよね?」


少しの間の後、口を開いたのはジークハイル。


「そりゃあ知ってるだろ。

 いや…まあ、知ってるっつうかな、

 正確には俺が知ってるのはそいつの噂話だけだが」


その後を続けるようにして、アイゼンが話し出す。


「白い竜に乗り、世界各地を飛び回り

 さらには、我々の常識をはるかに超越した強さを持つという人物の話、

 無論、この私も聞いた事はある」


「白い竜、一度乗ってみたいものですわね、

 そんなものが、あれば、ですけれど」


ザッハトルテの言葉に、六氷が応える。


「だが実際に、その姿をとらえた映像がいくつかあがっている」


ロクトールも口を出す。


「ええ~、それはどうでしょう。

 僕も動画サイトで見ましたけど、

 なんかどれも、遠くからとか、鮮明な映像じゃなかったなあ~

 合成映像とか、色々考えられると思いますけどねえ~」


「ハッ、女版壊剣てとこか?

 だが俺も、正直どうかと思うぜ、

 百歩譲って、竜に乗ってるってのが本当だとしてもだ。

 そのべらぼうに強いってのは多分、勝手に話がでかくなってるだけだろ、

 噂ってのは大体がそんなもんだ」


「あらそれはどうかしらね、ジークハイルさん

 それは今から、"彼"に訊けばわかるんじゃないかしら?」


と、リング。


「あ?彼って誰だよ?」


リングはアルフォートを見据え、話す。


「アルフォートさん、やっぱりあなた腹黒いわ」


「………」


アルフォートは押し黙っている。


「さっきみんなに見せたブラッドダッド襲撃の映像

 私に言わせれば、一番大事なシーンがカットされている」


「大事なシーンじゃと?」


「おいリング、お前の悪いクセだぜ、

 なんか知ってるならさっさと言えって」


シークハイルはややイラついた様子。


「事には順序ってものがあるのよ、大人しく聞いてなさい。


 さっき流された映像のフルサイズバージョンには、あの続きがある」


六氷が反応する。


「それなら俺も見たが。

 参加者の中に潜んだ伏兵が、爆発魔法を試みる部分ではないのか」


「そう。問題はそこ。

 試験参加者の輪の中で爆発魔法が発動される寸前、

 "誰か"がその術者を空中に飛ばし、被害を防いだの


 フルサイズの動画からその部分を抽出した映像を用意したわ、見てみて」


一同はその映像を興味深げに見る。


「う~ん、確かに、これは風系の魔法でしょうか、

 え、でもそれがどうかしたんですか?

 僕には別に、引っ掛かるところはないけどなあ」


ロクトールも不思議そうだ。


「まあ、そうでしょう普通は。

 でも私は目ざといの、特に魔法の事に関してはね。

 よくよく映像を見てみると、その魔法の詠唱者がこの映像には映っている。


 この…うさぎの着ぐるみの人物よ」


「ほほう……確かに。


 このような細かい部分によく気が付かれたなリング殿。

 …で、それがどうだと言うのだ?」


アイゼンも口を出す。


「……略式詠唱にしても、いやに時間が短すぎるのう…」


「ビンゴ。さすがは焔さんね。

 ガサツな男連中とは一味違う。


 ブラッドダッドの伏兵が発光しだしてから爆発魔法発動まで

 5秒…いや3秒もない

 その間に、この風系魔法は発動し、爆発より前に作用している

 この、着ぐるみの人物によってね。


 この魔法をこんな瞬時に発動できる人間を私は一人しか知らないわ。

 そう、この私」


「自分で言いやがったぞコイツ…」


「言うまでもないけど、これは私じゃない、

 こんなバカみたいな格好、死んでもお断りだもの。


 実は私、噂が出始めた頃から"竜の女"には興味津々でね、

 独自の情報網を使って、色々と調べていたの。

 その中で、アルフォートさん、あなたと"竜の女"らしき人物が

 接触していたという情報もあった」


「おい、マジかそりゃあ?」


「でもそれも、数多の情報の中のひとつ、たいして気に留めていなかったわ

 …この映像を見るまではね」


周囲が息をのみ、場には緊張した空気が走る。

リングは一直線にアルフォートを見つめ、なおも言葉を続ける。


「自分の持っている情報を無条件で相手に明け渡す義理は、私たちにはない。

 でも、この会議が発足した時、

 この場で"嘘"はご法度とおっしゃったのは誰だったかしらね」


「………」

 

「アルフォートさん、率直に訊くわ。

 ここに写っている着ぐるみの人物、これが……


 "竜の女"なんでしょう?」


「………」


その言葉を最後に、一同の視線はリングからアルフォートへと移り変わった。

しばしの静寂の後、アルフォートがそれに応える。


「やれやれ…

 リングさんにはかないませんね、

 ええ、お察しの通り、その人が一部で噂されている、"竜の女"

 そう思って頂いて間違いないでしょう」


「………!」


「ええーーっ!?

 アルフォートさん"竜の女"と知り合いなんですか!?

 ヤバいですよそれは!!」


「…まじかよ!?」


「それは…まことか!?」


「なんと…」


「あらまあ…」


一同は騒然とし、身を乗り出す。


「フフフ……やっぱりね」


リングはしてやったり顔。

ジークハイルも俄然興味津々だ。


「つうか、これはギルドメンバー審査会の映像なんだろ?

 つう事は…

 ギルメン入りしたって事なのかよ?」


「できれば秘密にしておきたかったんですがね…

 この場で嘘を禁止したのは私です、その手前、お話ししましょう。


 ちなみに…彼女は私のギルドに入ってはいない」


「でしょうね、じゃないと隠す意味がないわ」


「性に合わないと言って断られましたよ、残念ながら。


 ただ、知り合いと言っても、数度の面識がある程度。

 私も彼女についてあまり詳しいわけではない。


 ただ、彼女が竜に乗って移動しているのは確かなようです」


リングが間髪入れずに問い掛ける。


「一部ではNPCじゃないかとか、

 運営のテストキャラ説もあるけど、その辺は?」


「彼女の言動を見る限り、運営だとはとても思えませんね。

 NPCという事もないでしょう、

 なにせ、フレンドリストに加える事ができましたから」


「………!!!」


「ちょ、ちょっと待て!お前、竜の女とフレンドなのか!?」


ジークハイルは驚愕の表情。


「ええ、まあ一応」


「じゃあ例えばだ、今ここに奴を呼び出す事も出来るのか!?」


「なんと…!」


「ほう、それは面白いのぅ」


「えーーーっ!?僕も見たいです!竜の女!!」


場には興奮した様子で席から立ち上がる者もちらほら。


「………。

 いえ、それは無理でしょう。

 彼女は非常に気まぐれな人です、こちらからの呼びかけに応える事は稀。

 何より、こういう場は嫌がるでしょうね、性格から考えて」


「…なんだそりゃ」


立ち上がった面々が、残念気に席に着くなか

アイゼンが尋ねた。


「ではアルフォート殿。

 噂であるところの、その者の実力についてはどうなのだ?

 やはり、人知を超えし力の持ち主なのか?」


ジークハイルがそれに反応する。


「例えば"壊剣"ぐらいの実力があったとしてだ、

 大会の優勝記録やらの実績も当然あるだろ。

 最前線でレベル上げしてりゃあ、その様子を見られたりもする。

 どうやったって顔が売れちまうだろ」


「………」


「あら、アルフォートさん、この期に及んで出し惜しみはなしよ?」


リングが迫る。


「彼女が大会に出ないのは、そういう場が苦手なのでしょう。

 そして、狩場での目撃例がない点、

 ………

 あくまで私の推測ですが、おそらく我々が最前線としている狩場では

 もはや、彼女の相手になるモンスターが出現しない」


「そりゃあ、つまり…」


「彼女の狩場はおそらく、

 我々の見識でいうところの、"未開の地"」


「……!!!」





少しの時が流れ

騒然となった周囲の空気も、次第に落ち着いた雰囲気に戻る。

時間一杯によりギルマス会議もお開きとなった。


面々はおもむろに立ち上がり、会議場を後にする。

帰りしな、歩きながらジークハイルがそれとなく口を開いた。


「まったくアルフォートのヤロウ、"壊剣"やら"竜の女"やら、

 相変わらず、どえらい奴らと繋がってやがるぜ」


ロクトールがそれに反応する。


「…え!?"壊剣"ともお知り合いなんですかあの人!?

 すごいなあ、さすがは一位だ~」


その後ろにいるリングも声をはさむ。


「ウフフ、今日は大収穫だわ。彼の態度を見てはっきりした。

 やっぱり、竜の女は私の期待通りの力を持ってる、

 この会議の席順を左右してしまうほどのね


 次の会議は、この私の拠点に集まってもらう事になるかもね

 …ウフフフ…」


「おー、怖え怖え」




------------


ローシャネリア北部、とあるの広場

そこには十数人の人だかりができていた。


「おいおいこんなとこで決闘か!?」


「らしいぜ!二対二だ。しかも…見ろよあれ!」


「ちょ、マジか!ガキと…女の子!?

 なんつーペアだよ」


「相手のオッサン二人は、結構やりそうだぜ」


「面白そうだな、ちょっと見てくか!」


嫌々ながら剣を構えるソグの姿。


 (ったく、なにが面白そうだよ…

 どいつもこいつも他人事だと思いやがって…

 ギルマス会議は見られねえ、

 変な女には絡まれる、変なオッサンらには絡まれる…

 どんな日だよ……)


対照的に、相手の戦士二人は戦意をむき出しにしている。


「ケッケッケ!!丁度いい!!

 ギャラリーは多い方がこっちの気も晴れるってもんだ!

 さあ、始めようぜえ…!」

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