#32

 ねえあんた。私のこと、わかるだろう? そう、私だよ。私ねえ、自分で言うのもなんだけど、良い女だったんだよ。都会のイケてるディスコでね、毎晩オールナイトでブイブイ言わせてたんだよ。私の腰の捻りはあのパンみたいだって、あのー、なんかあるでしょ? その、捻ったパンみたいに捻られてるって、そういう評判だったんだよ。それでね、そんな私にも、好きな男がいたのさ。それが良い男でねえ。大手商社の若手ホープだったのよ。ロードスターで高級ホテルのレストランに乗り付けてさ、窓際の席で、百万ドルの夜景を見せてくれたものだよ。それが何の因果か、こんな田舎町に来ることになっちまったんだ。当時政府の分配金で、村おこしをやったんだね。テーマパークを作るっていうんで、それに彼の会社が関わってたわけ。私も一緒に付いて来たんだ。温泉があるっていうからね。実際こっちに来てみると、彼の仕事中は暇で暇で仕方なかったよ。でも確かに、温泉は良かったわ。それでも三日間、私は暇を持て余したの。だからある日、彼の車を運転して隣町までショッピングに行こうとしたのさ。良く晴れた日で、空気は良いし、こういうのも悪くないと思ったわ。海岸沿いを走ってね。ボリュームMAXでさ。ヒビだらけのアスファルトも、彼の真っ赤なロードスターは相手にしなかった。私のでっかいお尻は守られたってわけ。うふふ。ところがその時、道路に何か飛び出して来たのよ。違うわ、犬でも人でもイルカでもないの。黒い、大きな塊だった。私はビックリしてハンドルを切ったわ。そして……。

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