第28話 金木犀






金木犀には不思議な力がある。










毎日毎日


いろんな出来事があって


それらに振り回されて

何もかも忘れてしまうけど



気がつくと

もう金木犀がいっぱい。




さとみは


“切なくなるにおい”

って言ってたけど


大抵のひとは

秋にはものさびしくなって

その記憶とリンクしてるんやろうな。



俺にとっては


田舎の島の景色に

組み込まれてるにおいなので

いつも懐かしい。



村営住宅に住んでた頃の

遠い景色




長い坂道

学校の帰り道

松林

ウバメガシ

秘密基地

カソリック系の幼稚園

落ち葉滑り

スケボー

野球


毎日みんなで囲んでたたき火


焼き芋

みかん焼



そして


目の下にひろがる

秋のしまなみと

深く青い海。



決して毎日が

楽しいことばかりじゃぁ

なかったけど


なぜだか


このにおいに包まれた景色は

どれも幸せで

おだやかなものしか

浮かんで来ない。





金木犀には

不思議な力がある。






そしてそれを

誰もが忘れてしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る