09:発表順決定

 発表用レジュメは、ほぼ完璧に出来上がっていた。周りを見ると、未だに話がまとまっていない所もある。あたしたちのグループは、一番早いんじゃないだろうか。あたしは、レジュメを作ってくれた三人のイケメンたちに感謝した。


「それじゃあ、グループのリーダーは進捗状況を申告して下さい。それによって発表順を決めます。あまり進んでいない所は後回しにしますが、その分準備期間が増えたということを加味しますから、心得ておくように」


 教授がそう言い、槙田くんが立ち上がる。


「最初の方になりそうだけど、いいかな?」


 あたしたちは頷く。映像資料を挟むタイミングや、長さを決める必要もあるが、そう時間はかからないだろう。

 槙田くんが教授の所に行っている間、他の二人が話しかけてくる。さすがのあたしも、何度かやりとりをしている間に彼らの名前は覚えた。メガネをかけている方が相沢くんで、そうでない方が白崎くんだ。


「オレたちの班、けっこういい感じだよな。鈴原さんが資料を集めてくれたおかげだよ」


 相沢くんにそう褒められたので、何だか申し訳ない気持ちになる。資料は集めたのではなくて、元々持っていたものなのだから。


「いえ、あたしは、構成とかには全く参加してませんし……」

「それでいいんだよ~。全員で一つのことをしようとすると、かえって時間がかかるものだよ?適所適材、それぞれの得意分野を担当すればいいってこと」


 白崎くんはそう言うが、ますます恥ずかしくなる。またもや褒め殺しが始まれば、平常心を保っていられそうにないので、思い切って話題を変えてみる。


「そ、それにしても槙田くんって凄い、ですよね。何でもできるっていうか」

「まあ、確かになあ」

「みんなそう言うよなあ」


 二人は顔を見合わせて、どこかつまらなさそうにしている。やばい、言うべきじゃなかったか。もしかしたら彼らは、槙田くんの話題に飽き飽きしているのかもしれない。槙田くんは目立つから、この二人は取り巻きのようなものだ。助さん寅さんだったか、何だったか、時代劇のあの人たちみたいだ。槙田くんのID教えてだの、仲を取りもって欲しいだの、そんなことばかり言われているのかもしれない。あたしは慌てる。


「ああいう人がお兄さんだったらいいな、とか、思ったりなんかして」


 決して近づきたいとか付き合いたいとか思っていませんよ!そこらのバカ女たちと一緒にしないでね!というアピールのつもり、だ。それにしては弱かったかもしれないが。


「鈴原さんってきょうだいいるの?」


 相沢くんがそう聞いてくる。よし、話を逸らせそうだ。


「いえ、一人っ子です」

「俺もだよ」

「ひっ!」


 急に槙田くんが会話に入ってくる。


「ごめん、驚かせた?」


 槙田くんは謝るジェスチャーをしながら微笑んだ。白崎くんが言う。


「あれ~、そうだっけ?妹とかいそうな感じだけど」

「よく言われるよ、お兄さんっぽいって。実際はワガママで変わり者の一人っ子、だよ。さて、順番決まったよ。俺たちの発表は二番目。再来週の後半だ」


 八組のグループが、二組ずつ、四週に渡って発表するので、あたしたちのグループは割と最初の方だということだ。あたしは、面倒なことを早く終わらせたい性格なので、そちらの方がありがたい。


「へえ、早く済む方が楽でいいや」


 相沢くんもあたしと同じ考えらしい。


「来週の授業は丸々相談に使えるんだよな?そしたら、その時間にリハやって、終わりでいいのか?」


 白崎くんの言葉に対し、槙田くんが考え込む。


「予定では、もう一度空き時間に相談するつもりだったんだけどな。思ったより、早く進んだから……」


 槙田くんがちらりとあたしを見る。なぜ!?


「……まあ、これ以上いじくって収拾つかなくなるのも嫌だしな。相談は次の授業時間が最後、ってことで」


 一瞬、あたしの意見でも求めるのかと思った。彼の中で結論が出たので、心底ほっとする。


「何かあったらメールで連絡すればいい。そろそろ休み時間だし、今日はここまで、だな」


 チャイムがなり、あたしはそそくさと退散する。なるべく彼らとは離れていたいのだ。次の授業までに、とりあえずトイレに行こう。あたしはさらに足を速めた。

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