第37話 二度目の実践
二日後、城郭に隣接した、街外れにある、
その威容を醸し出す壁際の道を、イサベラたちは三人で歩いていた。
結局、カローナは、今回の実践の提案を受けるかどうかを、イサベラ自身にゆだねた。
イサベラは、エミリアとゴニアと、三人一緒でもいいならばという条件で、行ってみることにした。
相手が何を考えているのか考えてもしょうがないし、ただの様子見だったとしても、イサベラの死霊術を見てもらういい機会だ。駄目でもともと、多少は誤解も解けるかもしれない。
それに、三人一緒なら、いつものイサベラ達を見てもらえる気がした。そして今、三人で集合場所である『共同墓地』へとやってきたのだった。
しかし、先頭はエミリア。
既に墓地の入り口には、陽魔法の一団が待っていた。イサベラたちがやってきたことに気が付くと、リーダー格と思われる二人が進み出てきた。イサベラでもその顔に見覚えのある者たちだ。
「や!はじめまして。陽魔法校舎、学生長のサニールだ。」
「同じく、副学生長のセティカですわ。よろしく。」
サニールたちは、イサベラもよく学校で見かける二人であり、いつも
二人の後ろでは、他に何人かの陽魔法の学生たちが来ており、二人に続いて、次々と軽く頭を下げて挨拶をした。こちらはイサベラたちと同じぐらいの、駆け出しに見える。
「こんばんは、樹魔法のエミリアです。」
「こ、こんにちは。あわわ、じゃなくて、こんばんは。イサベラです。始めまして。」
「・・・ゴニアです。」
ゴニアも二人の後ろに隠れ気味にぺこりと頭を下げる。男性は少し苦手のようだ。
やけに明るく、サニールと名乗った青年は、長身に加えて、がっしりとした体躯に、盾や小手などの、装備を付け、手には武器と思われる
そのいで立ちは、魔術師というよりはむしろ戦士。陽魔法の生徒の中でも、典型的な
対して、にこやかなサニールとは対照的に、セティカは挨拶でもピクリとも笑わず、背筋をしゃんと伸ばしたまま、育ちがよさそうに、手を前にそろえ、無表情にイサベラたちを見下ろしていた。
エミリアと似た、プライドの高そうな整った顔立ちだったが、その眼光は、エミリアにはない冷徹さがある。男性の多い陽魔法校舎の中で、副学生長をしているのだ。プライドに見合った実力も当然あると思われた。
二人とも、後ろにいる他の陽魔法の生徒たちとは違って、イサベラたちより一回りは年齢が高く、大人びていたのはもちろん、その
しかし、彼らみな、共通して目を引くのが、陽魔法の術者である証、右肩にある、金色の
陽魔法の生徒たちは、イサベラたちのような他の属性とは違い、決まった色のローブがない。
各自、思い思いの服を着ているが、彼らの陽魔法属性たる証しは、服の色ではなく、金色の
『太陽の肩当て』。
この太陽の紋章の入った、金色の
つまり、彼らにとって、最重要ともいえる装備品だ。
そんな彼らの
ちなみにサニールは、陽魔法の学生長として、特別に
「よし!さっそく始めようか!君たちは、カローナ先生から
相変わらず、やけに明るく話しかけてくるサニールに、エミリアたちはこくりとうなずいた。
カローナの話では、墓地の墓守をやるとのことだった。
普段は専属の墓守が管理し、清掃も行き届き、墓地をがっちりと囲んだ壁は、野生動物や墓荒らしを寄せ付けない。
そんな高貴な墓所に、困ったことが起きたらしい。
ここ最近、夜な夜な
墓地に下位のアンデットが出現することは、これと言って珍しいことではないが、荒れた墓地ならともかく、よく管理された
由緒正しい墓地に、「
そこで
依頼は、墓地の
これがカローナから聞いている、事の顛末である。
「始める前に確認するけど、今日の実践では、僕が仕切らせてもらうよ。つまり僕の指示に従ってほしい。こちらから誘っておいて申し訳ないけど、このぐらいの人数では、指示系統をはっきりさせることはとても大事な事なんだ。」
至極ごもっともであり、元よりそのつもりだったイサベラたちは、「はい」と素直に返事した。
「これから全員で一旦、墓地の中央に向かう!着いたら四方に散開して捜索!では出発!」
サニールがよく通る声で号令をかけると、雰囲気が一変した。いよいよ実践が始まった実感がわいてくる。
サニールとセティカを先頭に、共同墓地の門をくぐると、一行は中央に向かって歩き始めた。
共同墓地は、正方形に囲まれた壁の四隅に門があり、対角線上に、それぞれが中央に向かって道が伸びている。
「各自、
歩きながら、サニールが魔法の指令を出すと、陽魔法の生徒たちは、それぞれで呪文を唱え始めた。
陽魔法『
その名の通り、
呪文の掛け声と共に、次々と灯されていく光は、さすが陽魔法というだけあって、
しかし、今日のイサベラたちには秘策がある。イサベラがエミリアやゴニアに目配せすると、二人も大きくうなずいた。
「
イサベラが呪文を唱えると、イサベラの
そう、今日は満月。月魔法の一属性でもある、イサベラの魔力が、最も調子のよくなる日だ。
魔法発動の切れがよく、いつもより魔力の消費が少なくて済むうえ、魔力の総量自体も上がっているのが分かる。今のイサベラは「キレッキレの絶好調」だ。
とっておきはもう一つある。ゴニアだ。
ゴニアは基本的に、『生き物』しか石化できないため、
『
複数の魔術師が輪を握ることによって、魔力の授受ができるものだ。そして、ゴニアの魔力の総量は、無尽蔵のサニールを除けば、恐らく一行の誰よりも多い。
「私ったら、魔力だけは有り余ってますから!」と言うのは、今日の実践前に、ゴニアの語った覚悟の言葉だ。イサベラのためなら、捨て石上等。魔力を全て捧げかねない勢いだ。全ては大好きな恩人、イサベラの華々しい『集団実践デビュー』のために!
これによって、今日のイサベラは、魔力の使い過ぎをあまり心配しなくて済むので、そこそこ活躍できるはずだ。ちなみにエミリアの樹魔法も、野生の
実践に出かける前に、エミリアが、始めが肝心と言うことで、飛び切りの
「いやあ、驚いたね。僕らの
本心から驚いた様子のサニールの言葉に、思わずイサベラたちは安堵のため息をついた。
思ったより雰囲気は悪くない。
これだけの集団の中で、何もイサベラとエミリアの最初の実践の時のように、一気に親しくならなくてもいい。取りあえずは、そんな危険人物でないことを知ってもらうのが、イサベラたちの今回の目的だ。
「はははっ!こりゃあ、うかうかしていると、イサベラさんたちに手柄を持っていかれるぞ?気合入れろ!」
「はい!」
サニールの喝に、せっかく和んだ雰囲気だったのが、陽魔法の生徒たちの対抗心に火をつけてしまったようだ。彼らのイサベラを見る目つきが変わる。
そんな荒っぽいノリに、若干気圧されながらも、イサベラはどうしても彼らに聞きたいことがあった。こんな時のためのエミリアだ。
「ね、ねぇ、エミリア・・・。(ぼそぼそ)」
「なによ!私は嫌よ!それは自分で聞きなさいよ!」
「だ、だってぇ・・・。」
まさかの『盛り上げ役』の伝言拒否!
「ん?どうしたのかな?」
何やらもめているイサベラたちに、サニールが不思議そうな顔で問い掛けてきた。
イサベラは、覚悟を決めた。自分で聞くしかないらしい。
「あ、あの・・・、ふぅ。あの・・・、どうして今回の実践に、私たちを誘ってくれたんですか?」
直球しか投げれない子。それがイサベラ。
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