第24話 双子の雑貨屋

 さっそく三人が向かったのは、雑貨屋『双子の狐』屋。


 その名の通り、双子の姉妹が二人で店主をしており、ちょっとした広さの売り場が一階と二階にある。


 品ぞろえが売りの店で、一階は生活用品から、女性の装飾品、ちょっとした菓子も売られていて、二階には、王立魔法学校の関係者をあてにした、エーテル魔法水などの消耗魔法品マジックアイテムや、冒険者たちの持ってくる、希少な素材などが売られている。


 今日はゴニアの髪飾りを試すことになっている。


 三人が店についてから、店においてある髪飾りをゴニアに試す前に、まずはかしてあるとはいえ、はねっ毛の多い髪の毛を何とかしようということになり、エミリアがゴニアの髪を作ることにした。


 しかし、もともと細くて長いゴニアの髪は、思うままに編みやすく、エミリアのおしゃれ欲に火がついてしまい、結局ゴニアを椅子に座らせ、かなりの時間をかけて、気合の入ったエミリア渾身の編み込みを作ってしまった。


 お店にあった、花細工の髪留めを付けて完成だ。


「わぉ!♡」


 勘定台から見ていた店主が思わず声を上げる。


「こ、これは・・・。」


 イサベラは言葉を失いながら、今日は自分の髪留めを買うことは諦めた。これを見た後では、すべてが色あせて見え、とても買う気になれない。菓子でも買うかと食欲に気が向き始める。


「に、似合いますか?」


 ゴニアがもじもじしながら、イサベラの反応を伺う。


「もうね、すごいよ。可愛くて、メデュキュラス先生もびっくりすると思うよ。」


「そ、そんなことないです。でも・・・、イサベラさんがそういうなら、これにします。エミリアさんありがとうございます。」


「ごめんね、作り始めたら止まらなくなっちゃって・・・、だけど、自分で言うのもなんだけど、大成功だわ!」


 照れながら俯くゴニア。


「他の属性の子たちとお店に来るなんて、珍しいわねエミリア。ひょっとして、この間話してた子たち?」


 3人のやり取りを見ていた女店主が、勘定台から話しかけてきた。エミリアとは知り合いのようだ。


「そうです、ミルさん。死霊術ネクロマンシー石化ペトリファクションの子たちです。」


「やっぱり!私はミル。御覧の通り、妹のマルとここで店をやってるわ。よろしくね。」


 イサベラは死霊術ネクロマンシーと紹介されたとき、思わず女店主の顔を伺った。ミルと呼ばれたこの女店主は、商売人だからか、危険視されている二人にも、とても気さくに見えた。


「初めまして、イサベラです。」


「ゴニアです。」


「やあ、あなたがカローナ先生の!黒いローブだからそうじゃないかと思ったけど・・・。そしてこっちがメデュキュラス先生のお弟子さんだね!メディキュラス先生もよくここに来てね、いつも『エーテル魔法水』をごっそり買っていく、うちのお得意様よ。いつも日が沈んでからじゃないと来ないけど・・・。」


 日が沈んでからというのは、人目に付きたくないのも分かるが、あの仮面で夜にうろつくのは、余計に怪しいとイサベラは思った。


「そんなにたくさん買われるんですか?」


 興味津々という感じで、エミリアが訪ねる。「ちょっと」と、イサベラが落ち着かせるように、エミリアの袖を引っ張る。


「多分、王立魔法学校でも一、二を争う大量消費ね。魔法品マジックアイテムを扱う人間のたちの間では、メデュキュラス先生の実験はすごく有名よ。特に石化解除のポーションは、先生のおかげで安く作れるようになったの。今でも結構高いと言えば高いけど、昔は家一軒と同じぐらいしたんだから、すごく画期的なことよ。」


 ゴニアは前から知っていた事だが、イサベラとエミリアは、改めてすごい先生なんだとメデュキュラスを見直した。しかもあの美貌だ。石化能力者でなければ、街の人気者になっていたかもしれないと思うと、非常に惜しい。


「あの、これはおいくらですか?」


 ゴニアが頭につけた花細工の髪留めを指して、銅貨入れの革袋を取り出したところを、ミルが止めた。


「ああん、いいのいいの。お代は結構よ。」


「そんな!でも・・・。」


「メデュキュラス先生は超お得意様だし、今日のそれは、お近づきのしるしにプレゼントするわ。今後ともご贔屓ひいきに、先生によろしくね!」


「ありがとうございます!」


「メディキュラス先生の発明したポーションは、うちの二階にも置いてあるのよ。ぜひ見ていってよ。妹のマルがいるから、メデュキュラス先生の弟子だって言ったらきっと喜ぶわよ。」


「それじゃ、マルさんにもご挨拶してきますね。いこ!イサベラ、ゴニア!」


 実はイサベラとゴニアの二人は、初めてこの店に来たこともあって、かなり二階の品々に興味があった。これでも一応は魔術師の端くれである。


 二階に上ると、一階にいたミルに瓜二つの、愛想のよさそうな切れ目のマルがいた。こっちは妹さんで、ミルとは前掛けの色が微妙に違う。


「あら、いらっしゃい。聞き覚えのある声が下から聞こえると思ったら、エミリアじゃない。それと・・・、お友達?」


 イサベラたちの、それぞれの先生の名前を聞いて、やはりマルも非常に驚いていたが、快くメデュキュラスの発明したポーションを見せてくれた。


 薄く銀色に輝く液体が、小さな瓶の中で揺れている。この発明のおかげで、冒険中に魔物モンスターの石化攻撃によって全滅する冒険者の数がぐっと減ったそうだ。


 死霊術も極めていけば、こんな風に世の中の役に立つようなことが出来るのだろうかと、ふとイサベラは考えた。今は街で降霊術占いやって、楽して暮らす未来しか見えないが・・・。


「きれいな銀色ですね。」


 イサベラは何気なくマルに聞いてみた。


「原料はこれよ。」


「(ブーーーーーーーーッ!!!)」


 マルが棚から取り出して、勘定台の上に置かれたものを見て、イサベラは驚きで噴き出した。


銀骨毒鳥シルバーボーンコカトリスの骨よ、奇麗でしょ。」


 どうやって手に入れるかを考えるのをすっかり忘れていたが、可愛い防御魔法への切符はこんなところに転がっていた。


 拝啓、カローナ先生。


 あなたに奪われたエミリアの心は、もうすぐ取り戻せそうです。

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