第16話 図書館の少女は?

「ああ、これはきっとゴニアね。」


 ここは、カローナの執務室。


 イサベラから、図書館での魔法の嫌がらせ(?)を相談されたカローナは、イサベラの頭を調べながら、問題の少女の名前を教えてくれた。


「ぼさぼさ頭で、眼鏡、瞳に魔力のある子でしょ?間違いないわね。」


「先生、知ってるんですか?」


「ううっ、不憫な子(泣)。知らないのはあなただけじゃないかっていうぐらい、魔法学校では有名な子よ。」


「ほ、ほっといてください!それより!嫌がらせみたいなものとはいえ、魔法で攻撃されたんですよ!問題じゃないですか?!」


「まあまあ、多分だけど、わざとじゃないわ。あの子、まだ自分で魔力を制御できないのよ。」


「どういうことですか?」


「詳しく説明するわね。まず彼女は金魔法こんまほうの術士なのだけれど、あなたと同じ数万人に一人の特殊属性を持っているわ。」


「(私と同じ・・・)」


「それが彼女、ゴニアの石化能力べトリファクションよ。」


「(ビクゥ!)まさか?!」


 イサベラは思わず頭に手をやった。石化されかけた部分の髪の毛は大丈夫なのか、酷く動揺している。


 痛みもなく、頭皮に異常はなさそうだが、まだざらついている・・・。13歳のうら若き身空で、禿げ上がったとすれば、差し違える覚悟で相手の髪の毛も抜くしかない。


「大丈夫よ。さっき見た感じじゃ、銅貨ぐらいの範囲で、頭皮が薄皮一枚、砂になった程度よ。髪の毛も落ちてないでしょ?一応彼女は、強力な『瞳力封じの眼鏡』をかけているから、魔力は漏れないはずなのよ。でも今日のイサベラの話を聞くと、危なっかしいわね・・・。きっと魔力の成長が、意外に早いんだわ。そんなところもイサベラそっくりね♡」


「『~くりね♡』、じゃないですよ!こっち見てたんですよ!?狙われてるじゃないですか!」


「だから、まだ自分じゃ制御できないんだってば。」


 カローナのさらに詳しい説明によると、この特殊属性は通常、幼い時から発現するが、有り余る魔力とは裏腹に、肝心の属性である金魔法こんまほうが、ほとんど使えないことが多い。したがって、魔法による力の制御が覚えられず、常に魔力が流れ出ている状態なため、当人たちは、その能力の制御に苦労するそうだ。


 基本的に、「目で視ること」「手のひらで触ること」によって、対象とさらに自分の体をも石化でき、鍛錬することで、石化と石化解除も自由に操ることもできるようになる。しかし、能力が暴走すると、見るもの、触るものを片っ端から石化してしまう危険な能力でもある。幼児期にゴニアの能力を持て余した彼女の両親は、王立魔法学校に相談せざるをえなかった。


 幸い、王立魔法学校には彼女と同じ石化能力ペトリファクションを持つ先生がおり、イサベラを担当するカローナのように、ゴニアを専門に担当している。ゴニアの掛けている『瞳力封じの眼鏡』も、その先生の手による作品だ。


「微量とはいえ、『瞳力封じ』を突き抜けるなんて、よっぽどイサベラのことを長く見てたのね。友達になりたいのかもよ?」


「え?(ドッキン!)」


 なんだかんだで、イサベラとかなり似た境遇のゴニアの身の上話を聞いた後だと、ほんのりと親近感がわいてしまう。


 図書館で見たときは、嫌われていると思ったが、確かに思い出してみれば、その視線は警戒や侮蔑のまなざしとは違ものだった。


「そ、そうなんですかね?そうなんですかね?」


 イサベラは、しきりにそわそわし始め、無意識に手は髪を整え始める。膝は貧乏ゆすりまでする始末だ。


「・・・とはいえ、『瞳力封じの眼鏡』が、魔力を抑えきれていないのは危なっかしいわね。ゴニアの先生に言っておきましょう。」


「ああ、それはぜひお願いします。」


 たとえ好意の視線であっても、石化されたのではたまったものではない。イサベラは深くうなずいた。


「何を言っているの?あなたも一緒に来るのよ。」


「ふべっ?!」


 話は終わったと油断していたので、思わず乙女にあるまじき声が出た。


「だってあなたの頭も見せないといけないじゃない。大丈夫よ、ちょっと変わっているけど、優しい先生よ。石化能力ペトリファクションの制御も完璧だし・・・。」


 いやいやいや、石化能力のことを聞いた後では、やっぱり怖い。


 今までは、恐れられる側であったのだ。


 それは、死霊術士ネクロマンサーとして人から避けられるのはつらかったが、『恐れられる存在』としては、正直ちょっと調子に乗った気持ちもあった。


 しかしわざとではないにしても、あんな得体の知れない魔力に触れたのは初めてだった。警戒されることはあっても、自分が警戒心を持つ相手に会うとは思ってもみなかった。


「い、一緒にですか・・・。」


 イサベラは考え込んでしまった。


 あのぼさぼさ頭の眼鏡の子、ゴニアは、一人ぼっちに見えた。今のイサベラにはエミリアがいる。


 イサベラは、地下宮で、エミリアに抱きしめられたことを思い出した。


「わかりました。い、一緒に行きます。」

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