悩める学校生活

第14話 狂気と友情

「まあ、とはいっても、未熟なうちにこれどくろを付けてると、すぐに魔力を吸い取られて気絶しちゃうから、まだ先の話ね。現時点で無難なのは、やっぱり骨鎧ボーンアーマーとか・・・。」


「(骨だけはいや!)つ、月魔法で、何か防御魔法はないんですか?」


 イサベラは、可愛いとか、お手軽とか贅沢はこの際あきらめて、せめて死体と関係のない防御魔法を何とか覚えたかった。


「『朧月』とか、幻術系で分身作ったりするのは有るけど、かなりの上級魔法だし、それに月魔法は、死霊術の素質があると、覚えるのに苦労したり、私でも結局は習得できなかったものもあったりするのよねぇ。同じ月魔法の括りの筈なんだけど、理由はまだよくわかってないわ。だからまずは、死霊術の上達が先よ。そろそろ一つくらいは防御魔法が使えてもおかしくないんだから。」


「骨とか禍々しい物じゃないのはないんですか?」


「ない!・・・なあに?防御魔法覚えない気?危ない目に会うのはあなたよ?月仮面さんはそんな危険は絶対にほっとかないと思うの。あーあ、これはもうしばらくは、実戦に行く度にエミリアちゃんも月仮面さんにぞっこんかなぁー?」


「ぐ、ぐぎぎ。」


骨鎧ボーンアーマーは良い魔法よ。触媒の骨がいつも必要だけれど、熟練になれば、強力な魔物の骨を触媒に使えるようになるし、ものによっては使用者の攻撃力も上がるわ。こんな風に。骨鎧ボーンアーマー!」


 カローナが胸の髑髏に手をやり、呪文をとなえると、パキパキと瞬く間に悪魔の頭蓋デーモンスカルは形を変えながらカローナの体を覆っていった。


「ふう。」


 そこには禍々しい魔力を放つ、カローナが立っていた。鈍く黒光りする、枯れた骨の羽を生やした悪魔の骸。しなやかな細身に、かなりの魔力が凝縮されているのが分かり、あふれ出す魔力は、肌でびりびりと感じるほどに、普通のものではないことがわかる。その姿のままカローナは片手で教卓を持ち上げて、ひょいとひっくり返すと、指先でくるくると回して見せる。


「ほらどう?すごいでしょ?」


 イサベラは悩んだ。果たしてこの可愛くない術を会得していいのだろうか?防御どころか、こんなのがダンジョンとかを歩いていたら、逆に魔物と間違えられて攻撃されそうだ。


「ああ♡カローナ先生!」


 突然の声に振り向くと、いつの間にか来ていたエミリアが、教室の後ろの扉からカローナに尊敬のまなざしを送っていた。


「死霊術も極めると、逆にここまで神々しいものになるのですね!」


「あら!わっかるぅ?」


「(神々しい?!)エ、エミリア。気を確かに・・・。」


 何とかは盲目。痘痕も笑窪。蓼食う虫も好き好き。


 イサベラは上手い例えが見つからなかったが、兎に角、ラスボスと言われても違和感のない、この禍々しさを「神々しい」というのは、正気の沙汰ではない。だがしかし、だがしかし、友情を掴み取るためには、ここは狂気だって甘受したい。


「どう?おぼえる気になった?」


「・・・はい、よろしくお願いします。」


 イサベラは斜め下に視線を落としながら、下唇をかんで、悔しそうに呻いた。


「イサベラこれ覚えるの!すごいじゃない!習得したら私にも見せてね!」


 悔しそうに歪んでいた、イサベラの土気色の頬が、エミリアの言葉にみるみると桃色になっていく。友達がすごいって思ってくれるなら、もうダンジョンで魔物と間違えられても良い!・・・かもしれない。本当に「何とかは盲目」だ。


 13歳のお年頃の女の子は、友情のためなら狂気だってへっちゃら!

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