第5話 パーティー結成

「(チラッチラッ)」


「(イライラッ)」


 イサベラは考えていた。


(行っちゃったよ・・・、先生達いっちゃった・・・。どうしよう(汗)。しかもあのおしゃれ女子のたまり場「魔女の茶釜ウィッチ・ケトル」?!憧れの女の子同士の「午後ティー」とかずるい、本当にずるい。ああ、今はそういうことじゃなくて、何かしゃべらないと、そうだ!まずは世間話から・・・、今日の天気?いや、だめだめ。その先の会話を続けられる自身がないよ。「いいお天気ですね」「そうですね」の二言で終わってしまいそう。やばい、やばい、やばい。こっちみてる!ほっぺ赤いのとか、この怪しい黒いローブとか、どう思われているんだろう。・・・ふぁ、でも改めてみるとエミリアさん可愛い・・・。友達になれたら最高だろうな。私の黒いローブと違って緑のローブ可愛いし・・・、そうだ!「そのローブ可愛いですね」これだ!曲がりなりにも女の子同士、服のことなら会話が続くかもしれない。よ、よーし。)


「フヒッ、そのローブ可愛いですね。」


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 エミリアは考えていた。


(ふーん、この子が噂の死霊術の適性を持つ子・・・。あたしより注目されてるのは気に食わないわ。なんか上目使いでにやけながらこっち見てるし、嫌な感じ。生徒一人だから当たり前だけど、色々特別扱いだし、カローナ先生にべったりとかずるい、ディアード先生からも「ちゃん」付けで呼ばれていたし、本当にずるい。あーあ、カローナ先生とお近づきになれるから手を挙げたけど、この子は邪魔・・・。ああでも!カローナ先生本当に素敵!「魔女の茶釜」で伝説のお二人が「午後ティー」!!!この子をだしにして、もっとお近づきになって、伝説のお二人の間で「午後ティー」をするあたし・・・。最高だわ!・・・ん?やだこの子、あたしの服とかじろじろ見て・・・、気に食わない。そしてずるい。きぃー!うらやましいったらないわ。ここはどっちが上かはっきりさせないと。)


「フヒッ、そのローブ可愛いですね。」


「(イラッ)・・・樹魔法の生徒はみんな同じよ。」


「!!そ、そうでしたね。でもあたしなんか黒いローブだから、みんなのローブがうらやましくって・・・。」


「あたしはカローナ先生のローブの色は好きよ。あなたは気に入らないわけ?」


「え?ち、ちがっくて、そういう意味じゃなくて・・・」


 これだけ言葉にとげがあれば、イサベラにもわかった。


 既に嫌われている。


 理由はわからないが、警戒心どころか、明らかにエミリアはイライラしている。でもなぜ一緒に実践に行くのだろうか?訳が分からない。どうしてこうなったのだろうか?イサベラはただ友達とキャッキャウフフして、先生達みたいに「クッキー」なるハイカラな響きのするものを食べてみたひと思ふただけなのに・・・。


 くきゅるるるるっるっる。


 クッキーを食べたいという考えが脳裏をよぎった時、イサベラの体は正しく反応した。そういえば、イサベラは寝てたので、昼ごはんを食べていなかった。


 ばっとおなかを押さえるが、時すでに遅し。


 るっるー。


 イサベラの羞恥心をあざ笑うかのような楽しげなダメ押しの余韻と共に、静寂が部屋を包む。


「お腹空いてるの?」


 エミリアのカバンの中に、「魔女の茶釜ウィッチ・ケトル」の新作クッキーがあるのは、まったくの偶然だった。新作だというから昼休みに買って、食べきれず、そのままカバンに入れっぱなしになっていたものだったが、突然エミリアはひらめいた。もしかして、イサベラに貸しを作れば、どっちが上かはっきりするし、あわよくば言うこと聞かせて、カローナとも会い放題だ。


 エミリアはチャンスだと思った。


「クッキーあるけど食べる?」


「え?え?でも・・・。」


 イサベラは突然の(下心ありありの)やさしさに戸惑っている。


「はい、カローナ先生が言っていたやつよ。『キャラメルバイツ』ですって。」


「い、いいの?」


「どうぞ、どうせ食べ切れなくて、カバンに入れてたやつだから。」


「どうもありがと・・・」


 ん、と突き出されたクッキーをイサベラはおずおずと受け取ると、食べてみた。・・・甘い味が緊張をほぐしてゆく・・・。嫌われていると思ったのに、意外とやさしい?とすでにころころとエミリアの手のひらで転がされ始めている。


「(たべたわね、ニヤリ)じゃあ、食べたら、まずは手引き書を一緒に確認よ。でもその前に、わたしがこのパーティーのリーダーで良いわね?」


「・・・ふぁい(おいしいけど、意外と歯にくっつくな)。」


「(よしっ!)そうだ、どうせならパーティー名も付けましょう。うーん、『キャラメルバイツ』でいいわね。」


 イサベラとエミリアの初実践パーティー、「キャラメルバイツ」が誕生した瞬間だった。

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