011

「最初の事件は2ヶ月前。被害者は内田みつぎ、女、19歳。品川大学文学部宇宙文学科の2年生女子、キャンパス内の学生寮で一人暮らし。最後の目撃されたのは部室での飲み会、追加の酒を買い足しに近所のスーパーへ行ったが、朝になっても戻らず。スーパーの監視カメラには映ってなかった。大学からスーパーまでの道は交通量こそ多いが、ひとけが少なく夜は暗いせいか、今のところ目撃者は出てねえ。翌朝、大学裏の運河に死体が浮かんでいるのを、朝練中のカッター部が発見。死体は身ぐるみを剥がされ全裸。破れた衣服と所持品が手つかずのまま、死体発見場所のそばに放置。強盗の可能性はかぎりなく低い。手首にロープで縛られた痕アリ。頭部に細長い棒状の鈍器で殴られた傷アリ、犯人が背後から殴って気絶させたんだろう。レイプされた形跡アリ。膣内にはなぜかダイエットコーラが流し込まれていた。そして脳天から爪先まで、カラダじゅう穴だらけだった。傷口の形状からして、電動ドリルによるものと思われる。そしてきわめつけに、顔面が地面のアスファルトに何度もたたきつけられて、人相が判別不可能になっていた。おそらく被害者の身元をわからなくして、捜査を撹乱しようとしたんだろう。死因は失血死だ。2人めの被害はその1ヶ月後、被害者は佐々木ナオ、17歳。埼玉県川越市在住。県立楠木高等学校の2年生女子。硬式テニス部所属。校内に硬式テニスコートがないそうで、学校から4kmほど離れた川越運動公園のコートまでいつも通っていたらしい。部活からの帰り、突如便意をもよおしてひとり引き返したのが、彼女が生きて目撃された最後だ。周辺は田んぼだらけで、人通りがほとんどなかった。3日後、運動公園近くの伊佐沼に死体が漂っていたのを、ランニング中のジーサンが発見。かなり死体が腐敗しはじめてかなり臭っていたが、伊佐沼はもともと異臭がヒドイせいか、なかなか気づかれなかったらしい。死体はやっぱり全裸、後頭部に鈍器で殴られた傷、両手首に拘束の痕、レイプのあとダイエットコーラが膣内と、今度は頭蓋骨内にもドリルで開けられた穴からもコーラが流し込まれていた。それから腹部に、頭を殴ったのと同じ鈍器による打撲痕、両手の小指は折られ、右足親指の爪が剥がされていた。仕上げにコイツも顔面が潰されて、見た目じゃ誰だかわからない状態。死因は、脳不全からの呼吸停止による窒息死だ。それと、やっぱり被害者の衣服と所持品は、死体発見現場のそばに残されていた。そして、3人めの被害者は1週間前、塩原ナツメ12歳。西新宿の私立アリアドネ女子大学附属中学校1年生。母親とケンカして家を飛び出し、行方不明。翌朝月曜日、都庁通りの高架下で、通勤中のビジネスマンが死体を発見。前日が休日だったせいもあって、目撃者はなし。前2件と同様、全裸、両手首に拘束の痕、頭部に鈍器で殴られた傷、レイプ後の膣内にコーラ、後頭部と背中に電動ドリルの穴。そして耳と乳首が噛み千切られていた。衣服と所持品も放置。ただし今回はなぜか顔が潰されていなかった。しかもどうやら、犯人がわざわざ安らかな表情にととのえたようだ。犯行の手口から、捜査陣は同一犯のしわざと断定してる。なにぶん近年まれに見る凶悪事件だ。マスコミもセンセーショナルに報じたし、ネット上でも大騒ぎ。被害者をやたら痛めつけるから、犯人には〈拷問官〉なんてあだ名がついた。――さァて、それじゃアご意見をうかがわせてもらおうか、プロファイラー」

「……膣内にコーラっていうと、確か眉唾な避妊法があったわね。炭酸飲料のPHが精子を殺すとかなんとか」

「その方法の信憑性はともかく、さっきも言ったと思うが、今は確実で安全な避妊薬がある」

「なら目的はたぶん、DNA鑑定を妨げるためでしょうね」

 精子を殺せば、DNAを検出できないと踏んだのだろう。加えて、精液をそのものを洗い流す狙いもあったに違いない。

「で、実際どうだったの?」

「もちろん、そんな程度の小細工でごまかされるほど、ALGOSの鑑識は無能じゃねえ。何の問題もなく容疑者のDNAを検出できた」

「にもかかわらず、容疑者はいまだ逮捕されていない、と。それってつまり――」

「ああ、そうだ。犯人のDNAは〈M.I.N.O.S〉に登録されてなかった」

 平坂はあきれてものも言えない表情を作ろうとしたが、やはり上手くいかなかった。とりあえず肩をすくめてみせる。

「で、天下のALGOS警備保障はお手上げってワケ? ――何ソレ? 情けないったらありゃアしない。こう言っちゃなんだけどね、昔はDNA鑑定なんかなくても、警察はチャント容疑者を上げてたのよ」

「もちろん、おれらだって手をこまねいていたワケじゃねえ。足が棒になるまで目撃者を捜しまわったし」

「でも結局見つからなかったと」

「猟奇殺人はカモフラージュで、実際は身近な人間の犯行って線も調べた」

「だけど捜査線上に、それらしい容疑者は浮かばなかったんでしょ」

「犯人はどこかでダイエットコーラを購入したハズだ。〈M.I.N.O.S〉のデータを使えないのは厄介だったが、根気よく調べればかならず見つかるハズ」

「人手が余ってるなら調査に割いたっていいと思うけど、たぶんムダ骨に終わるだけよ。おそらく犯人は、犯行用としてコーラを用意したワケじゃアないわ。それなら安いフツーのコーラを買うハズ。なのに使ったのはダイエットコーラ。しかもこの鑑識の成分分析によると、特定保健用食品のヤツらしいし。たぶん、家に買い置きしてあったヤツを使っただけなんじゃない? それでDNA鑑定を邪魔できれば儲けもの、くらいの認識だったんじゃないかしら。そもそも自分が〈M.I.N.O.S〉に登録されてないコトは知ってただろうし」

 黄泉は苛立たしげに、「おれは、今までの捜査のアラ探しなんざ頼んじゃアいねえんだよ。おまえさんがすべきは、いまだ影も形もつかめねえ犯人の人物像を、プロファイリングするコトだ。まさか今さらできねえとは言わせねえ」

「そうカッカしないでよ。あせらなくても、犯人は遠くないうちにボロを出すわ」

「このさいハッキリ言っておくが、次の被害者が出るまで待つってのはナシだぜ?」

「そう言っているように聞こえた? アタシはただ、犯人がうかつなタチだって言いたかっただけ。べつに新たな犠牲者を望んでるつもりは――」

「いや、それだけじゃねえ。捜査資料には書いてねえコトだが、3人目の被害者が通ってたアリアドネ女子大附属は、アステリオス製薬のの系列だ。もっというと、被害者はアステリオス製薬の重役の孫娘だ。あとはわかるな?」

「ようするに、そのお嬢様が殺されたおかげで、代わりにアタシが生き返ったってコトね。そりゃア何としてもカタキを討ってあげなくっちゃ」

「ついでにもうひとつ言っておくが、失敗すればおれはクビ、おまえさんは貴重な検体としてモルモットにされるかもだ。――話を戻すぞ。で、どうして犯人がすぐにボロを出すと?」

「ああ、それはねェ、この犯人は基本的には秩序型っぽいんだけど、証拠隠滅にあんまり頓着してないあたりが、無秩序型の傾向も色濃い――」

「チョット待て。秩序がなんだって?」

「連続殺人犯は、秩序型と無秩序型の2種類に分けられるの。おおざっぱに説明すると、秩序型が計画的犯行なのに対して、無秩序型は行き当たりばったりってカンジかな。まァ実際には厳密に区別できるワケじゃなくて、混合型のどっちよりかってトコなんだけど」

 写真を見るかぎり、3人の被害者には外見に共通点がある。3人とも長い黒髪で、彫りの深い顔立ちの美少女。身長は低く、体型はスレンダー、肉づきがさほどよくなく、どちらかといえば筋張っている。肌は陶磁器のように白くなめらかで、つぶらな瞳は宝石のよう。どこか作り物めいた、人形みたいなかわいらしさ。自分の好みに合致する相手を物色するのは、秩序型殺人犯の特徴だ。気絶させるために使った鈍器や、両手首を縛ったロープなど、道具を用意していくのも秩序型に多く見られる。無秩序型なら事前に用意せず、被害者の持ち物を使う。

 一方で、秩序型であればなるべくリスクの少ないエモノを選ぶようにするものだが、殺された被害者は順番に若くなっている。コントロールしにくい相手を選んでしまうのは、無秩序型の傾向だ。

「秩序型は捜査をまどわすために、犯行現場や死体に細工をほどこすことが多いわ。例えば死体をバラバラにして、犬に食わせるとか」

「だったら〈拷問官〉は典型的な秩序型なんじゃないのか? 被害者の顔をつぶして身元をわかりにくくしたり、精子を殺してDNA鑑定を邪魔しようとしたり、むしろ証拠隠滅に終始しているように思うんだが」

「さっきも言ったけど、コーラはたぶん単なるついでよ。本気でDNA鑑定を阻止できると信じてたワケじゃないわ。それに顔をつぶすなら、歯型も完全につぶさなきゃア意味がない。指紋だって残したまま。何もかも中途半端なのよ。実際、3人目のときは顔をつぶしてない」

 昔ならばいざ知らず、その程度の小細工で身元をごまかすのは難しい。ましてや今は2066年、犯人とてそのコトは平坂よりずっと理解しているに違いない。

「それなら、なんで〈拷問官〉は顔をつぶしたんだ?」

「無秩序型の犯行では顔をつぶす例がけっこう多いんだけど、これは被害者の人格を否定するのが目的なの。というより、最初から被害者を人間扱いしてない。それとは対照的に、秩序型はエモノを人間として扱うわ。策略を用いたり言葉たくみにだましたり、相手が苦しむのを見て楽しんだりする。でも無秩序型はそんなコトに興味はないから、大抵さっさと殺しちゃうわね」

「いやいや、そういうコトなら、被害者を拷問するのは秩序型ってコトだろ?」

「この犯人は、拷問なんかをしたかったんじゃないわ」

「拷問の必要があったからしかたなく、ってコトか?」

 今では拷問というとサディズム的なイメージが強いが、本来は相手から情報を引き出すためにおこなうものだ。ゆえに嫌々ながら拷問するという状況もありえなくはない。

「違うわ。アタシが言いたいのは、そもそも犯人に拷問のつもりがなかったってコト」

「拷問じゃない?」黄泉は話についていけない様子で、首をかしげた。

「拷問だとすれば、エモノを気絶させてその場でってのは不自然だわ。誰にも邪魔されず、じっくり愉しめる場所へ運ぶハズ。それから、死体の損傷具合を見てみなさい。1人めよりも2人めのほうが、2人めよりも3人めのほうが、明らかに程度が軽いわ。この手の犯罪者は手口がどんどんエスカレートしていくものよ。拷問が目的だとしたらつじつまが合わない」

 3件の起きた日時がもっと近ければ、あるいはこちらが犯行の順番を誤認している可能性もあるものの、今回のばあいその線は薄い。また、そこまでの細工をする犯人であれば、ほかの部分でもう少し周到さが見られてもいいだろう。

「検死でも、どういう手順で被害者を傷つけたのか正確なところはわかってないみたいだけど、おそらく頭部に電動ドリルで穴を開けたのが最初よ」

「ようするに、脳を破壊するのが狙いだったってコトか? でもそんなコトをしたら、いくら拷問しても反応しなくなっちまうじゃねえか」

「だから、それが犯人のホントの目的だったのよ。被害者の脳を破壊して、何の反応もできない、お人形サンにするコトが」

 拷問に見えた傷痕は、少女たちが植物状態か脳死――脳不全に陥り、痛みに反応しなくなるか確かめていたのだ。それゆえ、痛めつける程度が軽くなっていった。徐々に経験を重ねて、脳を破壊する手際がよくなったからだろう。

 シリアルキラーが、なぜ犯行をくりかえすのかと言えば、それはけっして満足できないからだ。やりたいようにやって、いっときは満たされた気でいても、しばらくするとある考えが鎌首をもたげてくる――次はもっと上手くやれるハズだ、と。

「顔をつぶしたのは、苦悶の表情を消すため。ホントは3人目のときみたいに、無表情に整えたかったんだろうけど。相手の表情から心中を読み取る今の社会に、嫌気が差してたから」

 あるいは社会のコトなど本質的には関係なく、もともと人形好きだったのかもしれない。サイコパスは子供のころから歪んだ空想をくりかえし、やがてそれを現実化させたくなって、人を殺すのだ。

「その点、人形はイイ。人形には心がない。だから何の表情も浮かべる必要がない。それに、こっちがアレコレ気をつかってやる必要もない。都合のいいダッチワイフ。だから“僕”は人形を作るんだ。より精巧な、神の宿る人形を目指して――」

「オイ、平坂?」

 ――いけない。入り込みすぎていた。サイコパスの思考をトレースしすぎるのは危険だ。“深淵をのぞきこむとき、その深淵もこちらを見つめているのだ。”

「……このクソッタレに、〈拷問官〉って呼び名はふさわしくないわね……。アタシが名づけるなら……さしずめ〈人形つかいパペットマスター〉ってトコかしら」

「〈人形つかい〉……」

「犯人は20代前後から、せいぜい30代前半。この手の犯行は若くて体力がないと難しいし、それ以上に異常性犯罪者は、歳食うまで欲求をガマンなんかできないわ。殺人は今回が初めてとしても、それ以前に軽度の犯罪を犯している可能性が大きい。例えば、通り魔的に背中から刃物で切りつけて逃げるとか。未解決の事件で、殺された3人に似た外見的特徴の少女が被害を受けていたら、かなり怪しいわね」

 犯行現場は3件とも、死体を遺棄した地点からすぐ近くだ。秩序型は死体を現場から離れた場所へ運ぶが、無秩序型はそうしないので死体がすぐ見つかる。

「品川、川越、そして新宿――。死体の発見場所はバラバラだけど、たぶん犯人の行動範囲が広いワケじゃない。どこか特定の場所でエモノを吟味してたんだと思う。標的を決めてからストーキングして、たまたま襲うチャンスがきたのが現場だった。被害者たちの行動を洗えば、3人が共通して訪れた場所があるハズ」

「もちろん3人とも〈M.I.N.O.S.〉に登録されてる。さっそく解析室に言って調べさせよう」

「エモノの吟味からストーキング、犯行の実施、それを立て続けに、犯人はある程度時間を自由に使える立場にある。きっと無職だわ。まァ、サイコパスは秩序型・無秩序型ともに、仕事があまり長続きしない傾向にあるけど。ううん、ひょっとしたら大学生かもしれない。そういえばアンタ言ってたわよね。〈M.I.N.O.S.〉に登録していれば、ホームレスだってマトモな職に就けるって。逆に言えば、登録しなければ就活が始まらないってコトでしょ?」

「ああ、そのとおりだ。今じゃ身分証として運転免許以上に重宝されてるしな。もっとも最近の学生はほとんど〈ヘッジ〉だから生まれる前に登録されてるし、首都圏の小中学校で実施されてる定期健診はアステリオス製薬が牛耳ってて、そのたびに登録をしつこく案内してるから、イマドキ就活直前になってあわてるようなバカはまずいねえ。いるとしたら、親がよっぽど〈M.I.N.O.S.〉を毛嫌いしてるか、あるいは相当な田舎者か」

「だったら、地方から上京してきた大学生のなかに、犯人がいる可能性が高いってコトじゃない?」

「――そうか。言われてみりゃア確かにそうだ。捜査方針じゃア若いころに〈M.I.N.O.S.〉も〈ヘッジ〉も普及してなかった世代――最低でも30代後半をアタリマエに疑ってたが、おまえさんの言うとおり犯人が若者なら、地方出身の学生って線はアリだな」

 平坂はさらにプロファイリングを進める。「子供のころから精神的に孤立していたタイプ。他人とまともな関係を築けてなくて、おそらく今回の犯行以前にセックスの経験はないか、あっても満足できたコトはない。人形が好きなのは、生きている人間の表情がうっとうしいから。こっちが興味もない感情を押しつけられるのがイヤでしかたない。――ああ、そうか。だからこの犯人をどこかチグハグに感じたのね。本来は秩序型なのに、無秩序型みたいな生きかたを社会に強いられてるんだわ」

 本来、無秩序型は社会から孤立して生きるタイプだ。社交性がカケラもなく、彼らのフツーではない奇妙な行動と言動が、まわりから受け入れられない。そして何より、無秩序型はそもそも知能が低い。他人に合わせる能力を、最初から持ち合わせていないのだ。ゆえに無秩序型は、自分を拒絶した社会を拒絶する。

 逆に、秩序型の犯罪者は社交的でお調子者、クラスの人気者になるタイプだ。ひとといっしょにいるコトを好み、セックスの相手には不自由しない。口が上手く、ひとをだますのが得意で、心理を見抜く能力にも長けている。反面、長続きする相手はひとりもいないのだが。

 しかし、この2066年の社会においては、秩序型のコミュニケーション能力はまったく役に立たない。なぜならイマドキの若者は、言葉を長々と連ねるコトをよしとしないからだ。おのれの気持ちをわかりやすく伝える豊かな表情は、心理を読むのが得意な秩序型にとってみれば、むしろうるさくてしかたないに違いない。そして、表情を読み取るコトに長けたイマドキの若者は、秩序型の作り笑顔から、得体のしれないうさん臭さをみごとに嗅ぎつけてしまうだろう。

 秩序型は社会に対して怒りを抱くコトが多い。おのれが不当な扱いを受けており、不利な立場に置かれていると考えている。才能があるのに成功できないのは、社会がそれを阻んでいるせいだと。だが過去の秩序型犯罪者と比べても、〈人形つかい〉ほど強く社会を憎悪している者はいないのではあるまいか。

 きっと犯人はブサイクなワケでもなく、吃音症でもなく、性器のサイズが小さいワケでもなく、アタマが悪いワケでもなく、むしろイケメンで、流暢におしゃべりできて、女を満足させられる性器を持っていて、頭脳も優れているのだろう。

 けれども、誰も自分のコトをけっして理解できない、理解してもらえないと思っている。

 しかしながら、そこでカンチガイをしてはいけない。あくまで〈人形つかい〉は、社会のせいで犯罪者になったワケではないのだ。この社会が秩序型としての性質に影響を与えたのは確かだろうが、ヤツがサイコパスになったのは、断じて社会のせいなどではない。

 サイコパスは、生まれながらにサイコパスなのだ。物心ついたころから、のちの犯行へとつながる、ゆがんだ空想をくりかえし思い描いているのだ。間違っても同情してはいけない。

 黄泉はいぶかしげに、「しっかし、こっちが頼んでいおいて何だが、そんな人物像に当てはまるクソヤローが、ホントに実在するのか? 非実在青少年ってヤツじゃねえだろうな? 今の段階じゃア、おまえさんの妄想と変わらねえだろ?」

「失礼ね。確かにプロファイリングした犯人像は、長年積み重ねてきた前例から似たものを引いて、想像のなかで作り上げたものに過ぎないわ。あくまで捜査方針の参考程度に留めておくべき。だけどね、統計を甘く見ないほうがいいわよ。サイコパス――特に秩序型は、自分自身を特別だと思いがちだけど、ああいう連中はむしろフツーの人間より、どいつもこいつもありきたりで、似たり寄ったりなんだから」

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