『信長の野望-創造-』統率85武勇73知略91政治86:津軽為信の物語

津軽為信と言えば、『信長の野望』シリーズファンには
「東北に何か能力が高い武将がいるな」程度の認知しか
ないかと思います。

当然、同時期に尾張から京に上って覇権を握った織田信長を
中心とし、畿内周辺でおこなわれていた”天下争い”にその姿は
現れません。

しかし、別に畿内だけが天下だったわけもなく、本州北端に
近い津軽にも民があり、その暮らしを案じる領主がありました。

その人が本作で描かれる、津軽為信です。

本作は久慈氏から大浦氏に入って大浦為信を名乗った頃の
津軽為信がどのようにしてその知略を磨いていったか、
苦しい立場と悲しい経験からより強くなっていく姿を描いて
余すところがありません。

資料とされる『南部根本記』や『津軽一統志』は未見ですが、
作者はそこに現れる異説を消化し、自分なりの津軽為信像を
作り上げたのだろうと感じられます。

それくらい、人となりの作り込みがされており、本作を読むと
実在する人であるかのように脳裏にその姿を描けます。

何しろこれだけの長さなのに、「この人がこんなことする?」
という違和感をまったく感じませんでした。

長広舌を避けてはいますが、読み味は極めて歴史小説的、
和田竜の小説『のぼうの城』や『忍びの国』を好きな人は
入りやすいと思います。
このあたり「なるべく苦労なく読んで欲しい」という配慮と
「歴史小説としての味を出したい」という志向がいい感じに
着地しているように思います。

史料が多いこともあって大変とは思いますが、それからの
道のりも知りたいと、続編を願わずにはおれませんでした。

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