第33話 Sphene

「不死…人類の永遠の夢…俺たちは、ソレを容易く手に入れることが出来る」

 タバコを吹かしながらタケルが水晶みあの顔を見ずに呟く。


 そう…PTDは記憶を持ちながら身体を取り換えて生き永らえることができる。

 命を軽んじられた魂の報復。

 結果PTDとして存在するには堕胎がトリガーになる。

 異相空間に漂い固着し…自我に目覚め、生を欲して…身体を譲り受ける。


「私たちは…その人達の代わりに生きるの…」

「代わりじゃないさ…記録として記憶は譲り受けるが、その人になるわけじゃない」

「戸籍上の同一人物…でも中身は別人」

「そうだ…」

「少しだけ…解った気がする…あの2人が転移を繰り返したわけが…」

「ん?」

「探したんだと思う…自分が存在する理由を…産まれたわけを…」

「だとすれば……長い間探したんだな…」

「見つかったから…眠りについたんでしょ」

「見つかった…突然か?」

「未来を託す…繋げる…それが生命の自然な在り方だと気付いたんじゃないかしら…」

 タケルは水晶みあの肩に手を回し、そっと抱き寄せた。

「M2が言ってた…PTD同士でも子供作れるんだって…」

「えっ?」

「うん…マリアは宿せたんだって言ってた」

「…つまり…キリストか…」

「普通の子だったって…」

「ふっ…そんなもんなのかもな…」

「他に例が無いのは…PTDがお互いの転移を目的とするから自我がコリジョンして上手くいかないって…」

「…本来、孤独な存在だもんな…俺たちは…」

「そうね…でも…出会えた」

 水晶みあがタケルと唇を重ねる…。


 眠る水晶みあを抱きしめて肩ごしに月を眺めるタケル。

(行く末が見てみたい…そう言っていたな…)


 翌朝、旅館を後にしてマンションに戻る。

 水晶みあとタケルは店を辞めた…。

 当面の金には困らない。

 2人は世界を回った。

 遺跡…美術館…人が残した偉業の足跡を辿る様に…。

 人の寿命は短い…ゆえに、時として後世に残る自身の証を生み出す。

 それは…『個』がもたらしたものではない…人類の全てが…歴史が生み出した産物なのだ。

 複雑に絡み合うDNAが偶発的に生んだ偉業。

 そこに至るまでに長い…長い…年月をかけ…1歩づつ歩んだ歴史。

 どんなに『個』として優秀であっても歩みを止めたPTDには生み出せないのだろう…。


『永遠の今』を望んだM2にも…過去に戻ろうとしたマリアにも…きっと生み出せない。


 2人の目に『最後の晩餐』は、美しく…悲しく…映る。


 Sphene…『硬度が低く割れやすいため宝石としての流通は少ない。光の分散率が高いため、カットするとダイヤモンド以上に美しく輝く。石言葉は永久不変』

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