第21話 Sillimanite

 水晶みあが店に出勤するようになって2週間ほど経った。

水晶みあちゃ~ん、次、新規客ロングだけどいい?」

「ん~いいけど…」

「じゃあ予約入れちゃうよ」


 正直、新規でロングは嫌だ。

 初対面のどこの誰かも解らない男と長時間裸で過ごすのだ、気乗りはしない。

 なにより、タケルと長時間、離れなければならない。

 それが何より嫌なのだ。

 今は、とくに…。


「タケル!お昼食べよ」

 決まった時間ではないが水晶みあは客が切れた時間を利用して、お昼休憩を2時間ほどとる。

 務め始めた頃は、近くの飲食店かデリバリーを頼んで事務所で食べていたのだが、タケルが務めてからは外出して食べることが多くなった。

 水晶みあはタケルに色々、食べさせたいようで、雑誌を常にチェックしている。

「今日はね~」

 タケルの手を引いて店を後にする水晶みあ

 明日はタケルに何を食べさせるか…水晶みあの毎日の悩み…幸せな悩み…。


 客との2時間と違い、タケルとの2時間は早い。

 本当に同じ長さなのか?と信じられないほどに早い。

 真剣にタケルに金を渡して、自分を指名させようかと考えたこともある水晶みあ

 さすがに、そんなバカなことはしないが、タケルと一緒にいることが、自身の安定に繋がると無意識に理解しているようだ。

 休憩を終えて、事務所に戻るときは憂鬱になる。

 またタケルと離れなければならないから。

 今日のように予約が入っているときは、なおさらだ。

 戻ればすぐにホテルに向かわなければならない。

 タケルに送迎してもらうのだが、あれ以来、それも怖いと感じる。

 また、同じようなことが起きたら…今度は、命まで…どうしても考えずにはいられない。

 マンションに、かくまっておければ…それとなくタケルに言ってみたが断られた。


「じゃあ行くけど…気を付けてね…事務所に戻るか、車から出ないでね」

 心配そうに、名残惜しそうに、水晶みあがタケルの手に指を這わす。

「あぁ…解っている」

 笑うタケル。

「うん…」


 本来なら立場が逆であろう会話。

 恋人の嬢を心配するドライバーなら解るのだが…。


 ホテルの入り口から客に電話する水晶みあ

「あぁ…指名頂いた水晶みあですけど、何号室ですか?…504ですね、はい、すぐ伺います…」


「指名ありがとうございます」

 部屋で待っていたのは…あの男…。

 お金を受け取って、事務所に連絡する。

「シャワー行きましょうか」

 水晶みあが服を脱ごうとすると、それを止める様に男は水晶みあを抱きしめた。

 服の上から身体を両手で確かめるようにまさぐる男。


「この身体もいいかな…」

 ボソリと呟き…ニタリと笑う。


 その表情に嫌悪感を抱く水晶みあだった。


 Sillimanite…『和名は珪線石けいせんせき、薄くした切片を観察すると、細い繊維(fiber)がよじれあっているように見えることからファイブロライトとも呼ばれる。石言葉は警告』

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