第20話 Pyrite

 ケタケタ、ケタケタとわらう男が2人が暮らすマンションを見上げる。

 黒いスーツに白いトレンチコート細身のシルエットが月夜に不気味に映える。

 男の横に、黒いセダンが横付けして後部の窓が開く

 女性の声。

「Fダッシュ…ここ?」

 フーッとタバコの煙を外に吐き出す。

「ん…」

 とニコリと笑って頷く男。

「そう…案外近くに居たのね…あの闇医者、簡単に吐いてくれて助かったわ」

「サード…僕は初めてなんだよね~顔は解るけど…不思議だね…よく知ってるのに、初めましてになるんだもんね」

「アナタ達の感覚は理解できないわ…フォルダが複数あるんだから…今夜はいいわ…オートロックだし…高層階だしね」

 車の窓が閉まり、女はそのまま去っていった。

 車を見送る様に手を振って男は

「またね♪…近いうちに会いに来るよサード」

 小さく呟いて、コートを揺らしながら同じ方向へ歩いて立ち去る。

「ウ…バ…イ…ニ…ネ…」

 声にはならなかったが口元はそう言っていた。


 ………………

 永遠に漂う意思…己が『個』なのか『集』なのかも解らない。

 捨てる身体ならば寄こせ…得られるはずだった…その身体を。

 意思は石となり…身体に食い込み、脳に留まる紫の液体、無垢なる悪意。

「やりたいようにやればいい」…「遣りたい用に殺れば良い?」

 そう思っていた。

 でも…施設には自由はない…ただ時間だけが過ぎていく…朝も昼も…そして夜も無い。

 いじくりまわされて、観察されて、そして…もう身体から離れろと言う。

「まだ、何もしてない!」


(結局…あそこを逃げ出しても何もしてないじゃないか…アイツはあの後どうなっただろうか、身体を捨てて…俺たちは身体を捨てたらどうなるんだろう?)


 そう…ズレた異相で漂う意思に戻るんだろうか…あるいは無に還るんだろうか。

 ふたたび月を眺めるタケル、自分の存在は…いったい…。


『Fダッシュ』と呼ばれた男が都心のホテルでシャワーを浴びている。

 背中には『PTD No1´』の刻印。

 鼻歌を歌いながら、自身の身体を眺めたり、触ったり、自身の陰部に手を当て、笑いながら乱暴にしごきはじめる。

 アハハハッハ~ハッ…射精すると落ち着いたようにシャワールームを出て身体を拭く。

 テーブルの上にタケルの写真と水晶みあの写真が何枚か無造作に置いてある。


「今度は…どっちの身体がいいのかな~女の方が気持ちいいのかな…」

 交互に写真を見比べてニタニタと笑うFダッシュ。

「どっちでも選ばせてくれるって言ってたよな…ん…言ってなかったかな?」



 Pyrite…『名前はギリシャ語の「火」を意味する「pyr」に由来する。金属光沢を持った黄金色の不透明な鉱物。石言葉は危険からの回避』

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